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公式企画参加作品

ツンデレラ

作者: 聡子

 今から25年前、娘が生まれた。

 妻は泣いて笑って喜んで、

 わたしも泣いて笑って喜んだ。

 雪がひらひらと舞う、クリスマスの日だった。


 娘が一歳の時

 わたしと妻は最初のプレゼントを贈った。

 妻の大好きなペンギンの、

 娘の顔と同じ大きさのぬいぐるみ。

 その時からこのペンギンのペンちゃんは、

 娘の一番の親友となった。


 娘が二歳の時だった。

 妻が天国へ旅立った。

 娘は理解してたのかしていなかったのか、

 ペンちゃんをぎゅっと抱きしめ、

 冷たくなった妻の頬をずっとずっと撫でていた。


 娘が三歳の時だった。

 ご飯の時もペンちゃんを放さない。

 汚れてしまうから取り上げると、

 『パパ だいちらい』

 泣いて、喚いて、暴れて、暴れて…。

 部屋の隅でいじけて眠る。

 だから次の日、

 ペンちゃんの専用のイスを用意した。

 『パパ らいちゅき』

 わたしの足に抱きついて、

 ペンちゃんの顔はケチャップで汚れなくなった。


 娘が四歳の時だった。

 『パパ イヤ』

 一緒に幼稚園に行くのを嫌がった。

 だけれど、友達の帰った星空の時間になると、

 『パパ おてて』

 いつも一緒に手を繋ぎ、二人で仲良く帰路に着いた。


 娘が六歳の時だった。

 『パパきちゃダメ』

 授業参観を断られた。

 だから、見つからぬようこっそり行ったのに、

 『パパどうだった?』

 わたしのお尻に抱きついて、

 桜色に頬を染め、はにかみながらそう聞いた。

 

 娘が八歳の時だった。

 『パパとお風呂に入りたくない』

 ショックだった。

 だけれど娘は決まっていつも、

 『パパ早く寝よ?』

 ペンちゃんとわたしと三人で、川の字に並んで寝たがった。


 娘が十歳の時だった。

 『パパの洗濯物臭い。一緒に洗いたくない』

 拒否された。

 だけれど娘は決まっていつも、

 『洗濯物はもうないの!?』

 汚れたシャツも下着も全て、

 文句も言わず、ペンちゃんと一緒に干してくれていた。


 娘が十二歳の時だった。

 『パパのお弁当は毎日茶色』

 怒られた。

 だけれどその次の日からもう十年以上、

 『はい、パパのお弁当』

 毎朝カラフルなお弁当を用意してくれた。


 娘が十四歳の時だった。

 娘は部活、わたしは仕事が忙しくなった。

 朝早く娘は学校へと向かい、

 夜遅くわたしは家に帰ってくる。

 お互いすれ違う生活になって、会話の無い日々が続いた。

 けれども朝・昼・晩、

 娘は毎食分の食事を用意してくれていた。

 一人で食べるご飯が寂しくないように、

 いつも薄汚れたペンちゃんがお皿の横で待っていた。

 

 娘が十六歳の時だった。

 娘と初めて喧嘩した。

 大学進学を希望するわたしに対し、

 高校卒業後は働きたいと言う娘。

 『こんな家いやだ!』

 娘は泣いた。けれどわたしは分かってた。

 『お金の心配なんかしなくていいから…』

 娘は自分より他人を思いやれる心優しい子なんだと…。


 娘が十八歳の時だった。

 娘は毎夜遅くまで起きていることが増えた。

 『受験勉強の為に決まってるじゃん』

 けれども本当は知っていた。

 わたしが寝室に入ると同時に、

 娘の部屋の明かりも消えるから。

 わたしの帰宅を起きて待ってくれているということを。


 娘が二十歳の時だった。

 美しい振袖を脱いで、同窓会には行かなかった。

 代わりにその綺麗な姿のまま、

 もう真っ黒になってしまったペンちゃんを抱いて、

 妻の墓の前で長い間手を合わせていた。


 娘が二十ニ歳の時だった。

 『何年同じ財布を使っているの!?』

 ボロボロの財布を取り上げられた。

 『はい、あげる…』

 小さな声で代わりに渡してきたのは、

 同じブランドの同じ型の新品の財布。

 初任給で買ってくれたものだと、

 これは後から聞いた話。




 娘が二十四歳の時だった。

 男を初めて連れて来た。



 『プロポーズされたの…』



 初めて見せる照れた顔。

 わたしは時が止まった気がした。




 そして今日、娘の二十五歳の誕生日。

 真っ白なウェディングドレスに身を包んでいる娘。

 バージンロードを隣で歩いていた時も、

 ケーキを入刀している姿を見ている時も、

 わたしの心は上の空。


 おい、新郎。分かっているのか?

 お前の選んだその娘は、

 自分の思いを素直に言葉に出せやしない。

 体の心配をしている時は、

 『もっと家にいてよ!』と怒り、

 自分が辛い時は、

 『あっちにいってて』と涙を見せたがらない。

 だけどその分自分の思いを上手く伝えられた時は、

 恥ずかしそうにはにかむんだ。


 おい、新郎。分かっているのか?

 お前の選んだその娘は、

 姫は姫でもツンデレラ姫。

 どんな姫より手ごわい姫。

 お前が理解し、幸せにできるとは到底思えない。


 だけど…

 

 妻の大好きなペンギンの

 貴女の懐かしい重みのぬいぐるみ。

 愛しい貴女から手渡されたのは、

 ウェイトベアならぬ、ウェイトペンちゃん。

 こんなもの貰ってしまったら

 もう何も言えなくなってしまう。


 「パパ、ありがとう」


 あぁ、いつの間にかこんなに大きくなっていた。


 そう言って久しぶりに抱き着いてきた貴女は、

 わたしの胸に温かな染みを残していく…。


 

 外では雪の華たちが、

 25年前と同様に、ヒラヒラと祝福の舞を舞っている。


 


 どうか、どうか

 貴女が幸せな日々を過ごしていけますように…。




 貴女の親友のペンちゃんに、

 天国で笑っている妻に、

 そう願わずにはいられなかった。

 



 - FIN -



♢ちょこっと解説♢

(読まなくても支障はありません)


16歳の時にした父とのケンカ

→私の従兄弟の話を参考にしています。

 夜勤の方が給与が良く、夜勤帯の時間でばかり働く父。

 一方で遅い時間ばかりで働く父の体や家のお金の心配をする娘。

 お互いの気の遣いあいによる、すれ違いのケンカをイメージ下さい。


22歳の時に贈ったプレゼントの財布

→私のパートナーの財布をみて参考にしました。

 書くところがなかったのでサラリと流しましたが、

 これは亡き妻からの最後のプレゼントをイメージしています。

 買い替えることなんて出来ず、22年間ずっと使っていた財布はボロボロ。

 娘はその財布が特別なものだと知っていた為、敢えて同じものをプレゼントしています。

 (私もそろそろ新しいのを買ってあげようと思いました)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 父親だけで子供を育てるのも大変だったでしょうし、娘さんも色々苦労したと思います。 ペンちゃんがいてくれたので頑張れたんですね。
[一言] 泣かせるお話でした! 素敵な親娘ですね。 じーんとしました。
2022/12/15 16:23 退会済み
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