第三話「泥棒が盗んだもの」
「え?」
彼は驚き、また間抜けな声を出す。聞き間違いか。この女は何を言ったんだ?聞き間違いであってくれ、頼む。
「だから、私を盗んでっていってるの。さっき言ったように私、この家に一人なのよ?このままじゃあなたみたいな人がまた入ってきたら危険でしょ。だから、私をあなたの家ところに置いて。」
聞き間違いではなかったようだ。泥棒に向かって「自分を盗め」という人間がいるなんて。俺はどうやらとんでもない家に入ってしまったらしい。冷静さを取り戻したはずだったが、彼は再び混乱しだす。
「な、何言ってんだ。お前は人間だろ!盗めるわけ無いじゃないか。それは誘拐だ。俺はそんな変態野郎でも、身代金強盗でもないぞ。」
彼は必死に反論する。しかし、少女は軽く、ふふんと鼻で笑う。
「あら、そんな事いっていいのかしら?今すぐ警察に連絡したっていいのよ。何でもするんじゃなかったのかしら。」
「ぐ…。」
しまった。大誤算だ。この女、可愛い顔してとんでもなく嫌な奴だった。
「さあ、どうするの?黙って私を連れて行くか、警察に連れて行かれるか、どちらがいいのかしら。それにあなたにとっては顔を見られた相手が近くにいたほうが安心するんじゃない?」
災難だ。今日はかなり調子が悪いらしい。
「はぁ…狭いボロアパートだぞ。」
「ええ、広い家には飽きてたところ。」
少女は満面の笑みで答える。彼はその無邪気な顔を見てまた、溜め息を吐く。
こうして、彼は泥棒になって初めて、「少女」を盗んだのだった。