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まずは情報収集、そしてレベル上げだ

時間かかりましたがよろしくお願いします

どうしてこうなった?


俺は別に《アーチャー》として【職業】を選んだわけじゃないってのに。正確に言えば、半自動的に選ばれてしまったということでもあるが。


「解約」するにも俺にとっては金銭と時間、そしてカイさんにとっては労働という三重の問題が発生するわけだから諦めるしかない。


この世界で生きていくためにはこの〈クラス〉を極めること以外に方法はないと思われる。《転生者》として運命を決められてしまっている俺に変える資格はない。それ以前の問題として変える力もなければ意味もないし。


己自身のために変えることは許されない。それは〈現実世界〉でも〈異世界〉であっても相違ないし当たり前のことだ。だから俺は力を蓄えて生きる術を学び、以前はできなかった命果てるまで誰かを護り続けることにした。








今は〈教会〉の地下にある図書館または書物庫的なところでこの世界における知識を吸収しているところだ。ゼロと言っていいほど情勢などを知らない俺が今一番すべきことは情報収集である。情報は時に戦況において重要な役割を担うこともあるからだ。


戦果より情報を得た者の方が報酬を多く得ることは、過去の歴史において日常的に起こりえていた。それにおいて勝利の立役者が不満を募らせることを眼にせずとも想像できることだろう。


とまぁ、そんな風に上から目線的な発言をしている《アーチャー》ことタク、もとい俺は一心不乱に脳の記憶領域に絶賛コピー&ペースト中である。最初に読み込んでいたのはこの世界で6~15歳ぐらいの少年少女が習うようなものだ。


意外と対象範囲が広いが、難しい言葉を発見したら自分で調べるといった「自ら学ぶ」という教育方法があるらしい。日本では若者の政治への関心がなくなってきているという危惧もあったから、この世界においてもそういったことが起こらないように対策を立てているのだろう。


20歳でそんな簡単な本を読むのかと疑問に思うかもしれない。いきなり専門用語がズラッと並んだ書物を読む気にはなれなかったからという理由もあったが、最大の理由としてはこの世界の文字を認識できるのかということを知るためだった。


【ギルド】では加入するために自分の名前を紙に記入したが、その際紙には何も書かれていなかったから知ることができなかったしな。


だが言葉が通じているということもありそれほど心配はしていなかった。そして司書に頼んで簡単な書物を持ってきてもらい試しに読んでみると、予想通り問題なくスラスラと読むことができた。


確信あって大丈夫だと思っていなかったからか、読めたときにはホッと息を吐き深く安心したものだ。


読んでくうちに少しずつこの世界のことを知ることができた。といっても〈現実世界〉における小学生から中学生が知る日本の情勢的なものだから、本当にかじった程度なのは否めない。


数時間をこの場で過ごしたおかげで、今ちょうど20~30歳程度の社会に出たばかりの若者と社会を知った者たちか知り得る情勢を記憶し終えた。


ある程度読み終えたところでこの世界の仕組みについて簡単にまとめておくことにしよう。


この世界はどうやらヨーロッパ諸国を全世界に拡大させたような形らしい。


イギリスやポルトガルが面している大西洋がもっとも広く《フィヨバンシュ》と呼ばれている。その先は何もなくただ海が広がっているだけなようだ。地球みたいに球形ではないから繋がっていないのは当然といえば当然か。


地中海は《ドマニーヤ》と呼ばれ黒海は《ラターシュ》と称されている。アルプス山脈は〈神々が住まう山〉とされているらしくこれといった名称は存在しない。各国家が定めた愛称でそれぞれの庇護下にある国家が呼び合っているようだ。


この大陸は五つの巨大国家によって支配されておりそれぞれの国家の支配下にある中小国家、どこの国家にも属さない数多の街や村が主に人間が住まう土地である。中小国家間は身分証明ができれば自由に往来ができるが巨大国家間ではそうもいかない。


