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宮廷魔導士の愛弟子

作者: 辛のおと

「はあ、なんでこんなことに」

ため息混じりに、斜め前にいるキラキラした金髪の男子生徒を見上げる。

私がこんなことに巻き込まれているのは、絶対にお師匠のせいだ。




私の師匠は宮廷魔導士たちの長で、とても偉い人、らしい。

私にとっては両親の死後引き取ってくれた親代わりであり、べったりくっついてくる親バカであり、魔法の師匠なんだけど。

師匠は仕事場に住んでいると言っていいほど宮廷に用意された部屋から出て来ず、必然的に私もその部屋で暮らしていた。

宮廷魔導士たちにご飯作ったり、掃除をしたりとお世話になる代わりに働いていたし、師匠は私がいないと仕事をしなくなるので立派に必要な人材として生きていたつもりだったが、師匠を雇っている側としては問題だったらしい。

「何度も言っていますが、ここは選ばれた魔導士たちの職場です。部外者を入れないでください、魔導士長!」

「嫌だね。アリスがいなかったら仕事なんて手につかないよ。アリスは素晴らしいんだよ?料理も上手、魔法の知識も僕がたっぷり与えたし、独創的な魔道具だって発案してる。どうしてアリスがここにいたらダメなんだい?」

「ですから、ここは宮廷魔導士の職場だからです。宮廷魔導士じゃない人間はここに住み着いちゃダメなのです!」

うん、正論だ。私もうっかりしていたが、普通は選ばれしエリート集団の中に試験を受けてない人間がいちゃいけないよね。

能力だけを見れば私は宮廷魔導士たちと肩を並べられるが、国から認定されてない存在。

国からしたら頭が痛い問題だろう。申し訳なくなってきた。

「僕はアリスがいなくなるならこの仕事をやめるからね」

「え、じゃあ私たちもメルオス様についていきたいです」

「なんでそうなるのですか!」

この人も大変だ。うちの師匠は駄々っ子で、自分のやりたいこと以外はやらない悪い癖がある。

私が存在していない間はどうやって仕事をさせてたんだろう、気になってくるほどだ。

「師匠、この方の言葉はごもっともだと思います」

「アリスはここにいていいんだよ。僕が認めてるんだからね」

「いや、ですから、ここは職場であってあなたの家じゃありませんから」

「今までの発明はアリスがいたからできたんじゃないか。可愛いアリスに感謝こそあれど批判なんて烏滸がましい」

「ですから、発明の件の話ではなくてですね」

本当に可哀想になってきたな。

私が役に立ってるというのも本当だ。

私には違う世界の知識があって、その知識の中にあるものを発案している。

たとえばクルクル回る扇が冷たい風を届けてくれる「センプウキ」は今では他国にまで広まっているこの国の偉大な発明の一つで、発案者は私。

現在は暖かい風と冷たい風が両方出てくる装置の開発を宮廷魔導士たちと行っている。

「私が宮廷魔導士になれれば早いんですけどね」

宮廷魔導士は貴族が通う学園を卒業しなくければ試験すら受けることはできない。

市井の人間でも大商人たちはお金を払ってでも子供を通わせたりするらしいけれど、さすがに私は無理だろう。

「その手がありました!そうですよ魔導士長、彼女を学園に通わせて、宮廷魔導士の試験を受けさせるのです!能力はすでに宮廷魔導士級なのですから合格は容易いでしょう。そうすれば誰の批判もなく彼女の力をここでお借りすることができます!」

「えー、でもアリスと離れて生活するなんて無理だよ。僕が死んじゃう」

「アリス嬢の今後のためにも必要なことでしょう!」

「え、私学園通っていいんですか?師匠に養われてるとはいえ、ただの庶民ですよ?」

「ただの庶民は五十年もの間宮廷魔導士たちに知識を与えたりしません!大丈夫です、年齢はもちろん伏せ、魔力が膨大なため特別に通うことになった生徒としましょう。メルオス様のお子として通っていただいてもいいのですが」

