第2話 自殺少女と距離を詰めよう!
「飛んだってそんな……ウソでしょ……?」
ズザッ、と後ずさりしかけて、だけど後ろには空気以外なにもないことに気づいた萩尾さんが、反射的にその動きを止めた。
「だってこの校舎、五階建てだよ? そのさらに上にある屋上から飛んで人が無事で済むはずなんてない。ううん、普通なら死んじゃってるはず……」
その所感は、自分ごとながら俺も同感だ。
この高さから飛べば普通死ぬ。俺だって死ぬと思っていた。だけど幸か不幸か俺は生き残り、再び階段で屋上まで上がって、萩尾さんと向かい合っている。
俺は、痛む身体を引きずってもう一歩前に出た。
そして驚きの表情に固まる萩尾さんに話しかける。
「俺も、そうなると思ってた。ここから飛んだら死ぬって……でも、見ればわかるだろうけど生き残っちゃったらしいんだ。まあ、代わりに身体とかすごくボロボロなわけだけど」
言いつつ、俺はここで初めて自分の身体の状態を見た。
目を覚ましてからこちら、まともな光源のない夜の学校にいた。だから自分がいったいどうなったのか、肉体がどれほどのダメージを負っているのか、まるで把握することができなかった。
月光の下、改めて自分の身体を確認した感想としては――なんつーか、思ってた以上にメチャクチャですねこれは。
腕や足の骨は至るところが折れてる感じだし、ブレザーの制服も引きちぎれて血が滲んでいる。
特に、今右手で抑えている左肩はひどくて根元の部分から裂けて真っ赤に染まっている。たぶん服の下では骨が露出しているんだろう。
問題なのは、それらが俺の負った怪我の中でもまだマシな部類だということ。
さっきからダラダラと血が流れっぱなしの頭の怪我とか、制服の上から見ても不自然な凹みがわかる右の肋骨とかは、ほっとくとマジでガチの致命傷に繋がっちゃうんじゃなかろうか。
加えて、どこか他人事みたいに自分の怪我を冷静に見れちゃってるこの状況もマズい。たぶん身体中が痛みすぎて、痛みに関して完全にバカになってしまっている。もしくは、痛みすら感じられないほどに身体の状態が悪いのか――。
俺がそんな風に身体の状態を点検していると、萩尾さんが震え声を出した。
「ボロボロって……バっ、バカじゃないのっ! 私には天音くんが今にも死にかけてるみたいに見えるよっ! 早く救急車呼ばなきゃっ!」
言い終えるや否や、萩尾さんは慌ててブレザーのポケットに手を突っ込む。
もちろんのこと、萩尾さんが取り出したのはスマホだ。
電源を入れ、慣れた手つきでタップしようとして――その指が、止まる。
動きを止めた萩尾さんは、ゆっくりと顔を上げて俺を見た。
その顔に浮かぶは軽蔑と、嫌悪の表情。
「……なーんて、言うと思った?」
まるでこちらを挑発するような物言いに、俺は座りの悪い首を振って応えた。
「思わないかな。だって人を呼んだら、君の自殺を止められてしまう」
「ふーん、そうやって繕うんだね。まあいいけど。天音くん、嘘吐くの上手いね?」
「嘘?」
思わず鸚鵡返しすると、その反応が癇に障ったのか、萩尾さんはキッときつく眼を眇めた。
「ホント白々しいよね。またそうやって私の反応を楽しむつもりなの?」
「そんなつもりはないよ……それで、嘘って」
「だーかーらー、デタラメなんでしょ! その血も、恰好も!」
「……へ?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
マジのガチで本物です。
ただし俺のそんな心情は伝わらなかったらしく、萩尾さんはさらに声を荒げた。
「これから死ぬ女をからかうために、よくそこまで準備できたね! ボロボロの制服も、こっちが引くくらい流れてる血も、どうせ演劇部の部室から借りてきた衣装と血のりなんでしょ! 本当、君っていい性格してるよ! 私が飛ぶ前に、この屋上から突き落としてやりたいくらい!!」
そう叫んだ萩尾さんの目元に、うっすらと涙の雫らしきものが浮かんでいる。
えーっとこれは……確実になにか誤解されてる感じですかね?
