第三十二話 lose to battle
「死ねぇえええええ!!!」
「フッ、甘いわ」
アユラの攻撃をさらりと避けると、籠手を左手で叩き剣を落とさせるとアユラの首元を叩いた左手でつかみ上げる。
まったく無駄のない動き。容赦のない攻撃…。
セツナさんは、そのままアユラの体を宙へと上げる。
どれだけの力を持っているというのだろうか…。
しかも、両手を使わず片手…。
アユラはたしかに、30kg代と軽い方ではあるがそれでも女性であれば、両手でもきついはず。
それを軽々しく持つとすれば…。
「うぐぅぁああぁぁ...」
「アユラ!」
動きが鈍る。
どうやら、僕自身が脅えて足を震わせていたらしい。
まったくもって、意思とは逆の動きをしてくれる。
苦しむアユラをただ見守ることしかできないのか…?
いや、そうじゃないだろう…今自分にできる事、それはなんだ?
アユラを…守る。ただそれだけのために…今できる精一杯の努力と根性を見せるときなのではないのか?
疑問形…いやこれは命令形で言うべきだ!
僕、動け!今すぐに任務を遂行しろ!ここでくたばっては、示しがつかないぞ!
誰にとは言わない、今ここでそれを…。
「ソウイぃ…」
哀れ目の彼女。
待っててくれ…僕が君を助ける…。
動け、今すぐに、動くんだ。
「どうした?ソウイくん早くしないとアユラが死んでしまうぞ?」
うご…動け!!!
「うぉおおおお!!!」
ようやく動く。
足が、まるで自分の足でないように感覚などない。
ただ、進む。
体の位置がずれている事を悟る。
ゆっくり、いいや急速にアユラの元へと届いている。
「アユラを…離せぇぇぇええええ!!!」
一気にそのまま体ごとタックルをする。
これならば、表面積的にも当たるはずだ。
「フフ、そうねその手もあったわね…なら」
セツナさんはパッと左手をアユラの手首から話して回転しそのまま回し蹴りを僕へと繰り出した。
僕の体制こそ、無防備であったためにその攻撃は思った以上に人体に損傷を与えたようだ。
そして、再びアユラへと標準を変えて今度はアユラの顔を持って、そのまま地面へと叩きつけた。
「がはっ…ぐぅぁあああぁあああ!」
後頭部を強く打ったらしくそこを抑えている。
さらに、若干血も出ている。
そして、何よりも顔が潰されようなのか、歯茎をむき出しにして痛みを表現している。
アユラらしくない…わけでもないのだが・・・。
顔は、憎しみで歪んでいた。
「さて…少しは落ち着いた?」
「そうだな…」
セツナさんの問いに、アユラは応える…。
「今のあなたが落ちつくべきだと思うんだがな?」
それは、セツナさんの後ろにいた。
成程…幻想か。
「へぇ、できるようになったんだ…でも」
セツナさんは、言葉を続けたままいつの間にかアユラの後ろにいた。
それをアユラはやっと気がついたのは…彼女が次の言葉の先頭を聞く直後であった。
だから、間にあわなかった。
「私も、できるのよねぇ…投影っていうんだっけ?」
「う…そ…」
50cm程度の刃物がアユラの胸元を貫いていた。
僕は…アユラを守れなかった。
「アユラ…セツナさんどうして!」
「そうね…私も、同じ質問をあなた‘たち‘にしたいわ…どうして、こんな事をするのかしら…?」
彼女は、たちという言葉を強調し、僕に向かって言う。
しかし、何だろう。
違和感がある。
たち…?
「そうだな、まずは…そちらの要件から聞こうか」
ふと僕は後ろを振り向くどう考えてもその声は…。
「リーさん!?」
「輪、またあなたなの…?」
「何の事だ、それに俺としてそちらの横たわっている娘について話がしたい…これはどういう事だ?」
こっちが聞きたい。
リーさんは今の今までどこにいたんだ?
それに、なんでこんなところにいる?
そんな疑問が僕の思考を狂わせる。
いや、今はそれよりも…アユラが。
「リーさん、アユラが!」
「…投影までして…俺の知り合いに何手をつけてんだ」
「彼女からの喧嘩の御誘いに乗っただけよ、別に故意ではないけれど仕方ないじゃない、致命傷程度負わせただけよ」
「勝手な事をしてくれるじゃねぇか…」
「リーさん!アユラが、致命傷ならまだ治るかもしれない、今すぐに手当てをしないと!」
僕は、二人の会話を遮るために、リーさんの両肩を両手でつかみ叫んだ。
すると、リーさんはようやく気がついたかのように、僕の方を見る。
「ソウイか、こいつはセツナ。俺の友達だった奴だな、こんな事をするやつではないのだが…」
「説明はいいです、ともかく今は最優先にアユラを…」
「そうだな…俺は、セツナを止めておくから…」
リーさんは、そう言ってセツナさんと講義をし始めた。
その直後、暗闇の底から三人の男が現れた…。
「よぅ、久しぶりじゃねぇかよ…輪!!!」
「成程…これが、お前の仕組んだ罠という事か、セツナ!!!」
「ちっ違う!違うよ輪!そんな…」
セツナさんはパニックに陥った。
無論僕もだ。
何の事だかもわからず、ただただ乗せられたようである。