職業決定したけど何ですかこれは!?
頑張って書いたのでそれなりには色々と詰め込めたかなと思います。
重い、暖かい。そして柔らかい。
鈍い感覚器官から脳に届く情報を言葉にすればそんなものだった。意識覚醒の半ばなのか周囲は見えず音も聞こえない。
重いのは体を動かすことに対して。温かいのは体を包み込んでいるものに対して。柔らかいのは自分の体が素で触れている部分に対して。
わかるのは自分が柔らかい何かに寝かされ、上から温かいものを被せられているということだけだった。そして消毒液のような鼻を刺す匂いが充満しているようにも感じられる。
ようやく体全体の感覚が戻ってきたらしく眼を開けると白い天井が見えた。本当に白く汚れがついている場所がないほどに綺麗だ。
頬に風を感じたので視線を向けると窓が開け放たれていて心地良い風量と角度で吹き込んでくる。風にたなびく薄水色のレースと水面が煌めく湖とあいまって素晴らしい景色だ。
「ここは、何処だ?」
上半身だけ起き上がらせ窓の外の景色から自身の状態を見る。服装は診察着に似ているがこの世界には似合わないデザインだ。だが似ているといえば似ているから診察着と仮称してもいいのではないだろうか。
上半身から下半身までをひとつの布で覆っているからそれでいい。そうであろうとそうでなかろうと、さしたる問題は発生しないしね。
刺繍などはなく淡い黄緑色なので翡翠色とでも言えばいいだろうか。なんとも語彙力に乏しいのでそのような色としか例えることができないのが悔しい。これだったらもっと国語を勉強しておくべきだった。
「おお、起きたのだね?」
自分の〈現実世界〉でしておくべきだったことを反省していると、声が聞こえ振り返ればドアを開けた状態で温和に微笑んでいるお爺さんが立っていた。白髪に覆われた頭部、服装は俺と同じようなファンタジー風の上下に医師らしき白衣を重ねている。
第一印象は優しいお医者さんというものだったが次に聞かれた言葉で俺の印象はがらっと変わった。
「お前さんは〈異世界〉から来たのかね?」
「…どういう意味でしょうか」
普通なら目が覚めたことを確認すれば記憶障害がないかどうかを確認するだろうに。だが今の発言には重要な意味合いが含まれている。
「俺が起きたタイミングで入ってきたこと」、「俺が〈異世界〉から来たのか」と聞いていることの2つだ。
タイミングは偶然という可能性もあるがそれはどうも胡散臭く感じてしまうのはどうしてだろうか。気のせいということで済ませて良いものか。まあいい。それより重要なのは「〈異世界〉から来たのか」という質問だ。
この街に住んでいる者であればそんな風に聞いたりはしないし失礼な聞き方なのである。だが老人の発した言葉には確信めいた何かが含まれているように感じられた。
敢えて質問して自覚があるのかどうかを試しているのだろう。俺からしたらいい迷惑なのだが。
「…そういうことになるのでしょうね。気付けばこの街にいましたから」
「…やはりか」
「何かご存じなのですか?」
情報収集が命の次に大切なのはどのゲーム世界でも一緒だ。情報がなければ思わぬ事態に巻き込まれてゲームオーバーになる可能性は否定できないし。
それにこの世界の事は何一つ知らないしうえに、〈異世界転生〉とかの事前知識なんてライトノベルやアニメとかでしか得られていない。
「まあなんじゃその。この世界には〈異世界〉から人がやって来るんじゃよ。現れる理由もわからなければいつ来るのかも不明じゃが」
「そういう人が多いのですか?」
「この街に現れるのは十数年ぶりじゃ。もっと遠くの〈王都〉では、年に1人はやって来るということを聞いたことがあるがな」
少なからずこの世界には俺と似たような境遇の人々がいるらしい。安心できるのは事実だが問題は何故この世界にいるのかということだ。
齢60ぐらいの爺さんでも知らないのであれば街の誰かに聞いても無駄骨だろうなぁ。だが爺さんの発した「じゃが」という言葉の続きに耳を傾けてみた。
「じゃが、儂がまだ10にも満たない歳の頃に村を訪れた魔術師が口にしたのを今でも覚えている。『〈異世界〉より転生されし者は、いずれ厄災をはねのけ、伝説になるであろう』という信じようにも信じられない言葉をな」
