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豚ダンス野郎と激戦

弾力性のある腹に、踵が弾かれた。

寝転がるデブが睨みつけてくる。

「貴様は誰だあ?」

デブなりに体を丸め、ネックスプリングで立ちあがった。まるでゴムのようで、動ける豚野郎だ。油断はならない。

「気分よく踊っていたのに、シャーラック様の一番弟子である、このアラクーレ・保阿郎(ほあろう)様に、あってはならぬ不届き」

このデブは全能探偵シャーラックではなかった。


「貴様はよそ者だな。ドローン撮影で侵入者はだいたい把握できている。この街に入る以上、何者でもシャーラック様の管理下に置かれなくてはならない。矯正ターイム」

ホアロウと名乗った男が探偵の必需品であるパイプを取りだした。

「パイプは幹部しか持つことが許されていない。羨ましいだろう」

部下たちに言うと、忠実に羨望の眼差しを向けた。よく躾けられている。

パイプを咥えた。煙を吐きだすと思いきや、笛の音を鳴り響かせた。


商店街にいた通行人が集まってきた。店主店員も混ざっている。理髪店で髭が半分剃られた者までいて、みな慌ただしく必死な形相だ。

「80点といったところだな。なかなかよろしい。シャーラック様を愛してやまない住人どもよ。この不届き千万なゴミ害虫が逃げないよう、円を作れ!」

命令通りに素早く動いた者たちによって、俺たちは取り囲まれた。


「おい、勘違いするな、アホロウ。俺は逃げる気ないぜ。アホロウ」

「貴様、エルキュール・ポアロからもじった名を罵りに変えるとは。不届きが億兆に増大したぞ。この保阿郎様の恐ろしさをきっちりと理解してから死ね」

正体が笛のパイプをヒュルヒュルと鳴らしだした。雑音ではなく、けっこう旋律が聴き心地いいのがムカつく。

さらにムーンウォークをしだした。器用な奴だが、何がしたいのかよくわからない。案の定、部下たちは手拍子する始末だ。

そもそも、なぜ探偵が街を支配しているのかが不明だ。おかしな野郎どもだ。


有無を言わず、俺は速攻で近接し、奴の手首を掴んだ。一瞬で終わらす。

「これは?」

袖の下にはブレスレットが嵌められていて、砕けちった。

「おお貴様、軽い方がいいと思って安物つけていてよかったぞ」

デブ野郎が跳びあがり、蹴りをかましてきた。俺はガードしたが、重い蹴りで、円陣を組む住人の足元まで吹っ飛ばされた。

「身体能力が相当に高いな」

見下ろしてくる住人は、俺を睨んでいるようで、怯えが垣間見える。

「シャーラックを見直そうとしていた自分が懐かしい。完全撤回だ」


「どうした? ゴミ害虫。貴様の処刑は始まったばかりだぞ」

アホロウはぴょんぴょん飛び跳ねていたが、(はす)に構えて人差し指を突きだしてきた。

「貴様がなぜこの街にやってきたか、見抜いてやろう。貴様は握力が強い。それが慢心に繋がったな。飼い犬のリードを離すなどあり得ないと高を括っていたが、握っていたのはすっとこどっこい薬玉の紐だった」

こいつは何を言い出しているんだ?

