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短編大作選

愛するカノジョは脱け殻と化しました

掲載日:2021/08/26

僕の部屋のベッドには、彼女が横たわっている。


脱け殻のように。


というか、本当の脱け殻だ。


彼女の魂は、少し前に、何処かに行ってしまった。


僕は、半年ほど前、クラスメートに水を掛けられている彼女を、助けた。


そこから、段々と彼女とは、仲良くなっていった。


彼女は、警戒心が強いが、距離を縮めるのも早い。


だから、お互いのベッドで、ぐったり出来る仲にまでなった。


でも、今の今まで、いじめが続いていたことは、知らなかった。


僕のいる前で、あの女子たちは、大人しくしていたからだ。


黒い布団に紛れるように、濃紺の制服の彼女がぐったりしている。


彼女と、同じクラスなら良かった。


彼女は僕の、隣のクラスだったから、どうすることも出来なかった。


授業中にいじめられていては、どうすることも出来ない。


【あっ】


僕はあることを思いついた。


やったことはないので、実現するかは分からない。


でも、やる価値はありそうだ。


その方法とは、彼女のカラダに乗り移って、彼女として生活することだ。


そうすることで、彼女のいじめの現状が見えてくるかもしれない。


父の発明が、初めて役に立つと、感じた瞬間だった。


もちろん、僕はその間は学校を休んで、脱け殻を部屋に置いて生活することになる。


彼女の寝姿は、いつ見ても美しい。


彼女の脱け殻は、部屋にオブジェとして飾っても違和感のない、美しさに溢れていた。


魂が入っていた方が美しいが、入っていなくても十分、美しい。


勾玉のような格好で、ベッドの左半分に横たわる彼女の横に、寝る体勢に入る。


合わさるように、頭を逆さまにした勾玉で、ベッドの右半分の空いているスペースに横たわった。


そして、機械のスイッチを押した。


父の発明を、活かすも殺すも、僕次第だ。


魂が僕の身体から抜け、彼女の身体に、スーっと入って行くのが分かった。





朝のバタバタした時間帯に、何の計画も立てずに、彼女の身体を借りてしまった。


脱け殻になった僕の表情は、生き生きしていた。


キレイな丸まり加減で、部屋のベッドに存在していた。


制服姿の彼女となり、最低限の身支度をして、学校に向かった。


スカートはスースーするし、ロングヘアーは邪魔だし、まだ慣れない。


周りにいる男子生徒が、こちらに視線を送っていることに、気が付いた。


いつも、こんなに見られているのだろうか。


こんなに、男子たちを惹き付けているのに、彼女へのいじめを、誰も助けてはくれないのか。


正義感を持った男子が、彼女のクラスにはいないのか。


男子たちがいない場所でやっているとしたら、仕方ないのだが。



特に、困難という困難はなく、勉強には支障がなかった。


彼女の身体は、健康面では心配はなく、視力も良好で、ノートに書く行為も普通に出来た。


少し気になったのが、授業中なのに、女子の数人が、こちらを何度も見ていること。


どうやら、あれが彼女をいじめているグループなのだろう。


友達の背中を指でツンツンして、紙の切れ端を、頻りに回していた。


今日はヤケにシャキッとしているな、とか書かれているんだろうな。


怖さはなかったが、彼女の身体が、もっと傷付いてしまうことへの躊躇から、勇気の全開放は、出来そうにない。



昼休みまでは、特に変化はなかった。


誰ひとりとして、話してくることはなかった。


空気は重いけど、時間は起伏なく過ぎた。


いつもと違う彼女の姿に、警戒しているのだろうか。




教室で、ひとりで弁当を口に運ぶ。


朝、時間がないのに急いで作った、茶色いお弁当。


彼女をいじめているグループのことが、頭から離れてしまうくらい、卵焼きに夢中になった。


小学生の時に使っていた、あの懐かしい木で出来た茶色い机みたいな、色をした卵焼きが身体に、染み渡る。


そこへ、奴らはどっしりと向かってきた。


そして、すぐに弁当箱は天地を返された。


飛んだ卵焼きは、ホワイトベースの机に落ち、浮き上がるように存在していた。


彼女として生活している、彼女の姿の僕にも、容赦なくいじめを継続された。