「〈転生されし者〉ですか。この世界に突如現れる人がそうなのであればもう既にやって来ているのでは?」
「その可能性も無しじゃなかろうて。この世界にやって来て名を馳せた転生者なんぞ数える程度しかおらんわい」
どうやって功績を得たのかはわからないが、まあ生きていればいつかはその情報を得る日が来ることだろう。まずは自分のこれからを考えていくべきだし、衣食住についても知る必要がある。
「ま、お前さんがこの療養所に運び込まれて状況を知ったときに予想はついておったがの」
「何故でしょうか」
「お前さんが来る前にこの街に現れた輩がお前さんと同じような症状だったからじゃ。遠方からやって来る行商人に聞いたところでは〈王都〉でも同じらしいぞ。突然現れていつの間にか倒れた人は全員〈転生者〉という共通点があるのじゃ」
そういうことであれば予測ができても可笑しくはない。だからあの時違和感を感じたのは俺の勘違いではなかったということである。
なかなかやるではないか俺も。ふははははははは!…とまあ自惚れるのもここまでにしてっと。
先程の言葉にもなんだか棘が生えている気がしたのだがこれもまた気のせいだろうか。一度当たった勘が二度連続して当たるという保証もないから口にはしないでおこう。
「体や脳に異常は見当たらんからいつでも出て行ってもらっても構わんよ。お主に行く当てがあるのであればという話じゃが」
「…ありません」
今絶対俺は全身から汗を噴き出している絵面になってんぞぉ!出て行くのは自由だが行く当てもないのだからその案はないということだ!
どうしたらいいんだ!?この世界に来て気絶して目覚めたら行く当てもなくゲームオーバーだと?無様というより悲しいわ!
例えるならゲーム開始して速攻敵モンスターに倒されておじゃんとかいう奴だよ!どうすんだよ!どうすんだよぉ!
「落ち着かんか。誰も追い出すとは言っとらんのじゃから、ここにいても怒らん。療養所が満室になることなんぞないんじゃからいつまでいてくれてもいいんじゃぞ。食事には金がかかるがそれ以外は自由にしてもらって構わん」
「金か…。持ってなかったらどうしたらいいんでしょうか?」
「そういえばお前さんは《ステータス・ウィンドウ》を覗いたことがあるか?」
「《ステータス・ウィンドウ》?」
ゲームとかで見れる自分自身の強さとかを見れるそういうやつなのか?でもどうやって出現させるかわからないし、あるということ自体今の今まで知らなかったぞ。
「頭の中で『《ステータス・ウィンドウ》を開く』と命令すれば視界にでてくるはずじゃ」
「やってみます。ええっと…あっ、出た出た」
脳内で指示を出すと視界に半透明の画面が映し出されつい声に出して喜んでしまう。
「そこにお前さんの体力、そして魔力といった全ての情報が記されておる。〈可視モード〉にすれば他人にも見せることが可能じゃ。ほれ」
「本当だ。色々書かれてて見にくいですけどね」
爺さんの《窓》には年齢と名前、体力、魔力、そして職業が記されている。名前はロイさんか。レベルが41、体力は700/700、魔力が214/238、そして職業が【医者】となっている。
体力はHP、魔力はNPと記されているところは魔法を使うゲームと一緒だ。
思い返せば子供たちがHPやらNPとか〈スキル〉とか言っていた。つまりはこのことだったんだな。
気付くのに遅れた自分が少し情けなく感じるが、未体験の場所なのだから知らなくても仕方ないと自分を慰めてもう一度ロイさんの《窓》を眺める。
自分と比べれば違いは一目瞭然だった。俺のレベルは1、HPは1000/1000、NPが100/100となっており職業の欄は【?】と示されている。
HPがロイさんより多いのは歳が若いというのが大きいだろう。NPが少ないのは俺が初期値というのもあるしロイさんが【医者】であるというのもあるのだろう。
【医者】ともなれば手作業だけではなく魔法を使って処置することもあるのだから、NPが高いのが普通である。少し減っているのは俺を治療したときに魔法を使ったからだな。
体や脳に異常がないかどうかを調べるために使った魔力の消費量を減少量が示しているはずだ。