《手形》という〈身分証明及び本国において不利益になることはしない〉ことを証明する通行許可証が必要となる。これがないと罪に問われ何もしてなくとも自国へ強制移送される。そして一定期間の在住及び通行の禁止が言い渡される。


たとえ仕事上の都合でも国家間の交易交渉でも入場は許されなくなるため、不正入国を行う輩はそうそういないということ。それでも不正をして国外追放を受ける存在もいるとか。


各国家によっては金銭価値が異なるのでどの国家でも〈金銭換算システム〉という方法で取引が行われている。


どの店にも〈保証人〉という国家に認められた役人が在中し、異なる国家から赴いた旅人や行商人との売買を補助する【職業】がある。その人物にしかそのシステムを操作できないので必要不可欠。


この役職は日本で言えば国家資格の税理士や司法司書といった、とんでもない高位の資格保持者である。


当然資格を得るための試験は生半可なものではなく《五大国家》の情勢や品々の価値、季節に応じた適切な値段といったすべてを網羅した者にしか与えられない資格なのだ。


見返りだってもちろん豪華である。衣食住の無償提供に老後の介護などの保証。また娯楽や日々の生活も基本無料に近い待遇である。国家の支配下から送られる税金のうち、7分の1が【保証人】の待遇に賄われていると言っても過言ではない。


国家の規模によるが大体の人数は1万程度でありある意味英雄的な存在だとか。店が増えれば増えるほど【保証人】も必要。そのため店を開店させるには厳しい審査をパスする必要がある。


配分する給料が増えるため国家は不定期に試験を開催する。年に3回行われることもあれば数年間一度も行わない年もある。


志願者からすれば悪夢ではあるが、それに対しても国家が待遇を与えるので不満が上がったことはない。受験者及び志願者は国家公認の学習塾的な場所で勉学に励むことができる。寮制もあれば通いのどちらでも可能。食事にベッドやトイレ、風呂などが無料で使用できる。


こういう待遇の厚さから志願者の人数は年々増加傾向である。ただし受験料はいささか値が張るものだ。受験料が高くとも合格すれば一生の待遇にありつけるので試験を何通りもの方式で受ける猛者もいるとか。


全方式で受けると合計金額は1万Gなのだとか。なんにせよ受験者数がもの凄い(具体的にいえば関西の某有名私立大学以上)ので、無償提供するための国家予算を超える収入がある。これにより各国家はそれだけでも経済を動かすことができる。


【保証人】の仕事は買い手と売り手が異国同士だった場合に行われる。買い手が買いたいだけの金額を自国での金額として紙に記入して【保証人】に渡し売り手も同じようにする。【保証人】がそれを〈システム〉に読み込ませて整理させる。


その際に両人の国家情勢と経済状況を〈システム〉から読み解き、双方に適切な金額を伝えることで交渉が開始される。売り手と買い手の主張が折り合わない場合は【保証人】がアドバイスをして値切り交渉を円滑に進める。


交渉が決裂するか成立するかは【保証人】の腕前にかかっているのでかなりシビアな【職業】であることは否めない。


次は《五大国家》についての説明だ。


周囲を砂漠に囲まれオアシスを中心として奴隷商売で成り立つ暗黒国家の《ブラン》。周囲を樹木に囲まれ樹齢150年を超える神木を崇め木材資源で成り立つ加工国家の《テュリー》。


周囲を水で囲まれ漁業で成り立つ難攻不落国家の《アクアリン》。


周囲を岸壁で囲まれ正面突破のみが作戦にされる鉱石、または宝石で成金的な状態で成り立つ採掘国家の《ロックトン》。周囲を草原に囲まれた畜産と酪農で穏やかな様子で成り立つ農業国家の《アルギー》。