というか、どうやら俺の今までの行動が萩尾さんの心をいたく傷つけてしまったらしい。これは由々しき事態だった。
対処法としてはこちらの誤解を解くことだけれど、正直気が進まない。証明手段はたったひとつで、それには大きな痛みを伴う。
けど俺はやっぱり、萩尾さんを救いたい。だから――。
覚悟を決めると、俺は左手を右腕の負傷箇所にやった。
「えいっ!」
コキャッと小気味のいい音がして、折れていた俺の右手首があり得ない方向に曲がった。
「とあっ!」
メキッとくぐもった音がして、外れた右肘が360度近く回転する。
「あらよっ!」
メシッと重たい音がして、右腕中央の骨折箇所が左右にズレた。
「~~~~!!」
いや、これはさすがにちょっと痛い。痛すぎる。
基本痛覚麻痺ってるのに痛い。
でも耐えてみせる……だって俺、長男だから!!
瞬間、俺の脳内に溢れ出した、存在しない長男――。
作品間の壁を超えた豪華コラボレーション演出にて現れた脳内長男が、額の前で刀を構えつつ俺にエールを送ってくれる。
『がんばれ卓己がんばれ! お前は今までよくやってきた! お前はできるヤツだ! そして折れていても! 折れていても! 折れていても! もう折れているから絶対に折れようがない!!』
はい、痛みでバグって名言が途中から意味不明になった模様。
……でも、お蔭でどうにか意識を失わずに済んだみたいだ。
「萩尾さん、どうかな? これで俺の怪我が嘘じゃないって証明できたと思うんだけど……ってアレ?」
顔を上げ、瘦せ我慢で作った笑顔で萩尾さんを見ると、彼女は両手を口に当ててこちらを凝視していた。
「天音くん……まさか、本当に飛び降りて……?」
「その反応、ひょっとして手品とかイリュージョンの線を疑ってる? うーん、だったらつらいな~。今の俺じゃ、その可能性を完全に否定しきる材料がない」
こんなことなら手品研にでも行って種の明かし方くらい学んでおけばよかった。
後悔の念に苛まれていると、唐突に萩尾さんの声が飛んできた。
「びょ、病院行って!!」
「へ? 萩尾さん?」
先程までと違う、平静さを失った萩尾さんの声のトーンに虚を突かれてしまう。
萩尾さんの切実な声は、なおも続いた。
「お願いだから今すぐ病院に行って! じゃないと天音くん死んじゃうよっ!!」
くしくもその一声が、俺の心に投げかけられた命題となった。
俺は視線を落とし、足元にできた真新しい血溜まりを見て、しばし考え込む。
「あ、天音くん、どうしちゃったの……ひょっとして立ったまま……?」
その行為が、どうやら萩尾さんの不安を喚起してしまったらしい。
まだ生きてるよと首を振って、俺は萩尾さんへと向き直る。
「……ごめん、考えごとしてた。ねえ萩尾さん、ちょっと訊いていい? これで君は、俺がそこから飛んだって信じてくれた?」
コクコクと、オーバーリアクションで頷きを返してくれる萩尾さん。
これは嬉しいな。わざわざ怪我の具合を悪化させた甲斐もあるってものだ。
「じゃあさ、こっちは確認なんだけど、もし俺がこのまま病院行ったらさ、萩尾さん、そこから飛んじゃったりする?」
顔を上げると、暗くてよくは見えないけれど、萩尾さんは一瞬表情を曇らせたみたいだった。
唇の端を噛み、とても言いづらそうに答える。
「そんなの……決まってるじゃない。だって私は生きてるのがつらくて、もう限界で、死ぬためにここにいるんだから。天音くんがいなくなったら、私は私にケジメをつける。だから、本当にお願いだから、もう私のことなんてほうっておいて……」
見ていられないといった風に、さっと俺の顔から視線を逸らす萩尾さん。
この反応は少しショックだった。さっきの骨折りで少しは心理的距離を縮められたと思ったんだけど、まだ面と向かって話すまでには至っていないみたいだ。
でも、だったら俺はもっと考えるべきだよな。どうすれば信用してもらえるのか。
そのためには――矛盾しているようだけど、直接交渉だ。
「ねえ萩尾さん、何度も言ったけどさ、俺は君を救いたい。けれど君を救うためには、君自身の信用が必要なんだ。どうすれば俺のことをもっと信用してもらえる?」
俺の言葉に、キッとするどい視線を復活させて、萩尾さんは答えた。
「さっ、さっきから言ってるでしょう? 私は、救いなんていらない! ここから飛んで、全部終わりにしたいだけ。それが望み。だから天音くんは邪魔なの。今日会ったばかりで、なにも知らない人なんかに、これ以上私のことをどうこう言われたくなんてない……!!」
――ピコーン!!
