わたしとタケシの日常
『わたしとタケシの日常』
腕時計を見ていると、タケシがそばに寄ってきて言った。
「なんだ? おまえ腕時計なんかしてるの? おじんくさー」
タケシは同じクラスの男子だ。たまに話をしたりする。だけど、女の子に「おじんくさー」はないと思う。
「時計って便利なんだよ」
わたしは腕時計を目の前に挙げたまま言った。
「こうするだけで、今の時間がわかるし」
「スマホだって、こうするだけで今の時間がわかる」
胸のポケットから、タケシがスマホを出した。
「タケシ、昼休みにスマホを出したな。没収だ帰りのショートホームルームのあと、職員室に取りに来い」
いきなり教室の外から担任の声がした。
タケシがスマホを担任に出した後、もどってきた。
「おまえのせいで没収されただろうが!」
「わたしのせいじゃないと思うよ」
「おまえが腕時計なんかしてるから!」
「あんたもすればいいでしょ。時計は没収されないよ」
「時計なんて高いモノ買えないし」
「今は安い日本製がいっぱいあるよ」
「Gショックとかか?」
「デジタルは、今の時間はわかるけど、あと何分あるかが、すぐにわからないからねえ」
「何を言ってるんだ、おまえは」
「これならもうすぐ昼休みが終わることがすぐにわかる」
チャイムが鳴った。
「タケシ、授業始めるぞ。さっさと席につけ!」
タケシがまた怒られている。
五時間目が終わったら、タケシがまたやってきた。
「あー! おまえのせいでまた!」
「怒られてるのはいつものことでしょ。わたしにカンケーなく」
「それもそうか」
「それよりも、『おじんくさー』はないでしょ」
「執念深いなあ、一時間も前のことを」
「タケシも一時間前のことを言ってきた」
「そんなゴツイ時計をしてるからおじんくさいんだ」
「女もののかわいい時計は文字盤が小さくて見づらいんだよ」
「教室に時計がかかってるだろ」
「体が小さいから、前の人がじゃまで見えないし」
「人間も小さいだろ、おまえは」
「ケンカ売ってる?」
「ちょっとタノミがあるんだが」
「だったらケンカ売るのはやめなさい」
「はい」
「ごめんなさいは?」
「ごめんなさい」
「それで頼みっていうのは?」
「来週模試があって、持ち物に腕時計ってあるんだけど、おれ持ってないし。それ貸してくれないか?」
「いいよ」
タケシはちょっと驚いたようだった。
「だけどこれ、Ωで30万くらいするから、レンタル料五千円ね!」
「やっぱりおまえは人間が小さい」
オチはないのである。
おわり