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錬金術師は人間観察がお好き  作者: 猫田 トド
八章 結び解け行く縁
78/85

77 裏切り

ををを!

今週もブクマが増えている!

ありがとうございます!

巷で噂の『猫のごめんね』で感謝を表現いたします!!



 破壊し尽くされた研究室。


 覆い尽くすほどの資料は消え、代わりに部屋の中央に立つ男。


 闇色のローブを羽織、フードを目深に被った男。にんまりと口元を歪め、室内に入ってきたクリストファー達を眺めている。


「魔法使い殿、この部屋はどうしたのだ?」

「僕の物を僕がどう扱おうがかまわないだろう?」


 不思議そうに首を傾げるクリストファーに、なんてことのないように答えるユーリ。にんまりと笑う顔は、現在の錬金術を大きく飛躍させるその全てを失わせたというのに、一切の罪悪感もない。


 宝の山を消し去ったくせに、けろっとしている姿に、ルルクの眉尻が跳ね上がる。


「では、宰相権限で全てを徴収しましょう。あるものを出してください」

「残念。全て燃やしてしまったからないんだよ。あるのはこの割れたものくらいだね」


 白い指先が指し示すのは、床に散らばった破片の山。


 ルルクの額に青筋が浮かぶ。はっきりとした苛立ちに、気配が揺れた。しかしそんなものはユーリの想定の範囲内。余裕たっぷりににたにたと口元を歪めるだけ。


「壊れた物を持って行ったところで、復元は不可能さ。そもそも、これを復元しようとすると、水神の怒りを買うよ。彼は、これが世にあることを望まないからね」


 僕は親切だから教えてあげるよ、と笑うユーリに、ルルクの顔がますます険しくなっていく。鬼の形相も通り越し、悪魔のような顔になっている。余波を受けないように、そっとクリストファーがルルクから距離をとった。


 にんまりと笑いながら、ユーリは首を傾げる。そして、尋ねた。


「君に、世界を滅ぼす力を持つ、彼の水神を敵に回す気があるの?」


 この国、否、世界と、秤にかける物があるのか、と問うユーリに、ルルクは呻く。世界と比べ得るほどの物がない今、彼は言葉を持たない。


「まぁ、僕はどっちでもいいけどね」


 世界が滅ぼうとも知ったことではない。そう、口にして笑みを深めれば、ルルクはぎり、と奥歯を噛んだ。


 人知を超えた錬金術師。それが、傍観を宣言する以上、何かあっても助けを求められず、助けを求めてみたところで、却って崩壊への道のりを早めだす可能性さえある。目の前でにやにやと笑っているのは、そういう男だ。


 くそったれ、とルルクは心中で呟き、思考を巡らせる。いかにしてこの遺物を世界に害なく復元できるか。いくつか案が浮かんでは、自ら打ち消し、眉間に刻まれた皺が深くなっていく。


 その様を眺め、ユーリはフードの奥の目を細めた。


 所詮、この程度。


 自分の言動に、あっさりと振り回され、自分の望むように動かされる男。確かにユーリが苦手とする部分はあれども、ある一定の法則に則れば容易く御せる。望むようにその思考を操り、動かせる。


 興味がわかないんだよな、と胸中で呟いた。


 所詮は、造られた存在(ホムンクルス)。造り手の望んだ以上の『何か』に化ける事はない。人のように複雑な思考を有していない、とユーリは溜息を零す。人の血が混ざり、人により育てられれば、限りなく人に近づく癖に、そうでなければ所詮、人を模しただけの人形。


 つまんねぇなぁ、と音にはのせず、僅かに唇を動かす。そしてにんまりとした笑みを、真っ直ぐにクリストファーへと向けた。


「この国は、君たちの国だ。そして、君たちの国に、過去の遺物(この場所)はいらない。君たちは自由になるべきだと僕は思うね。もう、始まりの王なんてものに縛られないでさ」

「では貴方はどうするのだ?」

「僕? 僕はどうもしないさ。今までどおり、気の向くままに生きていく」


 ゆるく竦められた肩。つい、と視線がシンへと向けられた。


「今のところ、彼の観察で忙しいしね」

「何故、そこまで彼なのだろうか?」


 同じように視線をシンへと向けたクリストファーは、ゆるりと首を傾げた。


 見ていて飽きないんだ、とユーリは笑う。


「もともと僕は『人』であれば誰でも良かった。けれども、紹介されたのが彼だった。きっかけはそんなものだけど、それで十分だろう? きっかけがあって初めて(えにし)が生まれる。そこから紡がれるものがあるから人の観察は止められない。錬金術のように有限ではない、無限の可能性が広がるんだ」