彼女は、クラスの男子だけではなく、電車の中でも、男子の視線を十分に浴びている。


いじめの原因は、モテている彼女への嫉妬とか何かだろう。


僕は逃げずに、真相をいじめていた女子に聞くことを選んだ。


「ねえ。何でこんなことするの?」


「気に入らないからだよ」


たぶん、想像の通りだ。


彼女が、可愛すぎるから、こんなことになったんだ。


可愛すぎるが故の、苦しみや痛みがあることを、今まで理解していなかった。


ひっくり返ったお弁当箱を見つめると、悔しさと怒りが、込み上げる。


だから、なるべく、見ないようにした。


「どうしたんだよ。いつもとだいぶ違うけど」


「いつもと違う?どんなところが?」


「いつもは怯えて、震えてるから。だから、面白いのに」


「そうだよ。今は、まるで別人だから、つまらなくてさ」


全然、落ち着きを保ててはいないみたいだ。


「もしかして、嫉妬?」


「えっ? ああ、そうだよ」


その女子の落ち着きは、さらに無くなり、突き進んでゆく。


「私、こういう生き方しか出来ないから」


「こういう生き方しかって、どういう生き方?」


この女子を、嫌いになんてなれない。


みんな葛藤を抱いて、生きているから。


でも、まずは相手のことを考える、という意識をもってほしい。


「前もあったの。前もやった」


「何を?」


「嫉妬して、いじめを」


自分の気持ちしか、考えられない人なのだろう。


気持ちが、先走っちゃうタイプなのだろう。


僕がここで、きちんと説得するしかない。


「色んな人にしてるわけ?」


「うん。でも最近はあんただけ。前もあんたに好意を持っているイケメンに、嫉妬していじめていた」


彼女が憎くて、嫌がらせをしていたことは、確定みたいだ。


「ああ」


「やっぱり、中身、違う人でしょ?」


「いやっ」


素直に言った方が、絶対にスムーズに行く。


でも、言い出せない。


言うことで、彼女の負担を増やしてしまうかもしれないから。


「私は、あんたの彼氏が好きなの。大好きなの、完全なる嫉妬なの」


「そ、そうなんだね」


「本当に、本当にごめんなさい」


「明日、改めて謝ってもらってもいい?」


「いいけど、どうして?」


変なこと言ってる自分がいた。


別人だと名乗っているに、等しい。


でも、なんとか乗り越えられただろう。



女子の憎しみというものは、他に比べて深いと感じた。


僕は彼女に、少しの罪悪感を抱いた。


彼女の知らないところで、色々と変えてしまおうとしているのだから。


僕が彼女を、脱け殻に追い込んでしまったと、言われても仕方がない。


その後、クタクタになりながら、ゆっくりと自分の部屋に向かった。


明日からは、もう彼女がいじめられることはない、そう信じて。




僕は、部屋に戻り、自分のカラダに戻ろうとしていると、違和感を感じた。


彼女の中に入っている間に、彼女の魂が僕のカラダに入った形跡があったからだ。


許可を取ってはいるものの、僕も彼女の中に入っている。


だから、何も言えなかった。


彼女が、僕の姿に変わって、何もしていなければいいのだが。


何事にも、興味深々すぎる彼女が、何もしないわけがない。


疑惑を持ちつつ、急いで元のカラダへと戻った。


すると、少しだけカラダが重かった。


何かしらの重労働をしたに違いない。


でも、特に嫌な感じはなかった。





クラスメートとは、和解のようなカタチになった。


だから、明日は元のまま普通に登校出来る。


やっぱり僕の姿が、一番しっくり来る。


「ねえ?」


「あっ、カラダに戻ってたんだね」


「うん。お願いがあるんだけど?」


「何?」


「今週はずっと、入れ替わりのカタチでお願い」


「えっ?まあ、いいけど」





入れ替わり生活を始めて、一週間が経った。


クラスメートとの距離は縮まり、馴染んでいた。


彼女は、僕のおかげでクラスにフィットした。


僕のカラダはというと、前より筋肉質になっているような気がした。


彼女の好きなタイプが、マッチョであることは確かだ。


ちゃっかり、僕を育てようとしていることは、とても恐ろしかった。


でも、そんなことが出来るってことは、元気がある証拠なんだろうな。

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