表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/17

ロリカ、母性を見せる。

表通りに出たが、ドローンは見当たらなかった。

「街中ほど監視の目はなさそうだ」

商店街は繁盛しているようだった。道ゆく者たちはみな小綺麗な服装だ。

通行人はユウキの姿を見て、蔑む目をする。

「お姉ちゃん、裏路地に戻りたいよ」

ユウキが肩を縮こませた。

「大丈夫、すぐに綺麗になるから」

ロリカが露天商で無造作に子供服を籠に放り込む。

「衝動買いかよ」

「そうよ。ストレス溜まるんだから」


温泉宿もあった。ロリカはユウキと手を繋ぎ、女湯に入っていく。

「あなた、入らないの?」

「俺はもっぱら川で水浴びだ」

温泉は無防備になるので、俺には合わない。

「じゃあ財布預かっといて」

分厚い財布を放り投げてきた。スタスタとユウキを連れて女湯に入っていく。

「まるで家族だな。尻に敷かれるもんか。いやそんなこと言う俺が嵌まってる。だいたいユウキもお母ちゃんの言いなりみたいになっているぞ。平気で女湯に入りやがって」

路地裏に住む孤児の境遇。

「俺も孤児だった。母親の記憶はない。まあ甘えるのもいいか」


俺は用心棒のごとく、温泉宿の前で仁王立つ。

通行人は目を逸らして通りすぎていく。

「いい傾向だ。絡んでくるなよ」

静かに待っていると、妻と息子もといロリカとユウキが出てきた。

「誰?」

ロリカが女の子を連れていた。

「驚いたでしょ。こんなに綺麗になったわ」

路地裏にいたぶん日焼けせず、土汚れを取ればすべすべ白肌だ。ボサボサだった髪の毛も、滑らかに(くしけず)られている。

で、おめかしの衣装だ。


「女の子だって知っていたのか?」

「はっ? 男の子だと思っていたの? 汚い姿で暴れていたからそう思ったのね。可愛い娘を見抜けないなんて酷いわねえ。ユウキちゃん」

「ほんと、失礼しちゃうわ」

態度もお嬢ちゃんに変わっていた。

刑務官姿のロリカに続き、またもやられた。今回は俺の勝手な勘違いだが。

「ねえブランブランして」


俺たちはユウキを挟んで手を握った。ブランコ状態で少女をブランブランさせながら商店街を歩く。

飲食店で食事をした。ユウキは男の子のようにカレーライスを貪った。

商売は盛況の様子で、天気がいいのも相俟って、非常に平和な街の印象を受ける。


ロリカがユウキにソフトクリームを買ってあげながら言う。

「本当にシャーラックって悪い奴なのかしら」

「どこの街にも貧困者はいるから、この街が特別なわけではなく、縄張り拡大したい勢力が、奴を貶める情報を流布してきたってことか」

「そんな感じ」

防衛には武力が必要であり、攻めこんでくる者たちに惨い仕打ちをしていたとしても、住民を守るための見せしめだったと言える。


商店街を抜けた先の広場では、食料品が山積みにされていた。

「変な服装だわ」

茶色いジャケットに赤い蝶ネクタイ、そして八角帽子。探偵服に見える制服姿の者たちが管理している。

「あれ、週に一回やるんだよ。売れ残りを配るの」

「週一なんてケチね」


俺は頬を膨らませたロリカを諭す。

「無尽蔵に配給したら、商売が破綻するよ。働く意欲がなくなるし、労働者が権力を持つ者の思うがままになり、自由もなくなるだろう」

「シャーラックは貧困をなくせなくても、最低限の配慮はしているということね。それなりにいい奴に思えてきたわ」

崩壊した日本で、民のための自治に勤しむ姿勢があるのなら、有能か無能かは別にして、確かに評価できるのかもしれない。


裏路地に住まうボロ雑巾のような者たちが、湧くようにやってきた。足取りの悪い者たちもいる。子供たちも多い。この街の現状が表に滲みでてくる。

「もっといい思いさせてやりたいわ」

ロリカはユウキに対して目覚めた母性を、未だ溢れださせている。

腕が急に引っ張られた。

「どうした、ユウキ」

少女が俺たちの腕を引き、後ずさろうとする。

