第五話「少女の秘密」
「どうするって、ここに置いてよ。私を盗んだのはケイタなんだから、当然でしょ?」
紗希は当たり前のように言った。
「そうはいってもなあ、俺は男で、お前・・・いや、紗希は女だろ?色々まずいだろ」
「大丈夫、ケイタは私に手を出せないよ」
紗希は笑って言う。
「ど、どうしてそう言える?」
「だって泥棒なのに、見つかっても何も手を出さなかったじゃない。そんな気の弱い人に、こんなか弱い女の子を襲えるわけがないわ」
彼はなんだか男としてなめられているような気がして表情を歪めたが、確かにその通りだったので反論しなかった。
「でも、学校とかはどうするんだよ?」
「学校なんてもう行かないよ」
紗希はふと悲しそうな表情を見せた。親に捨てられたくらいだ。よっぽどややこしい事情を抱えているのだろう。彼はその事には触れない事にした。
しかしいくらなんでも若い女の子が学校も行かずに、男の家に転がり込んでいるというのはいかがなものだろうか。泥棒をやっている自分が言えた事ではないか、と彼は苦笑いをした。
「ねえ、私考えたんだけど!」
紗希は満面に悪戯っぽい笑顔を広げ、身を乗り出した。
「なんだ?」
「私、ケイタの仕事手伝うよ。きっと役に立つと思うんだけど」
「仕事って・・・泥棒か?」
彼は驚いて聞く。また、嫌な予感がしてきていた。
「うん!」
「うんって、そんなの出来るわけないだろ。危険な仕事だし、もし見つかったら捕まっちまうんだぞ?」
「大丈夫、私は捕まらないよ」
「どうして?」
紗希は、乗り出した身を戻し、立ち上がった。
「私には、特技があるの。うん、特殊能力といってもいいかな」
「能力?なんだってんだ?スプーン曲げとかか?」
「違うよ、もっと便利で、泥棒にもかなり使えるね」
そういうと、紗希は突然天井からぶら下がる紐を引っ張り、電気を消した。
そして、すぐにまた明かりがつくと、紗希はいなかった。
「お、おい。どこいったんだ?」
「ここ!」
その声と共に、彼の方に手が置かれた。
「うああっ!!」
彼は驚き、振り返る。紗希は彼の背後で座り、また悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。
「い、いつのまに?」
「驚いた?これが私の能力」
「瞬間移動でもしたのか?」
彼は音も気配も感じなかった。それはまるで瞬間移動だった。
「違うよ。私は、姿を消せるの」
紗希はニヤリと笑った。