見ているうちに215/238と1増えたのでこれが「NP回復」というものなのだろう。スキルなのか誰もが所持しているものなのかは俺も使用するまでわからない。視線を自分のに戻し全体を見渡すと【30G】と記されている。
「【G】というのがこの世界における金ですか?」
「読み方は【ゴールド】じゃ。金貨、銀貨、銅貨の三種類で物は売買されとる。銅貨50枚で銀貨1枚、銅貨250枚で金貨1枚、銀貨5枚で金貨1枚という計算じゃ。《ステータス・ウィンドウ》には合計金額が金貨で示されとるんじゃが、本来はもう少しあると考えておけば良い」
「金貨や銀貨の規定枚数に達していない銀貨や銅貨があるということですね?」
「その通り。面倒くさいことに【G】の場所を詳しく見ると命令すれば、それぞれの枚数を知ることができるんじゃが暇なときに試せばいいじゃろ」
つまり今の俺の手持ちは金貨で30枚、銀貨で150枚、銅貨で7500枚。そして銀貨と銅貨数枚ということらしい。
「では聞いても良いかの?」
「何をでしょうか」
「ここで暮らし続けるのか、それとも己を鍛えて仲間を集い旅をするのかということじゃ。ここにいても儂は一向に構わん。話し相手が増えるということで暇なときが少なくなる。旅に出るのであれば多少なりとも支援をしても良いと儂は思うとる。決めるのはお前さん次第じゃ」
確かにここでお世話になるのも悪い話ではない。危険な目に遭わずに謳歌することもできようさ。だがそれでいいのだろうか。
この世界に来たのだから旅に出て自分自身を鍛えていくのも面白い。危険な目に遭って命からがら逃げるということも否定できない。
だがそれでこそ旅というものではないか。楽しみ、苦しみ、痛みなどを感じ野宿して自然を感じるのも一興だ。となると俺がするのは決まっている。
「旅に出てこの世界のことを知りたいです」
「ふん、そう言うと思って【ギルド】に連絡しておるわい」
手際の良いことで。【ギルド】の場所も知らなければ、どのように書類などにサインするのかもわからなかったから感謝します。そこに行けば旅に出るための装備と【職業】を得ることもできるだろう。
【職業】は何にしようか。勇者になるわけではないがカッコいい【職業】といえば剣士だろうなぁ。
敵をぎったぎったに斬り倒して返り血を浴びながら、地面に剣を突き立てる自分の後ろ姿や、馬に乗り「進めぇ!」と命令を下している自分を想像する。
カッコいいじゃないか。そんなことになるのはいつになることだろうと思うが叶うのであればいつかはそうなりたいものだ。
「ではさっそくお願いしても良いですか?」
「任せなさい。これでも顔の広さには自信があるんじゃ」
ということで俺は療養所から【ギルド】に向かうのであった。
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【ギルド】と聞いて期待に胸を膨らませて行ってみたのだが俺の想像は儚く散った。なんと普通の民家に食堂や〈依頼ボード〉、受付を取り付けただけのこじんまりとした場所だったからだ。
これなら前もって説明しておいてほしかったぞ。
しかも受付の人物は強面だしかなりの危険を駆け抜けてきたと思わせる雰囲気を纏い、それを容赦なく周囲へ放出させているから冷や汗が止まらねぇ。
受付って可愛いお嬢さんか美人な女性が請け負っているイメージがあったから、衝撃が余計に大きかったけどね。
男性でも気にはしないけど、筋肉が隆起した肉体を惜しげもなく見せている人が受付だったら萎縮してみんな逃げ出すわこれ。
だからなのか片手の人数しか【ギルド】にはいない。これでは経営が成り立つのかというぐらい不安になってくるぞ。
「この若造がさっき話した〈転生者〉じゃ」
「よ、宜しくお願いします」
「ふんっ」
じろりと俺を一瞥しただけで会話終わっちゃったぞ。テーブルに肘ついてたばこふかしてるけどこれでいいのか?人と会話をする態度じゃないぞ。
「今日はまた一段と機嫌悪いな。なんじゃまた賭け事で金を巻き上げられたのかだらしないのぉ」
「骨折んぞ爺こら」
「お主のようなひよっこに折れるものか」
「やってやろうじゃねぇか!」