 錬金術は無限の可能性を秘めた学問。それが通説。それを真っ向から否定し、有限と言い切る錬金術の神と称される男。


 なんてことはないようにつむがれる言葉に、クリストファーは考え込むように黙り、シンは、ほんの少しだけ居心地悪そうに身じろいだ。


 それぞれがユーリの言葉の、違う個所に想いを馳せる。


 クリストファーは、無限と言われる錬金術を有限と言い切れるほど極めたことへ。それがどれほどの時を経た上での答えなのか、それとも、その体の一部となった賢者の知識からくるものなのか。


 もしも長い時を経た上での言葉なら、それだけの長い時を生きてきた胆力に驚愕する。賢者の知識ならば、それだけの情報を受け止めきれたことを賞賛する。どちらにせよ、自分が同じ立場に立った時、同じことはできない。そう、断言できる。ようするに、目の前の人物は、やはりどこか普通ではない。普通ではない相手の趣味を理解しようとするだけ無駄で、そんな相手に捕まったシンを、ほんの少しだけ憐れに思いつつ、どうかこれからもこの変人の相手をぜひ、続けてほしい、と願う。彼の意識がシンに向いている間は、少なくともこの国は彼に引っ掻き回されることは少ないだろうから。


 対してシンは、誰でも良かった、そう言いながら、君が良いんだ、そう笑うユーリを知っている分、少しだけ照れくさく感じていた。始まりは確かに『誰でも良かった』のだろう。けれども、奇跡的な確率で、それに選ばれ、そして、今では『シンが良い』とまでなった。それは、実に不確かな約束。シンが、ユーリにとって興味深い観察対処である間だけのもの。不安定な関係ながらも紡がれた信頼。


 目には見えないけれど、確かにそこにあるもの。


 『己』を形成するもの。


 かつてユーリはシンに説いた。人生は取捨選択を繰り返して成り立つものだ、と。だからこそ、後悔の無いように選び続けねばならなく、そしてそれは何よりも難しい。岐路に立たされたとき、人は自分にとっての正解を迷わず選べない。精々僕を楽しませてね、と笑ったユーリ。ユーリがシンを選び続けている、という事は、シンがユーリを満たせているという証拠。沢山のものを切り捨てて選んだ道。選んだ場所。そこで自分が選ばれている、という確証。


 とても奇跡的な事実。


 ぐるん、とユーリがシンへと振り返る。


「まだ君を手放す気はないから。機嫌を直してくれて良かったよ」

「いい加減、俺離れしてほしいもんだがな」

「嫌だよ。君より可愛い嫁なんて早々貰えないんだもん」

「嫁じゃねぇってんだろうが」


 相変わらずふざけた物言いに、ぐっと眉根を寄せ、睨み付けるも、ユーリにはどこ吹く風。それどころか、そんなことより、と興味なさげに話題を変えてくる。


「君はこの後僕に何を望むんだい?」

「そうだな。ちょっと考えさせてくれ」

「勿論だとも。しっかりと考えておくれよ? 君の人生に相応しい対価を」


 うんうん、と大げさな動作で首を縦に振る。それを横目で眺めたシンは、嫌そうに顔をしかめた。そして、胡散臭い顔はやめろ、と吐き捨てる。そうすれば、僕の間顔なのに酷いな、と頬を膨らませるユーリ。


 相変わらず、どこにでもいる友人にしか見えない姿。そんな二人が、同時に溜息を零した。額に手を当て、軽く俯く。


「どうする?」

「いや、どうするったってよ、なぁ……?」


 ごそごそと二人で呟いては、そっとカインの方へと視線を向ける。正確には、カインの担ぐものへ。


 ムームーとくぐもった声を上げながら、ぐねんぐねんと跳ねる麻袋。見つけた時からずっと変わらない。一度運び出したのだから、玄関のあたりに放置してくればいいのに、とユーリは呆れを視線に乗せて、眺めた。


