第十話 rose of lock
今回は、リーの回想です。
(--- 約18年前 ---)
俺は…。
懸けに一度負けた。
そして…失った…大切な…家族を。
「くそっ!どうして…どうしてぇええええ!!!」
「…クソッ!アイツら…ゆるさねぇ!!!ぶっ殺してやる!」
「…」
目の前には、水がしみ込んだ…白い布。
その中には…俺の嫁…爽が眠っている…。
当分目覚める事もない。だから…目覚めるまで俺はここにいるつもりだった。
彼女が…目覚めて、 おはよう と一言言ってあげる事が、今彼女にしてあげられる唯一残されたことだと思っていた。
俺はそのころ高校3年を迎えていた。
彼女は高校2年。
言うならば、不純異性交遊と言ったところか、俺たちは20歳も越えずに結婚し、子供もできていた。
…そして、その矢先にある事件が起きた。
今に至っていたのは、その事件のせいであったが、それについては俺が悪いものだと思っていた。
俺には…仲間が居た。
俺たちはそれを月心と書いて つきのこころ と呼んでいた。
それが知られることとなったのも、今ではそう大層な辛して言える立場でもなかった。
いや、知られていてもごくわずか。
俺たちの高校で流行っていた、 ‘戦争‘ から始まった、チーム戦。
そこからが、俺たちの…月心のはじまりだった。
「…俺は…お前が、好きだ」
「え…?」
月日が経ち、月心も名を知られ、全面戦争で俺たちよりも強いと言われていた太陽に下剋上を果たし、安眠を取るかのような平和な毎日が続いた。
頂点に君臨したとして、全面戦争を放棄。
俺たちは、それを行い、忽ち高校にはチームが作られていても、全面戦争はなくなっていたが、別にそれが全員が仲良くなったと言われると、そうではなくて…。
言うなら、一つ一つの塊…つまりはグループという物ができていた。
そんな矢先、俺はある女子に恋をした。
茶髪のロングヘアーに、クリクリとした目に惚れたのだ。
それが、爽だ。
俺にとって、彼女は太陽かもしれない。
…だが、彼女が太陽なら、眩しすぎたのかもしれない。
月が消えると、太陽が現れ、太陽が沈むと月が昇る。
その原則を崩されたくないかのように、高校の階段を一つ下りて行くと、その場所に彼女が後直ぐに通る。
俺はそれに気が付けず、ただ彼女を探していた。
すぐ後ろにいたのに、月には…見えない。
暗雲が広がって、そして大雨が降り注ぎ、彼女はそれを見て一つ溜息を溢していた。
俺は、そんな彼女に声をかけ、傘を手渡した。
無論傘が二つあったわけじゃなく、ただ…月を太陽が照らしてくれれば…それだけを願って渡したのだ。
実際、それがどう取られたのか見当はつかなかった。
翌日…俺は傘を返してもらった時に、屋上に呼び出して、告白した。
彼女はそれを聞くと、キョトンと首をかしげていた。
しかし、そのあとすぐに言葉を理解したのか、首を縦に振って…
「はい」
と笑顔で返答してくれた。
俺は…心の中で泣いた。
悲しみや絶望…暗闇から救いの手を差し伸べてくれた女神が、今は近くにいると知ったからであった…。
「ねぇ、輪私ね…子供ができたの」
その報告を…俺は快く受け止めた。
家族に反論はない。いや、むしろ俺が怖かったのか、できなかったらしい。
俺が何かしたとは思えなかったが、ただただ了承の有無を言わず、黙ってその場を去ったのだ。
それが了承したとはとらえてはいないが、障害ならばなんとか説得する覚悟であったが、それからというものそのことに対しては一切口を挟まなかった。
だから…俺は正式に付き合った。つまり結婚をしたのだ。
晴れて、月と太陽が重なった。
…しかし、月と太陽が重なる時、月食が起きた。
それが、ある事件。
全面戦争を放棄したはずの奴らが、俺たちを襲って来た。
最初は何もしなかったが、やがてそれを悟ったか、よりにもよって、爽をさらったのだ。
そして…俺たちは本気で奴らを倒しに行ったが…やられてしまい、爽は…。
「く…そ…さ…やか…」
目から零れるそれは彼女の顔に触れた。
涙を拭いてもらおう…なんて思った。
…でも、やはり彼女は目覚めない。
月食は…とうとう終わることはなかった。
それから、高校卒業の時に、俺は月心を解散。
就職先も見つからず、途方に暮れ息子すらも守れる余地はなかった。
だから、俺はある民家に置いた。
「…元気でな…ソウイ…」
そう言い残し、俺は名前を リー とかえ、心裁判所という会社を作った。
悩み、相談なんでも受けるぞと、どこかの万屋をイメージさせるかのように…。
(--- そして、現在… ---)
「…成程な、お前が…」
目の前にいたのは、かつて俺が作った月心にいた親友…釣瓶 吉久だった。
…だから…判決を…有罪にはできず、終了した。かつての…仲間を傷つけることなど、俺には到底不可能であったからかもしれない。
…そして…今頃思いだした…。
ソウイが…俺の息子である事を…。
このことは、やはり今は話しておくべきだとは思わない。
だから…あえて、このことを内密にしようと思った。
実は、2000字もあります。
リーの回想だけは、一話でおさめたかったのです!