♯1 活住兄妹の休日:open the gate
9月23日 日曜日。
本日ハ晴天ナリ。こんな日は昼過ぎまで寝ていたいものだが生憎今日は珍しく予定が入っている。
ドタドタドタドタドタドタ。
「おっ、お兄ちゃん準備できたぁー?!はぁ…はぁ…」
蓮実がゼェゼェハァハァ言いながら慌ただしくやってきた。
「おうよ」
「じゃ行こっか!」
何を隠そう、今日は俺の誕生日。そのお祝いに蓮実が水族館に連れていってくれるとのことなので、今日は予定を空けておいたのだ。まぁいつも空いてるんですけどね。
「着いたーッ!」
蓮実が伸びをしながら、そう叫ぶ。
自宅から水族館までは電車で2時間半。日曜日の朝から座りっぱなしは中々辛い。
「じゃあ、入るか。水族館」
「うん!」
心なしか蓮実はいつもよりテンションが高めだ。
「まずどこ行くー?」
「順路どおりに回っていこうや」
「そだねー!」
「どこのカーリング選手だおまえは」
やっぱこいつテンション高ぇ。
昼食を済ませたあと俺たちはイルカショーが行われる場所まで向かった。
「お昼ご飯美味しかったねー」
「そだねー!」
「…お兄ちゃんなんかテンション高くない?」
「あ、すまん」
いかんいかん、あまりのお昼ご飯の美味しさにテンションが上がっちまったぜ。ちなみに二人ともシーフードカレーを食べたよ。おいしかったですまる
そんなこんなしているうちにアリーナへ着いた。ちなみに俺たちの席は1番前の列、ついてるぜ。
「もうすぐ始まるみたいだな」
と、蓮実に話しかけたが、蓮実は怪訝そうな顔をして水槽をみていた。
「ねぇ…あのイルカなんか変じゃない?」
蓮実が水槽の中の1匹のイルカに人差し指を指す。
「どれどれ…」
蓮実の指さす方を目で辿ってみると、異様なオーラを放つ1匹のイルカにたどりついた。なにあれこわい。
「めっちゃこっち見てるよ。てか睨んでる」
「おいおいあんなのショーに出しちゃダメじゃないのよ」
驚きのあまり口調が変わってしまった。我ながら気持ち悪い。
「あ、ショー始まったよ」
そんなことを話しているうちにショーがはじまった。
トレーナーの指示に合わせてジャンプしたりバブルリングを作ったりとごく一般的なイルカショーがはじまった。蓮実は要所で「うわぁ!」「すごーい!」とか、これまた大袈裟にリアクションを取っていた。
そして、ショーも終盤に差し掛かってきた。
「次はハイジャンプだって、楽しみだねぇ」
「カメラでも用意しとくか」
と言って、俺はスマートフォンを取り出した。
アナウンスの盛大な前置きが終わり、会場は大いに盛り上がっていた。かくいう俺も大盛り上がり。なにこれめっちゃ楽しい水族館最高。
そしてトレーナーがイルカたちに指示を出し、イルカたちは深く潜っていった。
「3・2・1!」
というアナウンスの掛け声とともにイルカが高くジャンプした。だが、1匹だけ天井から吊るされたボールに向かって飛ばず、観客席に向かって飛んできたイルカが1匹いた。あいつだ。あのめっちゃ、俺たの方見てたやつ。スマートフォンを通してショーを見ていた俺はようやく気づく。あのイルカ、水槽の壁を超えて俺たちの方に向かって飛んできてる!!
「蓮実ッ!」
俺は大声で蓮実に呼びかけた。だが…
「あ、足が…動ッ…かないッ!!」
「はぁ!?」
驚きのあまり間抜けた声を上げてしまった。どうやら蓮実は恐怖で足が動かせないらしい。って、冷静に解析してる場合じゃねぇ!
「危ないっ!」
蓮実が動けないと分かった俺は蓮実に覆いかぶさった。あのイルカが俺たちに向かって飛来してきた。「あー終わった」と蓮実に覆いかぶさり、イルカに背を向けながら俺は悟った。他の観客たちは避難したのか、会場には俺たちしか残っていない。
「…」
蓮実は気絶してしまった。まぁ無理もないわな。
「もう死ぬのかなー、早いなー、なぁおいなぁおい」
まだ彼女もできたことねぇのに!このまま死ぬのかと思った途端怒りが込み上げてきた。
「おいてめぇ!俺は絶対死なねーぞ!かかってこいやぁぁぁぁぁ!」
俺は蓮実に覆いかぶさるのをやめ、正面を向いた。
「ピュイィィィィィィィ!!」
と、イルカが鳴きながら飛来してくる。ダメだ!やっぱ怖い!
俺は顔を手でおおった。
「おたすけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
みっともない声を上げながら、「あ、終わった」と心の中で呟いた。
『“open the gate”』
イルカとぶつかる直前、男性だろうか、太く逞しい声が聞こえた。するとイルカは消え、俺たちの体は眩い閃光に包まれた。薄れゆく意識の中で、俺は確かにこう聞いた。
『“To the Another World”』
そこで俺の意識は途絶えた_____。
東 成弥です!第1話読んでくださったかた本当にありがとうございますm(_ _)m
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