あっ、そうか!
わかったぞ!!
さっきまでの話で、俺は萩尾さんが自殺しようとしてる経緯を知っている、けれど萩尾さんは俺のことをまるで知らないじゃないか!
思えば素性の知れない人間に対し、人は警戒心を抱くもんだ。最初に名前や所属を伝えて満足していたけれど、あれだけじゃ全然情報不足だったんだな。
なるほどなるほど、そうとわかれば手段はひとつ。
「ごめんね萩尾さん、気づかなくて。俺、萩尾さんに自分のことなにも話してなかった。こんなんで信用しろって言われても困るよね」
「もういい! 謝ったりもしなくていいから、私の前からいなくなって!」
「じゃあ俺がどうして自殺しようとしてたのかについて話すね」
「人の話を――へ? 自殺?」
あれ? なんでここで意外そうな顔が飛び出してくるんだろう?
まあいいや。俺は話を続けることにした。
「俺の自殺理由っていうのは――」
「ま、待って!!」
とそこで、唐突に制止の声を受ける。
萩尾さんが、片手を前に突き出していた。
「天音くん、ちょっと聞かせて。自殺、なの? 遊んでて事故とかじゃなくて?」
「そうだけど……だってここ、たまに鍵かかってるでしょ? 普通、放課後ちょっと遊ぶのに開いてるかわからないとこ選ばないじゃない」
「つらいことがあって、死にたいと思ったんだね?」
「そりゃまあ……うん」
肯定すると、真剣な雰囲気を纏った萩尾さんが「……続けて」と促してきた。
コホン、と空咳を挟み、俺は満を持してその一言を告げる。
「俺が死のうとしてた理由は、言ってしまえば『NTR』なんだ」
「えぬてぃーあーる?」
真剣な様子のまま、しかしその繰り返しは疑問の響きを帯びた。
「あれ? 知らないかな? これ、一部界隈じゃものすごくホットなメジャーワードだったりするんだけど」
「全然知らない。てか、そんなの聞いたこともないよ。本当に流行ってるの?」
などと、心底不思議そうな萩尾さん。
どうもマンガやラノベやアニメみたいなオタク文化についあまり明るくないらしい。うーん今どき珍しい娘だな。
とすれば、ここは一番、俺が解説しないとな。
「『NTR』――これはね、とある言葉の子音を集めたアルファベットの羅列なんだ。聞いたことないかな? 卵かけごはんのことを『TKG』って書いたりするの」
「それなら知ってるかも。クラスの子も何人か使ってたし」
やったぞ、これで話が早くなる。
好奇心が刺激されたのか、今度は萩尾さんから訊ねてきた。
「ねえ天音くん、それじゃあ『NTR』っていうのは、なにが略されてるの?」
「うん? 寝取られ」
「ねとッ――!?」
そのとき、バッ、とこちらまで聞こえるほどの音を立てて、萩尾さんが両手で自分の口を塞いだ。
俺がしばらく待つと、ゆっくりと自分で口枷を外し、言いづらそうに続けた。
「あ、あの、ごめん……別に引いたとかじゃないんだ。びっくりしただけ。でもさ、寝取られってアレだよね? 天音くん、恋人を誰かに取られちゃったってこと?」
