第三十五話 andante times
「リズウェルの家は、昔から隠れ屋敷の別名として使われているからな。そもそも、この街にリズウェルの家は沢山ある。それも含めているんだろう?」
「ええ、そうよアユラ。ソウイ、貴方も少しはアユラを見習って、地理と歴史を学びなさい」
「うるさい…なぁ…」
確かに、僕はこの辺の事をよくは知らない。
それに引き換え、同じように過ごしていたはずのアユラは詳しい。
地元でもないので、ここまで念入りに調べ上げているのは、ある意味すごいと思えた。
そこを逆手に取られて、僕は何も言い返せなかった。
「とにかく、計画は一応伝えた。以後の通信は、なしだ」
「さっきのアギトのような目に会うのはごめんだからな」
「アギト…?あいつが、何かしたの?」
「ああ、私たちをだまして襲いかかってきた。」
「そうなの…、ならなおさらねそれに、アユラちゃんはまだ私の事を信頼できてないみたいだし、丁度いいわ。そっちは、信頼のできる彼氏と一緒に行動しなさい」
「言われなくとも、そうするわ」
歩きながら、僕を除いたここにいる全員が会話を続けている。
完全に僕はおいてけぼり…。
まあ、別に気になんて…してないんだよ!?
「というか、僕を置いてけぼりにしないでよ」
「なら、自分から入ってきなさい。貴方いつまで子供でいるつもり?今自分の足で動いてないで、他人に背負られたって、何の進歩もないわ」
「今、そんな事を言わなくてもいいでしょう!?なんで、それをセツナさんに言われなきゃいけないんです!?」
彼女は、さぞ冷たい眼差しを僕に浴びせたのだろう。
僕は、その瞳を見ずとも体がゾッとした。
一言でいえば、孤独感。
それを実感させることで、確実にわからせようとしたのかもしれないが…。
「まあ、待てよソウイ」
「アユラ…でも、僕だって…」
「僕だって…なんだ?言ってみろよ」
アユラも、一変する。
何だ…何だってんだ…この二人…さっきまでと全然違う…。
(--- 夕縁の苑の上 ---)
「それで、俺をどうしようって…?」
「始末する、そう言った」
「できるかねぇ…あんたによぉ」
「軽い口を開けるものではないな、輪」
一方そのころ、既に発見された輪は、オーヴァンとギルガメッシュによって挟み撃ちにされてしまっていた。
「やれるか…?俺を」
「心審判…か?だが、効かぬよ何せ 2対1だからな」
輪は、汗をかく。
そう、心審判の弱点は、まず一日に一回という事と対象は一人である事だ。
複数人への心審判を使う事ができず、さらに心審判使用後は輪の寿命を減らす。
固有結界でも、この原理は覆らない。
固有結界の所要範囲は人それぞれではあっても、だれしもが無限にそれを使う事ができない。
その無限が尽きるという事は、死を意味するという事だ。
「ソウイたちが来るさ、それまで…相手してやる、光栄に思えよそして崇めろ…天厨!」
直後、その周囲に膨大なる魔力によって、固有結界に重圧をかけた固有結界…二重固有結界が作られる。
その形は、外見からは見えず、さらに外部からの邪魔はない…。
「固有結界の使い方…教えてやるよ