第三十話 幻想壊し
「…急いで、止めなくてはな…」
「そうね、アレは絶対に止めなくてはね」
私が一人で一人二役をしているようにも思えるが、実際には私自身がすぐ隣にいるような感じを私はする。
街は、彼らによって破壊されている。
しかし、それは私たちが見る限りでは起こっていない事。
これは、ソウイの幻想なのだ。
「しかたない…ねえ、力を貸してくれないかしら?」
「ああ、そのつもりだ」
手足をブラブラと動かし、アユラとアユラは互いの両手を掴んで上へと上げる。
「「幻想壊し(イマジンブレイク)!」」
アユラの握った手が光りだして、その光は天空へと走り、そして空に罅を入れる。
その罅は徐々に広がって行き、空を覆い尽くした。
「グルァアア!!!」
ソウイが苦しむ。
己の幻想を他者によって破壊されてしまうために自我が保てない事に繋がり、またソウイの今の人格をも崩してしまう。そして、ソウイは…幻想を崩され続ければ、己を取り戻す。
そう、アユラは確信を持っていた。
「グルゥゥゥアアアア!!!」
ソウイはひどい頭痛と共に地面に跪く。
痛みを抑えようとしているのか、地面にでこを叩きつけている。
しかし、それは逆に痛みを煽るだけであり、ソウイはそれに伴い苦しんでいた。
脳天からは大量の赤い液体が零れおち、見るからに傷を負っている事は明確であった。
「我慢しろ、ソウイ…」
「ぐっうっぐぁあああ!!!あっあぁあああ!」
ソウイの声が、段々と元の人間の声へと変貌している。
もう少し、もう少し…アユラはそう思いつつ、幻想壊しを続ける。
そして…もう数分経った頃にようやく、幻想壊しは完成した。
「これで…終わり…」
ソウイは、その場に倒れた。
目は半開きしている。
口からは、粘液なるものも出てきている。
つまりは…完全に気絶をしたのだ。
「止まったか…?」
その時、地響きが鳴った。
アユラ、アギト、そしてその場で倒れたソウイは地中に落ちた。
(--- ポファル大聖堂 ---)
「うっく…うぅ…あぁ…アニッ…キィィィ…」
デルタは、白目となって…冷たくなっている。
ポルカは、泣き崩れていた。
地響きはその時に弐度目を迎えていたが、それを知ってか知らずか無視をしているのかいなかは定かではないのだが、気が付いていなかった。かのように、死んだデルタに抱きついて離れない。
それを、いつの間にかいたリーが見ていた。
同じく、涙を流していた。
「ねぇ…、お兄ちゃん…起きてよ…またお話しよ…?もう、兄貴なんて…言わないから…お兄ちゃんの嫌がるような事しないから、ねぇ…ごめんね…ごめんってば…ねぇちゃんと返事しなさいよ…起きなさいってば!おい!聞こえてんの!?起きろよ!起きろ!起き…て…よ!なんで…なんで起きないの!私が起きろって、いっつも起こしてあげたらちゃんと一回で起きれるでしょ!?なんで、なんで起きないの!ちゃんと聞いてるんでしょ!?寝たふりなんでしょ!?わかってるんだからね!そんな顔したって…ちゃんと…く…うっ…あぁ…うぁあああああ」
「やめておけ…ポルカ…わかっているんだろう…?デルタ…いや、吉久はよくやったさ…幻想太刀を最後の最後まで振るってな…」
「違い…ます…兄は…お兄ちゃんは、まだ死んでません!生きてるんです!ちゃんと、ここに``存在``しているんです!勝手に…勝手に殺さないでください!私は…知ってます、私の中の兄は、ちゃんと生きているって…だから、生きています!今は寝ているだけです!ここにいる兄は未だに眠って、グウグウと…いびきを…かいて…るん…です…だか…ら…くぅ…」
「もう、わかった…わかったから…何も言わないでくれ…」
リーは、そっと…ポルカの肩に手をおいて、そういうとポルカはそれを見て…再び兄へと顔を向けて…そっと…微笑んだ。
「御兄ちゃん…おやすみなさい」
最後は、彼を笑顔で送りたかったのだろうか?
頬を赤らめ目を充血させ、唇を強く噛みながら彼女はそう言った。
もう、彼女にはわかっていたのだと思われる。
彼は…眠ってしまったのだと…。
その時、3度目の地震と共に大きな音が響いた。
「な…なんだ、今の…」
「行ってみましょう」
「ああ」
リーとポルカは、デルタをその場に寝かせて音源を目指した。
いよいよ、終幕…のはずが、まだまだでしたね。
やっぱり三十話を超えました。
ええ、次回からはSATを優先的にしますね