「近いかな。ちょっと昔話していい?」
「う、うん……」
気まずそうな萩尾さんに、俺は自分の過去を話し始めた。
メインキャストは俺こと天音卓己と、遠坂ひまりという幼馴染み。
生まれた家が隣同士ということもあって、俺とひまりは小さなころからずっと一緒に遊んでいた。幼稚園に入るずっと前から、家で積み木を組み立てたり、おままごとをやったり、外で駆けっこをしたりして、すごく仲が良かったんだ。
その仲の良さは、幼稚園に入り、小学校に上がってからも変わらなかった。俺たちはいつも、手を繋いで登下校していた。普通こういうのって同級生の冷やかしとかが入ると思うんだけど、どういうわけか俺たちにはそれがなかった。きっと仲が良すぎて、異性というよりか兄妹みたいに見えてたんだと思う。
『たっくん、だーいすき!』
『おとなになったら、ひまりのことおよめさんにしてれる?』
『もちろんだよ! おれ、ひまりちゃんのことぜったいにしあわせにするからね!』
幼い約束だ。俺たちはきっと、大人の真似事でそんなことを言い合ってた。結婚が人の人生でどれほど重い価値を持つものなのか知りもしなかった。けれど心のどこかで、それが現実の未来になればいいって思ってたんだ……。
小学校高学年の頃、距離を取った。思春期に入った俺が、さすがにこの距離感はマズいと今さらながら気づいたからだ。ひまりは泣いた。離れたくないって言って、小さな子どもみたいに俺の手を引いてぐずった。最初はちゃんと言い聞かせてた。でもいつまでも理解を示さないひまりに苛立ちばかり募る。だから俺はひまりと口を利かないと決めた――結果、二人の距離は離れた。
中学に上がった。歳を重ねるうち、ひまりはどんどんキレイになっていった。手足はスラっと伸びて、胸とかも大きくなり、大学生に間違われてナンパされたりすることも多くなった。バカな俺は、このときになって初めて気づいた。ひまりが好きだった。誰にも取られたくなかった。だから俺はひまりにこう言ったんだ。
「ひまり、話があるんだ」
「どうしたの? たっくんの方から話しかけてくるなんて珍しいね?」
「俺ともう一度、あの頃みたいに戻ってくれないか」
「あの頃?」
「勝手なお願いだってわかってる。ひどいことをしたって知ってる。だけど俺、ひまりのことを忘れられない! もう一度お前とやり直したい!」
「……たっくん、うん、いいよ!」
ひまりは涙を流していた。だから、和解できたと思ってた。けど違ったんだ。このときひまりには既に邪な影が忍び寄っていた……。
俺がそれを目撃したのは部活動の帰り道だ。道路の向こう側、俺は手を振ってひまりのことを呼ぼうとした。だけどひまりの側には既に男がいた。
いかにもワルって感じの学生で、馴れ馴れしくひまりの肩に腕を回して、でもひまりは全然嫌そうなんかじゃなくて、むしろ満面の笑顔で、だから俺は悔しくて悔しくて――もう、俺が、俺が先に――!!