それぞれが特徴的な特産品で国家を維持しているのがわかる。《ブラン》にだけはあまり行きたくはないが、旅をするという目標がある以上は赴かないわけにはいかないかな。


《ブラン》がイギリス、《テュリー》がドイツ、《アクアリン》がイタリア、《ロックトン》がウクライナ、《アルギー》がポルトガルといったところだ。


俺が今いる場所は《テュリー》と《アクアリン》の中間に位置する中立の街で《ビンザン》という。


地理的な位置づけでいえばオーストリアやスイスだと思えばいい。といってもこの世界はヨーロッパが縦長で横長にワイプされているから、正確な位置情報は手に入れられないというのが現実。


ヨーロッパの各国の首都も大きくなっているだろうから移動するにも一苦労な気がする。スペインとポルトガル、フランスを合わせた面積が一つの国家の所有領土らしい。いやはやまったく、想像もできない膨大な面積だとしか言葉にできない。


地理的な位置づけといってもイタリアはユーラシア大陸上にあるが地中海に浮かんでしまっている。イギリスに至っては昔から島国だったが、日本と同じように各国からかなり離れた場所であるため、孤島となっているから地図に違和感しか感じない。


ノルウェーやスウェーデン、フィンランドは存在していないから実質イギリス、もとい《ブラン》がこの世界における最北端の国家になる。


ブルガリアと陸続きのトルコはアジア圏であるからもちろん存在しない。


となると、ギリシャかイタリアが最南端であるがイタリアが地中海にポツンと浮いている。さらには地図で見てもかなり距離があるとわかるのでイタリア、もとい《アクアリン》が最南端だ。


ヨーロッパの最東端はウクライナであるからして《ロックトン》が最東端。反対にポルトガルが最西端であるからして《アルギー》が最西端である。


無数の村や街がある以上、旅を続けていれば文字で表す余地もなくなるだろう。といってもそれまでには《システム・ウィンドウ》の〈マップ〉で見れるほどに、情報は増えているだろうからこの方法は今だけということだ。


初期から使っていた方法が使えなくなるということを考えると少しだけ物悲しくなるのは何故だろう。といってもまだ旅に出れるほど金もあるわけでもないし装備も揃えてない。さらにはスキル値も盆弱だから〈ゲームオーバー〉になるのは眼に見えている。


ここまで説明したところで俺は少々勘違いしていたことに気が付いた。【職業】は自身が何であるのかということであって〈クラス〉とはまた違った枠組みであるということに。道理でいつまで経っても《窓》の〈〉が《アーチャー》で【】が空欄になっているわけだ。


おそらく旅に出れば【】の部分が【旅人】に変わり、〈〉は《アーチャー》はそのまま残るはずだ。それまでに所有武器を〈スリングショット〉からより強い武器に進化させておきたいものだ。せめて《アーチャー》であると一目見ればわかる武器にはしたい。


「それじゃこの世界の基本知識の収拾は置いといて。さっさとスキル値とレベル上げにクエストにでも行ってみますか」


独り言を呟いて立ち上がり読みあさっていた書物を司書に渡して〈教会〉を後にし、クエストをするために【ギルド】へと向かうのであった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「やめときなあんちゃん」


【ギルド】に着きクエストについて尋ねたところそんな返事が返ってきた。それは腕が立たないから拒絶しているというわけではなく、純粋に初心者を気遣う言葉なのだとは俺にだって理解できていた。でもなんの説明もなく断られるだけでは気分を害しても仕方ない。


けれど怒りを言葉に乗せて聞くのは失礼を超えて侮辱に値する。俺の体を心配して気遣ってくれているのに邪魔もしくは煩わしいとばかりに無視するのは許されない。だから俺は受付を断られた理由を聞くことにした。


「駄目な理由は一体何なのでしょうか」

「近頃夕刻から強力なモンスターが街の周囲を徘徊するようになっているからさ。この街にもそれなりに腕の立つ奴らはいるんだが、そいつらでさえ夜は街の外には出ないぐらいに強いんだとよ」