「僕の実家とはもう百年単位で疎遠だから面倒なことになりそう」

「あ、では私の家の庶子としてはいかがでしょう?男爵位ですから目立ちませんし、庶子とすれば多少のマナー違反や顔が知れ渡っていないのも納得していただけるかと」

「いいね、採用。面白くなってきた」

師匠は私の偽りの履歴書を作成するのが楽しくなったらしく、離れたくないと言っていたのが嘘のように乗り気になってきた。

私としては50年以上のんびり暮らしてきたのにいきなり規則正しい学園生活なんて送れるのか不安でしょうがない。

見た目は大丈夫。魔導士は歳をゆっくりしか取らないのでむしろ幼く見えるくらいで済むだろう。

だが、流行や貴族の常識なんて私は知らない。庶子ということになったとしても最低限のマナーもできなくていいのだろうか。

「アリス嬢はとにかく授業を受けて卒業することだけを考えていただければ大丈夫です。マナーに関しては最低限のものを入学までにお教えいたしますので」

いや、教えられたからって身につきはしないと思うんだけど、違うのかな?教えられたことくらいやれるだろっていう信頼なのかな?

「アリスの学園生活を記録する魔道具は僕が期限までに作り上げるからね、アリスのことをずっとみているから安心しておくれ」

「安心できませんし普通に怖いですよ。それ、違法行為に使われないように開発できても国の所有にしておいてくださいね」

「大丈夫さ、僕以外使えないようにしておこう。見た目も目立たないようにしないとね」

「でしたら、透明化の魔法が使えないでしょうか?」

「いえ、それより極めて小さく作ることで視界に入っても見えない状態にする方がどこにでも着いていけるのではないでしょうか」

宮廷魔導士たちは楽しそうに意見を出し始めている。みられる私の尊厳は無視かな?

「ではアリス嬢、よろしくお願いいたします」

「はあ、わかりました」

決まったものは仕方ない、せいぜい目立たない学園生活を送るために頑張るか。


[newpage]


「と、思ってたのになあ」

マナーが最低限しか、本当に最低限のものしか身に付かなかった時点で仕方がないことだが私は貴族たちが通う学園で大いに目立ってしまった。

マナーのなっていない小猿、程度に思われるだけならそれはそれでよかった。くすくす笑われるのとかこれをみてる師匠が怒って彼らの家に何かしでかさなければいいなあ、程度の感想しか出て来ない。

しかし、私のそのマナーのなさを新鮮に受け取ってしまったきらきら男子こと、この国の第一王子さま御一行が現れたことで流れが変わった。

なぜかことあるごとに私に構ってこようとする王子御一行。

ベタベタするなと私にお叱りを授ける彼らの婚約者御一行。

そんな婚約者御一行を醜いだのなんだのと批判する王子御一行。

彼らに絡まれ、時に授業から連れ出されてしまい補講を受ける羽目になったりと波瀾万丈な学園生活を余儀なくされてしまった。

私はできる限り早く学校を卒業して住処に戻りたいだけなのに、どうしてこうなった。

王子御一行には近寄るな、触るな、迷惑だとできる限りやわらかく言い換えて伝えたが伝わらず。貴族は遠回しの言葉を使うんじゃなかったのか。

婚約者御一行は、実は一生懸命自分から触ったのは腕を握られたのを引き剥がそうとした時などで、王子たちに一切の興味もない、無事に学園を卒業して然るべき機関に勤めたいとしか考えていないと伝えると憐憫の目で見られるようになってしまった。

それでも関わってくる王子御一行に、婚約者御一行が彼女の迷惑だと伝えてくれるようになったが嫉妬は醜いという意味のわからない言葉しか返さない王子御一行。頭が痛くなる私と婚約者御一行。

そんなやりとりがなんと3年間も続いてしまい、卒業パーティの席で事件は起こった。


「リーステンノ・オウギュストス!貴様はこのアリスに3年間にもわたって嫌がらせを行い、命まで奪おうとしたな!そんなお前が国母になどなれるものか!今、ここで婚約破棄を発表する!」