うおおい!喧嘩始まってんぞ!Lv.1の俺じゃジャブでHP全損させられるような気がするから体張って止められねぇよ!だがいつか英雄として語り継がれるようになる者としてここで怖じ気づいているわけにはいないぞ。
「喧嘩は後にしましょうロイさんと…ええっとぉ」
「カイだ。無愛想なのは性分でな普段は裏方なんだが、姪っ子が体調崩して今日だけ俺が受け付けやってるだけだぞ。こんながさつな物言いだがそこは許容してくれ。こう見えても一応は【ギルドマスター】だからな」
「俺的には似合ってると思いますよ」
「おお、わかってんなぁあんちゃん!」
バシンバシンと背中を大きな掌で叩いてくるから痛いぜ。だがまあ嫌な気はしないし話してみると気さくで楽しいから気にしていないさ。人は見かけによらないと言うがまったくもってその通りだな。
笑えば意外と愛嬌ある笑顔だし意外と大人受けは良いと思うぞ。
「で、あんちゃんは旅に出たいとか言ってるらしいが本気か?」
「本気ですよもちろん」
「だがよぉ、あんちゃんは〈転生者〉でこの世界のこと知らねぇんだろ?」
「まったくもってゼロですね。それに〈ステータス〉とかそういうことにも疎いですし」
情勢なんぞ知らないし〈王都〉ってのも知らない。強いて言えばモンスターとか基本知識があまりにも不足しすぎているから、旅に出るのは非常に危険なんだろう。
危険なのは重々承知しているが今回は未知数と考えても良いな。
「そうかぁ。教えてもいいんだがな俺は人に教えるという行為自体がかなり苦手でよ。ということで爺頼むわ」
「嫌じゃ儂は面倒くさい」
「なんだとぉ!?言い訳だろそれはよぅ!年取って物忘れしやすくなったことを誤魔化す最大の理由なんだよ!」
「年寄りに向かってなんという口の利き方じゃ!もっと労らんかい!」
「はっ、爺を労るとか誰がそんな風に扱うかよ片腹痛いわ!」
…この人たちって意外と仲良いのかな?胸ぐらつかみ合ってるけど本気の殴り合いには発展しなさそうだし、本気で罵り合ってるようにも見えない。もしかしたらこれが日常で恒例行事だったりして。
「おっと、あんちゃんのこと忘れてたぜ。誰かに教えてもらうのもいいだろうが自分で学んでみるのもありだと思うぞ。子供らに聞いても知らないことは多いだろうし大人っていっても大抵は農作業で教える暇はねぇ。年寄りに聞いても情報は古いから基本知識は身についても今の情勢の情報は手に入らねぇ。となれば残る方法は今と昔を効率よくまとめた〈知識の書〉を読みあさることかね」
「それは近くで手に入るんですか?」
「街の中央に〈教会〉があるんだがそこの地下室に読み切れねぇほどの書物が保管されてるんだ。司書に頼めば目的の書物を持ってきてくれるさ。簡単なものから理解不能な難解なものまでな」
情報収集はそこに行けば大抵のことを吸収できるだろう。問題があるとすれば文字を理解できるかどうかだ。《窓》を見てもこの世界のものであると断定できる文字はなかった。だが聞くのであれば問題なくできるし話すことも大丈夫なようだ。
省略された頭文字だからどんなつづりなのかわからない。ただ【G】は【ゴールド】の省略だとロイさんが言ってたな。
そもそも《ステータス・ウィンドウ》は英語だから、もしかしたらこの世界は日本語と英語が使用されているのかもしれない。
「そこへ行く前にまずはっと。あんちゃんを【ギルド】に加入させなきゃならん」
「加入ですか?」
「ああ。簡単に言えば放浪者とか野良の旅人ではないことを証明する《刻み》だな。これがあればどの街に行っても【ギルド】の〈依頼〉を受けることが可能になるのと、大抵のものが格安で手に入れることができるんだぜ」
「確かにそれがないと困りますね」
それがあれば金の浪費が極力抑えられるし正規の旅人としても認めて貰えるのだ。ということは【ギルド】に所属している者は全員無害な人物と言えるのだろう。犯罪者にそんなものを持たせる必要はないしむしろ巻き上げるべきである。
「先に言っておくが。〈刻み〉があるからといって罪を犯していいわけじゃないからな。具体的に言えば軽い罪でも回数をすれば取り消されるし再発行も容易じゃねぇ」
「する気はないのでご安心を!」
「そんなことした日にゃ俺がしばきに行くから覚悟しとけよ」