「強く引き、パカーンと開いたら合格と出たが、犬が逃げているのに気づかないとは不合格だ。以来、犬を探して三千里。この街までやってきた。当たりだろ? イヤッサー」

身軽なアホロウが踊りだすと、部下も住人も盛大に拍手をし、口笛も鳴らして喝采した。


異様な光景に俺は呆れた。

神ノ国より、こいつらのほうがオカルト信仰団体じゃないのか。

こんなくだらない話に付き合う必要はない。叩き潰すのみ。

立ち上がった俺は、すぐさま突進し、距離を詰める。

「よそ者、貴様の武器は把握済みだ。それとも他にあるのかっ」

アホロウが華麗な足捌きで横に跳ぶ。俺に触らせないつもりだ。

「逃げてばかりじゃ勝てないぜ」


「何が?」

贅肉の塊が地面を蹴り、動きを直角に変化させた。

手足を広げて迫ってくる。

「ムーンサルトアタック!」

俺はただのボディーアタックを喰らい、またも吹っ飛ぶ。住民に円陣を作らせた理由がわかった。弾き飛ばされ、敵わないと思った者は逃げるわけだ。


「下の下の民よ。何をしている踏みつけろ」

焦った表情で、命令通りにする者たちの足裏だが、痛くはない。俺に期待をしているのだろう。

「待ってろ。倒してやる」

体は丸くて掴みづらいので、手足を掴ませないためのアタック系で来る。あれだけ贅肉が多いなら、ゼロインチパンチも効きづらい。

なかなかの難敵だ。

「貴様、平気で立ってくるなら、それなりに強いと認めるぞ。この保阿郎様は油断しない。つまりは弱点がない。俺は最高!」

「だったらなんでシャーラックの下なんだ?」

「言ったなころやろう!」


丸っこいデブが突っこんでくる。速いが直線的だ。俺も余裕で横に飛んで避けた。

「油断しているだろうが」

住人たちが集まって、肉団子を受け止めた。

「それ、押し返せえ」

豚野郎自らも後ろ向きで跳んだ。

「スクリューヒップアタック!」

ただのヒップアタックを喰らい、俺はみたび地面を舐めた。


住人たちも参加する戦術的円陣だった。手慣れている。

「寝ている者にはこうだ。シューティングスタープレス!」

ただのフライングボディープレスが落ちてくる。

「喰らうか」

俺は地面を横に転がり避ける。

なんとアホロウは腹の弾力で跳ね、二本の足で着地した。俺のほうが立ち上がるのが遅く、飛び回し蹴りが眼前に来ていた。


「さっきと同じ蹴りだな」

俺は頭を下げてかわしたが、空振りしたアホロウはダンスの要領で旋回し続ける。

「旋風脚」

つむじ風と化したデブが向かってくる。

足元が弱い。俺は水面蹴りに持っていく。

「さっきと同じ蹴りだぞ」

豚野郎が問答無用のボディープレスを仕掛けてきた。動作中では受けざるしかなかった。歯を食いしばり、腹に力を入れたが、極上のプレスは厳しかった。肺が押しつぶされ、呼吸が止まる。

奴は軽やかに跳ねて立ち、離れていく。


俺は動けないのに、すぐに攻めてこない。その理由はプレスの威力を最大化するためだった。

ロードローラーの車体屋根まで、部下に尻を押してもらい登っていく。

「ふざけて、やがる。その前に、俺が、動く」

短い呼吸だが整え、束の間で回復を目指す。

「行くぞおお!」

車体屋根の上に立った奴は後ろ向きだ。今度は本当にムーサルトプレスをするのだろう。

円陣が観客のごとく歓声を上げている。見事な躾けられっぷりだ。


「スーパームーンサルトプレス!」

ただのムーンサルトプレスが放たれたが、俺は動けるようになった。と思ったら、部下四人が俺の手足を一本ずつ掴み、引っ張った。

空中で回転した豚野郎が、落下してくる。

「ノブちゃん!」

さすがにロリカが助けようと動いたが、他の部下が立ち塞がった。

「ぐばがはっ!」

俺はまともにムーンサルトプレスを受け、奇声を上げた。苦痛のあまり、体を捩らせて悶絶する。


かたや反動で立ちあがったアホロウも、苦痛に顔を歪ませている。

ついでに俺の腕を押さえていた部下たちも、関節の外れた手首を押さえて苦しんでいる。

俺の腕を掴めば、そういう目に遭うのだ。

「情けない野郎どもだ。ちゃんと最後まで抑えやがれ」

俺は自由になった腕で、両腕によるゼロインチパンチを繰りだしていたのだ。

地面が支えとなっていたので、威力が後ろに逃げない。それでいて最大のカウンターだ。いくら肉が厚くても、内部まで浸透した様子だ。


「やってくれたな」

だが立っていられている。俺の不利は変わらないと思ったら、豚野郎がひざまずいた。かなり効いている。

「ノブちゃん、よかった」

ロリカは部下二人を倒していた。六人のうち、残った部下二人は怖気づいたようで、後退りしていく。

「この保阿郎様に痛みを与えたのは、シャーラック様と銀堂だけだ。小癪な」

「銀堂!?」

ロリカが鋭く反応した。彼女の父親を殺した伝説の囚人だ。

「銀堂がここにいるの?」

「なんだ、シャーラック様に献上するにはうってつけのお嬢さん。銀堂となんかあったのかい?」


ロリカは嫌悪感抱く言葉を無視し、躊躇なく応える。

「父の仇よ」

「そうか。奴がこの街に寄ったのは数年前だ。その後の消息は知らん。ざまあみろ」

「ノブちゃん、そいつにはもう用がないからチャーシューにして」

ロリカはすこぶる残念そうにし、ユウキの元に戻った。やはり彼女は仇討ちをしたがっていたのだ。

「不味そうだから、手足を折るだけにしておくよ」

俺はよろけながら立ち上がる。

「貴様のほうがダメージは大きい。時間がかかりすぎたな。この保阿郎様は暇ではないのだ。ゴミ害虫は瞬く間に、殺処分!」

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