王妃のプライド
初投稿です。
ふんわり設定。
「た、助」
けて…
彼に向けて伸ばしかけた手と共に思わず出した声を引っ込めた。
私にはその資格はないのだ。
それに私は第一王妃なのだから、きちんと護衛が居て今だって魔獣からしっかりと守ってくれている。
彼にわざわざ守ってもらう必要はない。彼女のように。
「フェリアナ様、こちらへ!」
護衛の声に従い、私は一人で避難する。
大丈夫、私は大丈夫。彼がいなくとも、大丈夫…。
彼女を庇いながら進む彼の姿はすでに見えなくなっていた。
私はフェリアナ・ビスターナ。
ビスターナ国の王妃だ。
彼はエリオット・ビスターナ。
ビスターナ国の国王であり、私の夫。
私達は政略結婚ではあったがそれなりに仲良く過ごしていたはずだ。
その証拠に私のお腹には今、彼の子供が居る。
まだ、彼には伝えられてはいないのだけど。
彼女は異世界から強引にこちらへ召還した聖女だ。
我がビスターナ国は今、魔族に侵略されかけていて、その危機から救ってもらう為聖女召還を行ったのだ。
エリオットは反対していた。我が国の為に異世界の聖女を犠牲にしたくない、と。
それを無理矢理召還したのは私だ。これ以上の被害を抑える為、異世界の聖女には犠牲になってもらう、と。
犠牲とは言っても、生け贄にしようという訳ではないし、なんなら、功績を称えて第二王妃の地位を与える、と決定したのも私だ。
聖女はまだ幼く見える儚い少女のようだった。
急に親元から引き離し見たこともない世界で見たこともない国を救えと召還された聖女は、召還後、意識を失い3日ほど目覚めなかった。
しかし、聖女が召還された後は魔族からの攻撃も無く、あんなにいた魔獣も目に見えて減った。
私は間違っていなかったと喜んだ。彼女が全く目覚める様子がなかったのに。
そして、そんな私を見つめるエリオットの様子にも気がついていなかった。
彼女が目覚めたと聞いたのはエリオットからだった。「リアには彼女に対する感謝や気遣い、優しさが全く感じられないね。」という言葉と共に。
彼女はエリオットの誠意と感謝のおかげでこちらの世界に次第に慣れ、どんどん聖女として力を発揮した。
その頃にはすっかり第二王妃としても成り立っていた。
身も心も。
もちろん、私の第一王妃という肩書きは揺るぎないものであるし、聖女召還の功績は称えられたが、エリオットの気持ちはすでに無かった。
それなのに、妊娠に気がついてしまった。
私は王妃なのだから、彼の子供を産むのは義務だ。
だけど、この子はエリオットに望まれているのだろうか?
こんな冷酷な女の子供など…
幸いつわりは無く何事もなく日常を送れている為、私の妊娠に気がついている者はまだいない。侍医にもかたく口止めしている。
「この子を守る為、私に出来る事は…」
私は今まで以上に公務に励んだ。
エリオットとの会話は事務的な物ばかりで、会って話して居るのに私の妊娠にエリオットが気がついたのはもう8ヶ月を過ぎてからだった。
「私には何もしてもらうような事はございませんわ。陛下は今まで通りでお過ごしください。」
驚き、戸惑う表情のエリオットへ淑女の笑みを浮かべふてぶてしく伝えただけだった。
エリオットと彼女からは何度か体調を気遣うような事があったがいつも「何もございません。」と伝えた。
私の子は女児だった。
我が国では王位継承権は男子のみ。命を狙われる事が少ない事に安堵し、しかし気を抜かないようにと気合いを入れた。
もちろん、彼らはそんな事をするような人間ではないのだろう。私とは違って。
エリオットも彼女も私の子にも分け隔てなく愛情をそそいでくれた。第一王妃と王女という役割でしか我が子と接しない私なんかよりよほどなつき、彼らの子供達と同じように朗らかに優しい子に育ってくれた。
第一王妃として、公務に励み確固たる地位を築いた私は我が子を守れたのだろう。こんな私からも。
時々、全く違う人生を送る夢を見る。
我が子を胸に抱きしめ、エリオットと見つめ会い幸せそうに笑いあう。
そんな彼らのような「夢」。
しばらく、その夢にひたると、我が子がその夢のような彼らの元に居る事に一安心し、私は鏡を見つめる。
しゃんと背筋を伸ばし、淑女の笑みを浮かべる。
きちんと笑みを浮かべて居る事を確認する。
そして、しっかりと歩き出す。
私は第一王妃として、生きて行く。
ありがとうございました。