「どんなモンスターなんですか?」

「聞いた話によれば〈魔族〉に似ているようだぞ。まあ、(おれ)も直接見たわけじゃねぇから断言はできないんだけどよ」


〈魔族〉ね。スライムとかゴブリン、オーガ、オークとかいったモンスターがいるのは書物で読んだから知っていた。だが〈魔族〉というものは一切記されていなかったから目撃されることさえ少ないのだろう。いやむしろ、いないと思われているのかもしれないな。


知っているのは腕の立つ存在つまりは勇者。そいつらしか直接眼にできていないのだろうし報告は一切合切してないのだろう。そんなのが現れたと噂が出回れば、国中がパニックに陥る可能性がある以上公にはできない。


国だって大事にはしたくないだろうしな。でも国民に重要なことを話さないでおくのは国家として間違っていると思うのは可笑しいことだろうか。口にはださないがそう思っても咎められることはないはずだ。そういう思いは胸の内にしまっておくことが一番だと20年という短い人生で知ったことだ。


「〈魔族〉はいないとみんな思っているのですか?」

「そりゃな。見る機会もなければ見た奴さえほんの一握りだけだ。我が知っている理由は知り合いからの情報と昔一度だけ見たことがあるからさ」

「見たことがあるんですか」

「今でこそ【ギルドマスター】っていう役職に就いてはいるが10年前はそれなりに戦っていたのさ。いつかは世界に名を馳せる人間になってやるって思いながらな」


受付の椅子に座り腕を組んでたばこを吹かす【ギルドマスター】。遠くを見る眼に映るのはその頃の自分の後ろ姿だろうか。哀愁漂う様子にマズイことを聞いてしまったのかと後悔していると、カイさんが悲しそうに俺を見てきた。


「良く言えば向上心あり純粋な若者だったわけだがそれのせいだろうな。今の我があるのは」

「何かあったんですか?」


聞くべきではないことだとわかっていたが聞けるチャンスは今しかないと思い先を促してみた。


「死んだのさ。我がリーダーを務めてた部隊の1人がな」

「えっ?」

「10年前まで我は《テュリー》の軍隊の指揮官だったのさ。ある日、強力なモンスターが出るという噂を耳にして討伐に向かった。着けば確かに強力なモンスターで我も全力で戦ったが1人殺された。我の采配ミスってわけではないと言う奴もいたが我のせいだと言う奴らもいた。どっちが正しいのか我にはわからなかった。我を責める奴らと庇う奴らの間で戦闘が始まってなその責任を問われて我はリーダーを辞めさせられた。そこ以外に居場所がなかった我は行く当てもなくただただ彷徨い続けた。何日経とうと何週間過ぎようといるべき場所を見つけられなかった。死のうと思ったこともあったが、死んだ奴の分も生きなきゃ駄目だって思いながら傭兵的な感じで生きる術を身につけていったんだ」


いつの間にか俺は受付の前に椅子を移動させて静かに聞き入っていた。話を聞いているだけだというのにその様子が鮮明に浮かび上がる。


自分を人殺しだと罵る甲冑を纏った男。自己責任だと自分を庇う杖を持った青年。どんなに謝罪しようと断罪する言葉が自分の身に突き刺さる。いつの間にか自分を庇う言葉さえ傷つける言葉にしか聞こえなくなった。


それらから逃げるように国を着の身着のまま飛び出した。雨に打たれようとモンスターにターゲットされても走り続けた。


「これ以上無理だと思っていた頃に辿り着いたのがこの街だった。爺に保護されあいつのためにできることはないか探していたら先代の【ギルドマスター】に誘われたんだ。先代のマスターの息子に嫁いでいたのが我の妹だった。手紙で何処かの街に嫁いだというのは知っていたが此処だとは思わなかったな。我が辿り着く数ヶ月前に子供も生まれていた」

「その方々も働いているのですか?」

「いや、5年前に世界中で大流行した伝染病で死んじまったよ。先代も妹夫婦も看病の末、我の前で息を引き取った。その時10歳だった姪をいつか自分の娘だと自慢できるぐらいに育てると誓った。…おっと、長くなったな。ということで、今のあんちゃんじゃさよならするのがオチだから今日は諦めな」