「近寄っちゃだめ」

路地裏の住人たちも急に足を止めた。


「お姉ちゃん、おじさん、止まって」

ユウキが強張る顔になった。

「お兄ちゃんはお姉ちゃんと同じぐらいの年だよ」

俺の神経ピリピリを無視するかのように、重たい走行音が轟いてきた。

「ロードローラーだと?」

振り向くと、重い車体を猛烈な速度で走らせていた。躊躇なく食料の山に突っこんでくる。10トンはありそうな車両を止められる人間などいない。

ただひたすら、食料が潰されていくのを見守るしかなかった。


「うわあああ」

ユウキが叫んだ。怯えてしゃがみこみ、震えている。

ロリカがすかさずユウキを抱きしめた。

「大丈夫よ。わたしたちがついているわ」

ぐちゃぐちゃ、と鳴り響く音が気持ち悪い。食品が廃棄されていく音だ。

もったいない。

いくら重いローラーで轢いたところで、物量が多いため、ペシャンコまではいかなかった。ペースト状に引き延ばされている。


ロードローラーを運転していた探偵制服のデブが、颯爽と飛び降りた。

「ぐわっはっはっはっ。ゴミども、今日も生かしてやるぞ。一週間分、まとめてたらふく食え!」

ユウキが強い力でロリカを振り払おうとする。

「お姉ちゃん、離して。食べないと、食べないと、死んじゃう」

ユウキが獲物を狙う獣のように瞳孔を開かせていた。

「大丈夫よ。さっき、おなかいっぱい食べたでしょ」

「死んじゃうよう、死んじゃうよう」

ユウキの反応は本能だ。こんな小さな子が、生きるために必死なのだ。


路地裏の住人たちは、大人も子供も、目をぎらつかせ、地面を這いながら、潰れた食料を食い漁っている。

「いい光景だ。ゴミども、虫ケラども、クソども。生かされる喜びを胸に置き、感謝するがいい。ぐわっはっはっはっ」

膨らんだ顔に膨らんだ腹、膨らんだ耳たぶ。贅沢な肉をたっぷりと蓄えたファットマンが、豪快に笑い、あげくステップ軽やかに踊りだした。

先に到着して管理していた配下たちが、手拍子でリズムをとっている。

「這いずる虫ケラ、価値なきゴミムシ、だが優しさ溢れる平和な世界は、クソ虫でも生かすっす。はっ、いやっ、ほっ」

その踊りっぷりは真剣そのものだ。


放心して貪る者。涙を流して喰らいつく者。目の前の食料を奪い合う者たち。言っては悪いが獣の様相だ。

「ユウキ、落ち着いて、落ち着いて」

「お姉ちゃん、こんなの嫌だ。もうこんなの嫌だあ」

ロリカは泣きだす少女を強く抱きしめ、自分も泣きだした。

「普通に食べさせればいいものを。ノブちゃん、わたしもこんな光景見たくない」

探偵制服のデブが這いつくばる者たちを蹴りだした。腹を蹴られ、吐きだしている。

「こうやれば何度でも食えるぞ。ぐわっはっはっはっ」

現状は惨状へと変わりだした。光景が悪化していく。


俺は掌に指が喰いこむほど、拳を握った。

「ユウキ、あいつがシャーラックなのか?」

「知らない。わたし、子供だもん、何も知らないもん、悔しいよう」

「そうか。どちらにしろ、あいつには地獄を見せないとな」

食事の邪魔をしては悪いと思い、様子を見ていたが、食事中の人々を蹴り、踏みつけるのなら、躊躇はいらない。

「ロリカ、ユウキに見せたいようで見せてはいけない。奴の手足が折れるところを」

「きちんと抱きしめとく。ユウキ、わたしの胸に顔を埋めて」


俺は手足をぶらつかせ、筋肉を温める。

ブタ野郎は踊りながら蹴り続け、踏みつけ続ける。

「ブーと鳴け、ブーと。貪る豚はブーブー鳴くもんだぞ。オラッ」

子供にまで足を伸ばしていく。

俺は腰を低くし、足音の鳴らない走り方で詰め、水面蹴りで軸足を払った。豚野郎の重い体が宙に浮き、背中から地面に落ちた。

「いでええ」

そう奇声を上げるが、潰れた食料がクッションになり、怪我なしで澄んだようだ。

「いでええ、じゃねえだろ。貴様がブーと鳴け」

でかい腹に踵落としを喰らわせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