カイさんが狂気の笑みを浮かべるので、元からするつもりはなかったのだが絶対にしないと誓う俺であった。この人に来られたら罪を償うどころか、命をもって謝罪しなければならなくなるだろうから。
「加入は簡単だ。この紙にあんちゃんの名前を記入すればいい。あとは俺がするから、しばらくすればあんちゃんの《ステータス・ウィンドウ》の名前の前に俺の【ギルドマーク】がつく」
「時間はどれくらいですか?」
「5分といったところだな。なんでも〈システム更新〉とかいうのがあるらしくてな。あんちゃんがサインした紙を媒体にして上書きされるっていうことらしいが俺にはあんまりわからん」
とまあそういうことで潔くサインした俺は次に職業を選択することになった。〈クラス分け〉というものがあるらしく《マスター》、《弓使い》、《剣使い》、《槍使い》、《魔術使い》の5つからランダムで決定するらしい。
《マスター》とは全ての職業を網羅したという意味合いではなく、戦いには直接参加せず指揮をとるという意味を持つ職業である。
《弓使い》は別名アーチャーで弓矢を用いて戦う職業のこと。《剣使い》は別名セイバーで片手剣または両手剣を用いて戦う職業。
《槍使い》は別名ランサーで槍を用いて戦う職業。《魔術使い》とは別名メイジで魔法を用いて戦う職業のことを言うらしい。
詳しく話を聞けば、どの職業にも長所と短所があるそうだ。
《マスター》で言えば戦線に参加しないので〈ステータス〉が全体的に低くロスに陥りやすい。しかしあらゆる職業に長けており《マスター》の〈ユニークスキル〉である〔マスタースキル〕を極めると、《魔術使い》と肩を並べるほどのスキル数を獲得できる。
最初は戦闘に苦戦するが仲間を集えれば負け無しということもあり得る。
《弓使い》は敵の攻撃を避けることに長けている〈回避スキル〉を持ち、遠距離からの攻撃や援護をすることが得意。短所としては防御力が低いのでこれまたロスに陥りやすい。
〈ユニークスキル〉の〔アーチャースキル〕を極めれば回避と攻撃俗に言うhit&awayが可能になる。
《剣使い》は近距離での戦闘を得意とし、攻撃力と防御力に優れた職業である。しかし全体的に状態異常攻撃に耐性がないのが欠点。
〈ユニークスキル〉の〔セイバースキル〕を極めると『殲滅』という言葉がぴったしなほどの攻撃力を獲得し、『難攻不落』という言葉が似合う強固な壁を持つ防御力を得る。
槍使いは近距離と中距離からの突進攻撃を得意とし防御力もあるので壁役にも優れている。しかしその反面、鈍重な武器を所有しているため普段の移動速度や攻撃速度が遅いという欠点が存在する。
〈ユニークスキル〉の〔ランサースキル〕を極めれば重量負荷が減少し機動力に優れた職業になる。
最後に魔術使いは戦場の後方から攻撃魔法や回復魔法といった支援を行うためスキル数は全職業中最大で、同時に需要が最も高い職業である。
魔法を得意とする者がなれば戦況を一瞬にして逆転させる事も可能になる。しかし魔法面に突出しているため単騎としての攻撃力は低く防御力も低い。
さらには遠距離からの攻撃ということもあり敵からの憎値が溜まりやすいため全職業中ロス率が最も高い。
ということで、どの【職業】にも得手不得手があるため一概にはどれが良いとは決められないようだ。結局は自分の性格と得意分野と苦手分野を理解しているかで決定するしかないらしい。
といっても決めるのは〈システム〉なので苦手な【職業】になってしまう可能性も否定できないということだ。
その場合は面倒な手続きをして〈システム〉から削除しなければならないため【ギルドマスター】からすれば極力避けたい事例らしい。
といっても選択する前に〈システム〉に当たる確率を下げてもらうための追加料金を支払うので、そういった事件は年に数件起こるかどうかという頻度だそうだ。
「で、あんちゃんはどの【職業】になりたいんだ?」
「《セイバー》だ。だってカッコいいじゃん?剣で敵を斬り伏せる姿とかさ。英雄っていったら《剣士》だと思うんだよね」
「…あぁ~、こう言っちゃ悪いんだがよ。その《セイバー》は売り切れてんだ」
・・・はぁぁぁぁぁぁ!?何でだよ!売り切れってどういうことなんだよぉ!
