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言葉の中で生きる  作者: 牛牡丹
1/1

死ねと言われた少年 1

初投稿です。


作中のイベント名、人名はすべて現実世界のものとは一切関係ありません。

不定期投稿になりますが、読んでいただけましたら幸いです。

「死ね」


 そう言われた少年は、暴言を放った相手――少年の言葉を借りれば、奴――の思うより、ずっと深く傷ついた。


 言葉にはささくれがある。使いこなしている奴にとっては、「死ね」という言葉を投げたりするのにも造作は無い。その投げられた言葉を受け止めてしまった少年にささくれは深くささった。扱いに慣れていないので当然だ。少年は、傷ついたことを奴に悟られたら癪だと思い、ただ、ふん、とだけ言って鼻で笑ったような素振りをみせ、自分の席に戻った。


 休み時間が終わって、二時間目の算数の授業が始まってから、少年はさっきの問答を頭の中で繰り返した。




 奴には年齢相応の不真面目さと悪戯心があり、少年の目には、それらが悪意として映っていた。相手に対して軽口を叩いたり暴言を吐くというのは、少年にとっては許されざる罪である。


 それだけ正義感の強い少年は、嫌でも奴のことが気になってしまう。奴は一時間目の社会の授業が終わると、欠席中の田代さんの席に向かった。そして彼女の机の中に手を突っ込み、ゴソゴソしたあと手を抜き、廊下に出た。


 少年は決して田代さんと仲良くはない。喋ったことすらない。だから、少年が田代さんに抱く印象イメージは、メガネをかけている、本をよく読んでいる、ちょっと男子からも女子からも敬遠されている、それくらいだった。


 田代さんと仲良くはないが、正義感に燃える少年は、奴が田代さんに対して何かをしたのではないかと疑った。奴が廊下に出てしばらくしたあと少年は、机の下のものを拾うふりをしながら、田代さんの机の中を覗きこんだ。


 しかし中には何も無かった。


 ない物を拾ったふりをしてから椅子に座って少年は考えた。あいつのことだから悪口を書いた紙でも入れたんだろう、思い切って田代さんの机の中に手を突っ込もうか、そう考えた。


 三分くらい悩んでから、少年は行動した。鉛筆を落として、拾おうとして間違えて足で蹴る。授業中によくやってしまう自然な動作を心がけて、目的通り、彼は田代さんの席の方に鉛筆を転がした。




 少年の考えとは裏腹に、奴はたしかに粗野で荒っぽいところはあるが、相手を傷つけようという純粋な悪意は持っていなかった。だから自分の利益にならないようなこと――例えば、人を殴ったり――はしなかった。気に入らないことがあると態度に出やすい、ただ、それだけの子どもだった。


 だから、実は田代さんの机の中をゴソゴソしていたのは大したことではなくて、ただ算数の教科書を探していただけだった。授業中借りて、授業が終わったら返す、それだけのことだから彼には悪いことをしている意識は全くない。


 奴は、田代さんの机から借りられなかったから、隣のクラスの友達から教科書を借りてきた。

 



 奴が教室に戻ったとき、少年は田代さんの机の下の鉛筆を拾おうとしているところだった。だが、その様子が少しだけ変だった。


  普通の人ならば、しゃがむとき、机の上に手を置くものだが、少年は机の中に手を入れていた。


 それは何も考えず、ぼーっと見ていたら気づかない程度のおかしさだったが、奴は田代さんの机に用があった直後だったのと、少年のことが気に食わず、よく目で追ってしまうから気づいたのだろう。そう、奴は少年のことが気に食わない。


 下ネタで男子同士で盛り上がってるのに、少年だけはムスッとした顔で非難しているようだし、掃除時間にちゃんと掃除している。それが奴にとっては不快で仕方なかった。女子がそういう生き物だということは十一年という短い人生経験上、奴もよく知っていたが、男子でそういう人種がいるとは知らなかった。


今まで会ったことのないタイプの人間には接しづらいものだ。奴は、少年と関わることを避け、少年も奴のことを非難の目で見ていた。


 それで奴は少年のことを嫌った。だから少年が田代さんの机の中に手を突っ込んでいるのをみて、彼は少年に疑われていると即座に判断した。





「お前、なに俺の真似してんの」


 奴は舌打ちの衝動を抑えてこう言った。少年はぎくりとした。

 



途中ですがここで区切らせていただきます。次回もお楽しみください。

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