あれほど悲しい話をしていたというのに今の笑顔がお茶目だと感じて笑みをこぼしてしまった。辛い過去があるから今は前向きに歩めるということだろうな。過去の自分を否定せずその自分に今の自分を重ねてたくましく生きている姿はあっぱれだ。


俺もこんな心優しく心の強い人間になりたいと思うほど眩しい。憧れても良いかな?出会って言葉を交した人数は片手程度だけど良い人に巡り会えたと自慢できる。


「今日はやめときます。まだ時間はありますか?」

「構わないぞ。姪の看病は居候野郎がしてるからな」

「居候ですか」

「悪い意味ではなくてな【ギルド】に住みついたメイドみたいなもんだ。腕は確かだし愛想も良いから勇者には人気さ」


そんな人もいるんだな。この世界は意外と〈現実世界〉と似た境遇の人達もいるみたいで〈異世界〉感が薄れる。悪い意味じゃなくて慣れるのに時間がかかるだろうと思っていたから安心した。


「で何が聞きたい?」

「明日から実戦に赴きたいんですが効率の良い方法やクエストはありますか?」

「おうちょっと待ってな」


そう言うと受付の出入り口から出て〈依頼ボード〉へとカイさんが歩いてく。何枚か手にとって戻ってきて机に並べた。


「まず初心者にオススメなのは〈採集クエスト〉だ。どんなのかは知ってるだろう?」

「はい、指定されたものを一定数持ち帰ることですよね?」

「その通り、次は難易度が少し上がって〈素材集め〉だ。これも〈採集クエスト〉と似ているから延長線上にあると考えてくれれば良い。難易度が上がる理由としては必要数が増えるまたレア度が高いものだからだな」

「ふむ。それより難しいのがあるんですか?」


聞いてみるとニヤリと笑って1枚を指差すのでそれに眼を向ける。それには討伐という物騒な単語が書かれていた。


「初心者に渡すクエストで一番難しいのが〈討伐クエスト〉だ。文字通り〈お題に書かれているモンスターを倒してこい〉というもんだ」

「スキルや経験値とかに影響があるのはどれかわかりますか?」

「どれもクリアすれば同じように手に入る。そうさなぁ、レベル経験値とスキル経験値が良いのは〈討伐クエスト〉だが安全面考慮しながら得たいなら〈素材集め〉だろうな。言ってくおくが〈素材集め〉は〈採集クエスト〉と似ているが別もんだ。〈採集クエスト〉はお題のものを指定された分やらなきゃ駄目だが、〈素材集め〉はお題がないから自分の好きなようにできるしいつでも切り上げることができる」

「〈採集クエスト〉は途中で切り上げると失敗になるんですね?」

「ああ、達成していないから当然だ。失敗したかどうかは〈システム〉が判断して失敗すれば我の元にそれが通達される」


どれを選ぶにも自分の適性それと〈ステータス〉で変わるようだ。レベルが高くスキル値が低かったら、スキル経験値を多く貰えるクエストに行けばいい。そうそう有り得ないだろうがスキル値が高くレベルが低ければ、レベル経験値効率の良いクエストに行けばいい。


通常、レベルの方が上がりやすいのだからスキル値が低くてレベルが低いなんてことはない。とはいっても普通はという注釈付きだからないとは言い切れないのだ。


「〈採集クエスト〉と〈素材集め〉で迷っているんですが難易度以外に違いはありますか?」

「〈採集クエスト〉はレベル経験値優先、〈素材集め〉はスキル経験値優先という特徴だな。だがどっちを選ぶかと聞かれれば俺は〈素材集め〉を選ぶぞ」

「どうしてでしょうか?」


歯をきらめかせて言ってくるので疑問に思いながら聞いてみた。


「〈採取クエスト〉はお題をクリアしたらどんな状況であれ街に《強制転移》させられるからだ。〈採集クエスト〉に行くのは子供か老人、または初心者が圧倒的だから安全面を考慮しているということさ。その反面〈素材集め〉は気兼ねなく時間を気にせず好きなだけやれるから推すぜ。中には時間を忘れて一日中ぶっ通しでやって夕方、モンスターに追われて全力疾走して帰還した猛者もいたがな。はっはははははは!」

