第十七話 catch of striker
大きな空を、手のひらいっぱいで仰いでも、決して動こうとはしない雲。
私は、小さな公園でただ一人、黒雲の空から落ちる無数の水滴と戯れていた。
どうも、私は水が好きらしい。大きくないし、だからと言って相手を傷つけようともせず、むしろ優しく包み込んでくれるお布団のようだ。と、思っていたらしい。
だから、私は黒雲を退かそうなんて行為を途中で放棄し、象さんの滑り台の先端に座って、雨を手のひらに溜める。
傍から見れば、まるで家出をして悔んでる餓鬼のよう。
しかし、こんな大雨の中、こんな田舎寄りの小さな公園に来る人などいるはずもないから、人目を気にせず、一人でめいっぱい遊んだ。
家なんてない。最初からない。作るとするのなら、いや住んでいると考えるのなら、この象さんの滑り台の下。
大雨が止んだら、ここから見える街に掛る虹色の橋を見て、また食料を調達しに行く。
それが、私… 卯月 香魚良の人生だった。
一週間分の食料は、特に食パンの耳一切れの時も不思議ではない。
パン工場で生産されるパン生地をありがたく頂戴するのも至難の技に等しく、こんな日課としてしている私でも、たまにバレることもある。
この街は風鈴の街とも呼ばれ、人々の家々には風鈴が一つ飾られている。
夏には暑さしのぎに、冬は寒さからの加護のために。
つまりは、日本の沖縄にある屋根の上に乗っかってるアレのようなものだ。
風鈴は、独特のチリリンと言った涼しい音が特徴的だが、この風鈴は違う。
風鈴はワイングラスを指でこすったような音が鳴る。
その音を加護音と呼んだ。
「ソウイ、おまえに初めて会ったのは…あの公園だったな」
「…なんで今更確認するんだよ」
「それもそうだな…すまない」
「なぁに、謝らなくていいアユラがただ何も考えずにこんな話をするはずがない、それでその話と…親心とは何か関係があるの?」
「そうだ、確か先ほども言ってたな…アユラさん、あなたの言う親心…どう考えても、リー様が父親だとしか聞きようがありません」
リー様って…まあ、いいんだけども…えと、僕たちは一度美術館を出ると、すぐに宮殿へと戻る。
その途中での話題が、アユラから持ちかけられたこの話だった。
どうも、アユラとして言いにくいことなのか、口をとがらせる。
さて…、どうしたものか…。
ポルカちゃんは、一人近くにあった自動販売機にジュースでも買いに行ったのだろう。
僕のすぐ横を通って、その自動販売機へと向かった。
アユラは、立ち止ったまま何も言おうとはしない。
ポルカちゃんが、頭 虹山という渋い缶コーヒーを買ってくる。
変なおっさんの顔と、頂上に雪が積もった山が、2,3個描かれているのが特徴だ。
ちなみに、これは1.35%微糖というかなり中途半端な糖の割合が人気を把握している。
僕もファンの一人だ。
さて、ここでアユラがようやく口を開いた。
「…、クソ親仁が…リーが、あんたを守ろうとするのは、彼が列記とした父親だからよ…、ただしその子は民家に捨てられたらしいわ…一人では育てられないってことでね」
「リーさんが…父親?」
「初耳…という事にしておきたかったのだが、うちの兄貴がペチャペチャクチャクチャとやたら昔話を長々とするのだから、いい加減聞きあきてきたころだ、しかしそうなるとそれを知らないソウイは…お前たちは、たしかリー様と一緒に一緒に暮らしていたと聞く…その中でもソウイの方が長いとも聞いていたが…ガセか?」
「え?いや、たしかにアユラよりも長いことはたしかだよ」
「それなら、ソウイの方がしっていて当然の情報のはずだが?お前、相当信頼されてないな」
言われてみれば、そうかもしれない。
僕自身、自覚はなかったかもしれないが、考えてみれば、そもそもリーさんの事を詳しくは知らない。
それどころか、リーさんが父親で、子供もいたことも知らなかった。
じゃあ、なんでアユラは知っている?
信頼があるからか?
「アユラ、なんでアユラだけは知っているんだ?」
「まあ、色々とあってな」
そうやって話しているうちに、もう宮殿はすぐそこにあった。
詳細を言えば、町はずれ…とは言えない街の中心から西の湖に建てられている。
そこへ行くには、大きな橋を渡らなければならないため、外部から入ろうとするととても大変らしい。
それと、イヴさんやアダムさんがこの湖には肉食系の魚がいるらしく、実際死人も出たということらしい。
そのために、橋を立てたんだと。
…しかし、僕らがその宮殿に最初に入った頃とは全く別の…いや、すでにボロボロに崩された城の悲惨な残骸が残るだけだった…。
「リーさん…りーーーさーーーん!!!」
僕は、叫ぶそして二人もリーさんを探す。
瓦礫の山に埋もれてはいないか、またはもう既に…湖の中へと放り込まれたと考えることもできる。
リーさんは既に一度心裁判所を開いてしまったために、裁判所を使えない。
あの後、一体何があったのだろう…、いや、そもそも僕たちが居ない間に、どうしてここまで…。
超頑丈に作られていたと聞いていたが…。
それから数時間、日が山に隠れようとしている頃、僕たちの捜索は中断された。
見つかった人はおらず、イヴさんアダムさんデルタさんリーさんの四人の消息は途絶えた。
リーが行方不明となり、三人で行動することになったソウイ、アユラ、ポルカ。
18歳、19歳、高校生(実年齢は小学生)という大人に近い年齢の彼らは一先ず、家へと帰る事に…。
しかし、お金など持ち合わせていなかったため、急遽 ヤヲ街でバイトをすることに…。