「【ギルド】によって各職業の人数が定められてんだよ。それに《セイバー》ってのはあんちゃんみたいにカッコいいという理由で選ぶから大人気なんだよな。今ここの【ギルド】に残ってるのは《マスター》と《アーチャー》が1人分ずつだ」
「増やすことはできないんですか?」
「【ギルド規範】っちゅう【ギルド】においての禁止事項が書かれた書物の一節に〈全職業の選択が終了するまでの交換を禁ずる〉っていうのがあるから無理なんだわ。違反すれば数ヶ月のギルド閉鎖と罰金、さらにはその【ギルド】出身の者全員が監視対象になっちまうってわけだ」
さすがにそこまでの責任はいくら【ギルドマスター】でも背負いきれないだろうなぁ。どれくらいの出身者がいるのかはわからないがロイさんが幼い頃から住んでるって事は、それなりの人数がここから旅に出ているのは確かなんだろうな。
「まっ、だから職業はこれで勘弁してもらいたいんだが」
「次の入荷まで待つことは可能ですか?」
「無理とは言わないがいつ次の加入者が来るかもわからねぇしな。順番待ちとかいうのも規律違反に該当しちまうから困ったもんだ」
初対面の人をここまで困らせてしまったのは反省しないとダメだな。《セイバー》としてやっていきたかったけど我が儘を言うのは元大学生として恥ずべき行為なのは自覚しないと。
ということで《マスター》か《アーチャー》のどちらかとなるのだが、正直言えば攻撃ができる《アーチャー》を得たいがどの職業もできる《マスター》も捨てがたい。
「ものは試しだあんちゃん」
カイさんが受付の後ろにある戸棚から書物を一冊取り出し、満面の笑みを浮かべながらテーブルに置いた。焦げ茶色の革で大半が覆われ表紙の中心に魔方陣らしき模様だけが薄紫色の光を妖しげに発光させている。
文字らしきものは表紙に見えずというより書物に見えるのに開くことができない。
書物として成り立たせている紙が挟み込まれてはいるが、どうにも読むような代物ではないのは一目瞭然だ。ご丁寧に鍵をかけて開かせなくしてあるから開けない方が身のためだろう。
「この書物は《王国》が配布している〈職業任命の書〉というんだ。《魔術使い》としてのスキルを極めさらには魔法に対する知識及び有効性、並びに危険性を網羅し国王にその才を認められた者たちが造ったもの。一冊造るのにかなりの時間と金銭、そして膨大な魔力を必要とするから早々に買い換えることはできねぇんだよ。これが規範に〈使用済みになるまで買い換えてはならない〉という一節がある理由さ」
「納得ですね。それだけの負担があるのであれば待つなんていうことは愚弄するのと同じになります」
「じゃあ始めるぜ。書物に手をかざすだけでいい。そうすりゃ書物があんちゃんに合った職業を選んでくれるさ」
俺は緊張によって乾燥した喉を潤すために唾を飲み込んだ。意を決して左手をかざすと書物が発していた光が大きくなり周囲を暗く染め上げる。
手をかざした部分に何かしらの物体が現れ始めそれを握ると紫色の妖しい光がはじけ飛んだ。
いや、正確に言えば物体が放った白い閃光によって紫色の光が消し飛ばされたと表現するのが正しいだろう。
白い光が少しずつ収まり始め俺の左手へと光が集まっていく。最後に少し白い光を振りまいて消えた左手にはある物が握られていた。
「んなっ!」
「おめでとうあんちゃん。あんちゃんは《アーチャー》に選ばれたようだな。これから精進するといいそしてこの街を代表する《アーチャー》になることを祈ってるぞ」
書物を持って店の裏へと消えていった【ギルドマスター】こと筋量のカイを除き、この場に居るのは《アーチャー》としての【職業】を得たタクと【医者】のロイだけである。
「なっなっなっ、なんでやぁぁぁぁぁぁ!」
タクの左手に握られていたのはY字型のフレームにゴム製のバンドがついた物体。正式にはスリングショットといい、玩具としてはパチンコという名前で知られている狩猟武器であった。
「パ、パ、パチンコが《アーチャー》やと!?ふざけんなぁぁぁぁぁ!」
タクの悲鳴と怒声を含んだ叫びが【ギルド】の受付から木霊した。そしてタクがそこまでパチンコもといスリングショットに対して、何故そこまで叫んでいるのか理解できないとばかりにロイが首を傾げていたのであった。
【ギルド受付裏にて】
「しっかしあんちゃんが《アーチャー》に任命されるとはな。俺は《マスター》に適性があると踏んでいたが俺の感もにぶったもんだな」
我は王国に正式な《アーチャー》となったタクという名の〈転生者〉の詳細情報を送るための書類を書くことにした。しかしあと一回分は残っているはずの〈職業任命の書〉から光を感じなかったので気になり手に取ってみる。
そして《鑑定スキル》を使用し残り回数を確認して自分の眼を疑った。
「う、嘘だろ…。どう報告すりゃいいんだよこれ」
俺は手に持っていた〈職業任命の書〉を床に落とし呆然と立ち尽くしていた。
〈残り使用回数 0〉
まだまだ駄文ですが頑張ります。