「……あのー、ちょっといい?」
ノリノリでカコバナしていた俺を、萩尾さんの一声が引き戻した。
なんだろう、ものすごく冷めた物言いだ。
「天音くんさあ、いかにも悲劇の主人公って感じで語ってくれてるけど、ひまりさんを失ったの、君に甲斐性がなかったからでしょ」
「え?」
「君がひまりさんをずっと無視なんてしてたから、他に想い人ができてただけ。そういうの、相手に当てこすっちゃダメだと思うよ」
ああ、なんて容赦のないツッコミだろう。
まさかこんなところでドの付く直球が俺に炸裂するなんて……。
けど、たしかに萩尾さんの言う通りだ。俺は幼馴染みのことを一方的に責め立てようとしてた。
自分がなにもしなかった言い訳を、人のせいにして誤魔化そうとしてたんだ。なんて浅ましい、嫌なヤツなんだ……。
危なかった。もう少しで最低の男になるところだった。
気づかせてくれた萩尾さんに、頭を下げてちゃんとお礼の言葉を伝えよう。
「ありがとう萩尾さん、俺が間違ってた。君の言う通りこんなのNTRじゃない。俺がちゃんとひまりの手を握ってあげられなかったのが悪いよね……」
反省の姿勢を見てとったのか、萩尾さんは少し優しい口調で答えてくれた。
「こっちこそごめん。天音くんもつらいのにキツいこと言っちゃって」
「いや、君が正しいよ。俺がひまりを失ったのも、付き合ってるときひまりが28股かけてたのも、全部が全部、俺に甲斐性がなかったせいだ」
そう、最初からひまりに責任を押し付けるのがおかしかったんだ。
俺はもっとひまりのことを――「なに言ってるの?」
……あれ? 今なにか混じったぞ?
顔を上げると、萩尾さんが大きく眼を見開いてこちらを見ていた。
「いやだからさ、やっぱり俺の甲斐性がなかったのが問題だったなって」
「そこじゃないよ! その前! 天音くんなにを言ったの!」
「ええと、付き合ってるときひまりが28股かけてたってとこ?」
「……NTRじゃん……」
ガクっと頭を垂れて、落胆したような声を出す萩尾さん。
どうでもいいけどNTRなのかNTRじゃないのかハッキリしてほしいな――そんな思いが通じたのか、萩尾さんは頭痛を我慢するように額に手を当てた。
「ごめん天音くん、さっきの私の発言まるっとなかったことにして」
「いいけど、でも本当にひまりが悪いのかな? 悪いのはやっぱ俺じゃ……」
「いや、28股とかありえないし。本当にドン引き。ビッチ。てか私がこんなこと言うのもアレだけど、こんな目にあってよく耐えてこれたね」
ああ、それなら――俺はまだ動く左手を拳にして、胸をドンと叩いた。
あの名言を使う絶好の大チャンスだ!!
「だってほら、俺は長男だから! 長男は次男じゃ我慢できないことだって我慢できるし!」
「そ、それ……長男とか次男とか関係ないと思うよ?」
はあ、と溜息をついて、萩尾さんは続ける。
「でも、改めてごめん。私これまで、天音くんひどいこといっぱい言ってる。からかってるとか、玩具にしたいだけとか、そんなつもりなかったんだよね。天音くんも死にたくなるくらいつらい目にあってた。私、それを知らなかった……」
ふっ、と寂しそうな雰囲気を纏う萩尾さん。
あれ? ひょっとして同情してくれてる? そんなまさか……。
――たしかめないと。
「これで俺のこと少しは信用してくれたかな?」
「どうなのかな……? 今の話で、天音くんもつらい思いをしてたことはわかったけど、まだよくわかってない部分もあるのかも」
だよな、と俺は深く納得した。まだまだ俺と萩尾さんの間には距離がある。
なので俺は気を取り直し、覚悟を新たに口を開いた。
「じゃあさ、続き話すから、信用できるかどうかは全部聞いてから決めてよ」
「へ? 続き……ま、まだ話は終わってなかったの!?」
あれ? どうしてそんなに意外そうな顔をするんだろう?
それもまあいいか。今はできることに全力だ。自分の話に全集中しよう。
「これはね、ひまりと別れてしばらく経ってからのお話で――」
俺は萩尾さんに向かい、再び自分の過去話をし始めた。