王子御一行に腕を掴まれ、なんだなんだと思ったらこんな茶番に巻き込まれた、ご存じアリスです。

婚約者御一行のトップだったオウギュストス嬢もびっくり、と思ったら冷たい顔でこちらを見ていらっしゃる、さすが貴族、お顔に表情がないです。

私にちらりと視線を向けられたので必死に首を横に振る。

こんなきらきら男子と心中なんて嫌だ。私彼女にいじめられたことなんてないし、殺されかけたの?私が?どうやって?という心境だ。

「なにか申し開きはあるか、リース」

「彼女は否定されているようですが」

「やはり優しいな、アリス。大丈夫だ、我々が君を守る。そして、心優しい君こそ僕の伴侶に相応しい!」

相応しくないです、と言いたいがなんでも身分が低い人間が身分が高い人間の許しもなく発言するのはよろしくないらしくて、声を出せない。

オウギュストス嬢に教えられたルールを忠実に守っているとそれに気付いたのかなんだか可哀想なものを見る目で見られてしまった。解せない。

あなたが言ったことを守っているんですよオウギュストス嬢。

「そもそも、私がエンディア様へ行った嫌がらせ、殺人未遂の証拠はあるのですか?」

エンディアとは私がいることになっている男爵家の苗字。学園内ではアリス・エンディアっていう名前になっていました。

「往生際が悪いなオウギュストス嬢」

「ちゃんと証人がいるんだ。なあ、お前たち」

水を向けられて真っ青になる御令嬢たち。確か私の荷物を捨てようとして見つけられずに泣いていたり、遠巻きに嫌味を言って笑ってた御令嬢たちだ。

荷物は全部異空間バッグに入れているから問題なかった。

嫌味なんて言われたことがなかったのでちょっと驚いたが特に心に響かない、というかどうでもいい存在に構ってられなかったので気にする余裕もなかった。

だって廊下を歩くときは早く歩ききらないと王子御一行に捕まって授業受けられなくなるし、ご飯はマナーを守って食べることに集中してそれどころじゃなかったし。

きっと彼女たちは王子御一行に言われてホイホイ証人になってしまったんだろうけど、御愁傷様。

そもそもなかった事件の証人なんてありえないのです。

その間も王子とオウギュストス嬢のやりとりが続く。よくもまあ付き合ってあげてるなあ。

「婚約破棄はお受けしますわ。ですが私は彼女へ危害を加えておりません」

「認めないとは頑固だな、リース。とにかく、国母となるアリスを傷つけたお前は国外追放だ!これでいいか?アリス」

あ、やっと発言権が回ってきた。

「お待ちください、えっと、殿下」

名前が出て来なかったので殿下とだけ呼ぶのは、不敬じゃないよね?

「どうしたんだアリス」

「私はいじめられてないですし、殺そうとされたりしてないです。オウギュストス様は私にマナーを教えてくださったり気を回してくださった恩人です」

「アリス、なんて優しいのだ。リースの聞くに耐えない戯言やいじめの数々を許すというのか!」

いや、だからされてないって。

「私が殺されそうになったのはいつのことですか?」

「最後の授業の日、階段から突き落とされただろう?」

「そんなことありませんでした。階段から落ちたのは事実ですが」

「やはり!おのれリース、激情のままにアリスを突き落とすなどと」

「だから落ちただけですって。完全なドジです」

そう、確かに階段から落ちたのだ。盛大に。足を踏み外して。

王子に追い回されて必死で逃げていて、足元が不注意だった。犯人がいるとすればそれは私を追い回した王子御一行に他ならない!

