第三十七話 天厨
「教えてやるよ…これが、天厨だ」
二重固有結界…。
すべてを包み込み、その範囲は無限大。
そして、固有結界は術者の心象風景で現実世界を塗りつぶし、内部の世界そのものを変えてしまう結界のこと。
欠点もある。それは、結界の形を思うままに決定できないこと。結界の内部の世界の法則は術者の心象世界を体現するが、術者のただ一つの内面を形にするだけであり、それを術者の意志によって手を加えて自由にはできない。ゆえに、空想具現化のように思うままに世界を変えることは出来ず、必ずワンパターンになるという。
俺は、その中でも二重固有結界という実際には存在のない固有結界。
欠点をすべて取り除いて、自分だけの絶対空間を作り出す。
これは、歪む事はないし、自己制御できる。
ただし、二重固有結界は、時間制限がある。
だから、あいつらが来る前に…やらなければならない。
今のあいつらじゃあ、こいつに勝てやしない。
「残念だが、このような物で包み込もうとも、俺は倒せやしない、わかっているのだろう…?輪」
「…、いや俺の『天厨』にハマった奴は確実に永久の監獄に落ちた、お前も何れにせよ、落ちるんだよ」
しかし、あいつは目の色一つ変えずに、俺に右の人差指を向ける。
真っ暗な空間に
、その人差し指は光出す。
「光の螺旋階段」
翳す指先から、複雑に絡み合う二つの閃光が縦横無尽に駆け回る。
それは、この暗黒を徐々に切り裂き、そして…俺の胸元を貫いて、縫うようにして何度も何度も心臓部を抉り続ける。
流石に、ここまで来ると、もはや自分が何をされているのかすら、抵抗もなく感覚もないただの蝋人形と化していた。
「グボァ…クグゥ…ァアアアアァァァハァ・・・ハァアアアア!」
言葉にならない言葉をただ永遠と漏らす。
二重固有結界は、徐々に罅が入って、そのままガラスのようにバラバラと音を立てて崩れる。
俺は…もう、力を失ったんだ。
次第に、視界も暗くなってゆく―――。
天厨は…お前に預けたぞ…ソウ・・・イ…。
「最後は、お前らしく粉々になったな」
輪の姿は既にそこにはなかった。
あるのは、白く光る砂と銀色の月のペンダントであった・・・。
輪の最期。
天厨を託すとは…!?
次回、終幕…!!!