「…それは中毒者ですよ」


豪快に笑い飛ばしているからそれほど気にしなくて大丈夫な人だったんだろうな。俺もそうならないように太陽の角度や時間を時々確認することにしておこう。それぐらい長時間潜れるほどの精神HPは保有していないし気力もない。


「じゃあ〈素材集め〉にすることにしておきます。予約できますか?」

「あいよあんちゃんまいど。今回は初回クエストってことで〈契約金〉は無料(ただ)にしておくぞ」

「そんなのがあるんですか」

「そういやこれもまた説明してなかったな」


マズったなという感じで後頭部を右手でかき始める【ギルドマスター】。しっかりしていそうなのに案外ちょっとしたところで抜けているみたいだ。こういうちょっとしたところでボロが出るのも親しみやすさアップに影響しているらしい。


「クエストには〈契約金〉と〈報酬金〉の2種類がある」


ロイさんが指を2本立てながら説明してくれる。


「〈契約金〉とは簡単に言えば【ギルド】が〈クエストを受け付けました〉っていう証明になるもんだ。クエストをクリアすれば返却される。次に〈報酬金〉は依頼主から渡される金銭のこと。難易度が上がれば上がるほど〈報酬金〉は増加するが危険度も増していく」


某複数プレイでモンスターを倒すゲームと同じ原理らしい。2倍になって返ってくるわけではないがそこは割とどうでもよかったりする。


「同じ依頼主のクエストを数多くクリアすれば何か良いことがあったりするぞ。それから時たまに【ギルド】や領主からの依頼もあるから定期的に〈依頼ボード〉を確認してくおくことだ。報酬もそれなりに高価なもんや金額が一桁多かったりするぞ」

「争奪戦になりそうですね」

「そうなったらそうなっただ。普通は早者勝ちだが平等にくじ引きやじゃんけんで決められることも少なくないぞ。1番手が失敗すれば次は2番手と順番待ちになることも珍しくない」


次にいつ来るかはわからないが眼にする機会があればどんな様子なのか見てみることにしよう。楽しいものなのか殺伐としているのかは別にして。


「クエストに行くのはいいがその前に装備を揃えてみたらどうだ?良い店があるから連れて行ってやる」

「何から何まですみません」

「気にすんな。あんちゃんは見込みがありそうだし【ギルドマスター】として駆けだし勇者を支えるのは当たり前よぅ。我は率いるより支える方が性に合っているみたいだしな」


屈託のない笑みを見れば嘘だとは思えない。まあ筋肉隆々なところに笑顔を浮かべられると違和感が半端ないのだが気にしないでおこう。


「って今からですか?」

「おうよ。【ギルド】を閉めることを心配しているなら野暮ってもんだぜ。どうせあと5分もすれば閉店だから多少前倒しになっても問題ないって事さ」


【ギルドマスター】がそう言うのであれば引率してもらう身分の俺が口出しすることははばかれた。数分後、【ギルド】のドアに〈close〉と書かれたサインプレートを内側から掲げて、裏口からラフな服装に着替えたカイさんが出てきた。


「待たせたな」

「いいんですか?あれを見せるだけで」

「どうせ居候が片付けてくれるさ帰ってきたら我もそれなりにはするけどよ。じゃ行くぜ」

「お願いします!」


至れり尽くせりという贅沢ぶりだがカイさんも楽しそうで嬉しそうだし気にしないでおこう。俺が引け目だったら気にするだろうし空気を壊したくない。だから俺は頼り甲斐のある大きな背中を追って足を踏み出すのだった。

頑張ったとは思います

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