とは流石にいえないので、ドジということにしておく。優しいな私。

「なんの騒ぎだ」

「父上!」

おっと王様の登場だ。そばには師匠がいたので助けてくれと視線を送るととっても嬉しそうな笑みだけ返ってきた。

「父上、リースがこのアリスを殺そうとしたのです!国母となるアリスを傷つけたリースは国外追放が相応しいかと」

「意味がわからぬことを抜かすな。お前の婚約者はアリス嬢ではなくリーステンノ嬢だ。それに、殺そうとしたと?まことか、リーステンノ嬢」

「いいえ、陛下。私には身に覚えがございません」

「アリス嬢、まことか?」

「いいえ、国王陛下。私が自分で足を踏み外しただけだと、何度も説明しております」

「アリスは優しいのです!リースにまで反省を促そうとして……!証人がいます!このダウラスが見ておりました!」

そう言われてスッと前に出る王子御一行の一人、騎士団長の息子だって人。

いや、落ちた時に人はいなかったよ。君は王子と一緒に私を追い詰めてたじゃないか。

「発言を許そう、ダウラス」

「はっ!我々がアリス嬢を見つけた際、確かにオウギュストス嬢が段上にいるのを目撃しました!」

「そんな!」

オウギュストス嬢が顔面蒼白になっている。存在しなかった事件の証人がいて、王様にまで報告しちゃって、自分が不利になったと感じているのだろう。

よくもまあ嘘を偉い人の前で言えるもんだね、逆にすごいわ。

そう思いながら師匠に今度こそ伝わるように視線を送る。

仕方ないなあと言わんばかりに肩をすくめて、師匠がやっと発言してくれた。

「恐れながら陛下」

「なんだ、我が魔導士」

「アリスには我らが開発した魔道具をつけておりまして、彼女の周りで起きたことは全て、記録されております」

「ほう」

おっと、今度はダウラスさんの顔色が悪くなったぞ。オウギュストス嬢はぱっと顔色が輝いた。

「では、見てみようか。――事件の真実を」


映像では私が必死に後ろを振り返りながら逃げている。音声も取れるようにと私が付け加えたので王子たちが追いかけてくる声も、私の荒い息もはっきり聞こえてくる。

そしてそのまま足を踏み外して、どーんっと落ちていく私。

駆け寄りながら誰に落とされたんだだのリースに違いないだのという戯言が聞こえて、魔道具が上を映すがもちろん誰もいない。


「リーステンノ嬢はいないようだな」

「そんなはずは!」

「むしろ、お前が追い詰めたように見えたぞ、グリギオンテ」

王子の顔が真っ青になった。そうだそうだ、こいつらのせいだ。

「婚約破棄は認めよう、お前の婚約者などリーステンノ嬢には迷惑をかけた。お前たちは後で話がある」

王様が手を挙げると兵士たちが入ってきて王子御一行を連れて行った。

「迷惑をかけたな、リーステンノ嬢、アリス嬢」

「陛下がお気にされることではありませんわ」

「こちらこそ、ご迷惑をおかけしました」

オウギュストス嬢と一緒に頭を下げる。

「皆も、愚息が迷惑をかけた。これからは楽しんでほしい」

その言葉でパーティは再開された。

私も美味しいご飯をたくさん食べるべく、料理のコーナーに早足で向かった。




後から師匠づてで聞いた話だが、王子御一行は揃って廃嫡、幽閉だったり外に出されたり、まあバラバラになったそうだ。

王太子は第二王子がなることになった。王子とは2歳違いで在学中にいたらしいが思い出せない。まあ、逃げるか授業受けるかしか覚えてないから仕方ないね。

オウギュストス嬢は幼馴染のような関係だったとある侯爵家に嫁ぐことになったらしい。

彼女が泣くことにならなくてよかった。他の婚約者御一行も新しい婚約者が決まって、結婚した子もいるらしい。

私は宮廷魔導士に見事合格!って、まあ予定調和みたいな感じなんだけど。

師匠と一緒に、今度は公的なお仕事もできるようになって毎日が楽しい。

でももうあんな騒ぎに巻き込まれるのはこりごりだ、とか思いながら今日も新しい発明のために手を動かしている。

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