 すすす、とシンがユーリの肩が触れ合うほど傍まで移動する。


「なぁ、あれ、だよな?」

「いや、間違いないでしょ」

「どうすんだよ」

「絶対煩いよね」


 ぼそぼそと二人の会話は進む。しばらく二人で肩を寄せ合い、ごにょごにょと話し合い、やがて、最初と同じ深い溜息を一つ、零した。


「あー……うん、そろそろ、出してあげようか、彼女……」

「出すのか?」


 口元しか見えないのに、困っていると分かる、微妙な微笑みを浮かべるユーリに、カインは首を傾げた。


「うん」

「いいのか?」

「うん、どうせどっちにせよ煩いなら、一度出して吐き出させた方がいいんじゃないかと思うんだよね」


 溜息と共に零された言葉に、カインはルルクへと視線を向ける。視線による問いかけを受けたルルクは、少し考えるそぶりを見せ、カインの担ぐ麻袋へと近寄った。麻袋で口元を隠すようにしながら、何かを囁く。


 シンに聞こえないほどの小声。カインが何かを返すことはなかったが、ルルクが離れると麻袋を床に下ろす。


 床に下ろされた麻袋が、びったんびったんと激しく暴れ出した。ムームーと騒ぐ声も一層大きくなる。それにカインがユーリの方へと再び視線を向ける。表情の変わらない顔だが、その目は、本当にこれを開放するのか、と戸惑いをのせていた。向けられたユーリも、それを見ていたシンも、苦笑を浮かべる。


 開けてあげて、と肩を竦めるユーリに従うように、カインが麻袋の口を開く。布を捲くれば、そこから飛び出すふわふわの毛皮に覆われた耳。口元を布で覆われ、くぐもった声を上げる、見知った顔。


 ミーユ。


 ごろん、と麻袋から放り出されたミーユを見たユーリは、ああ、と呆れたように呟いた。


 肩から下、足首のところまで、縄でぐるぐる巻きに縛られたミーユ。あのびちびちとした、陸に上がった魚のような動きの理由を知る。


 いったいどんな抵抗をしたら、あの影にここまで厳重な捕縛をされるのか。


 女は言った。サンプルとして連れてきてもらった。


 それはおそらく次に造るホムンクルスの為。ならば、一体に必要なのは髪の毛一本、もしくは血液一滴。それで十分。わざわざ人一人まるごと持ってくる必要はなかった。では何故彼女はこうして連れてこられたのだろうか、と思考を巡らせる。そして、ああ、と納得した。


 おそらく、女は人工的な魔人の生成を試みたのだろう。


 以前ならばミーユは、魔人よりも上、魔神に到達しうる可能性の個体だった。それにリーンや女が気づいたかどうかはわからない。それでも、可能性を秘めた個体、ではあったのだろう。リーンはその頃のミーユを知っていて、女からの依頼に、連れて帰った。そして、人工的な魔人の生成実験を行おうとした。しかしその前にユーリ達が押し掛け、その全ては露と消える。


 そこまで想像し、ユーリはふ、と笑った。


 ミーユは既に魔人にさえならない。そういう関わりを持ってしまったから。ユーリ達が訪れようが訪れまいが、女の研究は最初の段階で躓いていただろう。だが、だからこそ、ここに来てよかったのだろうな、とユーリは思う。もしも、そのまま実験が始まれば、ミーユがどのような扱いを受けるかわからない。現状を見ても、碌なことにならないことだけはわかる。そのうえ、役に立たないと知られればいったいどうなったことか。


 感謝してよね、とどうせ何もわかっていないであろうミーユに、胸中で呟き、いや、と笑みを消した。どうせ、感謝できないことになるのか、と。


 シンに視線を向ければ、ローブに隠された視線に素早く気づいたシンが、少しだけ困惑したように腰に下げた短剣に触れ、離れた。


 カインがナイフで猿轡代わりの布と、身体に巻かれた縄を斬り解く。


「ぶっはーーーーっ!! 酷いにゃーっ酷いにゃーっユーリのオニアクマにゃぁああああっ!! 捕らわれの美少女を放置とか、どっかおかしいにゃぁああああああっ」


 自由になると同時に、大きな目から滝のように涙を零し、駆け寄ってくる。そして、ユーリに飛びついた。両手両足を回し、がっしりと抱きつく。


「うわぁあああんっめっちゃ怖かったにゃーっ!!」


 身の丈ほどの木べらを握るその腕ごと抑えられたユーリだが、木に縋り付く猿か何かのように抱きつかれたまま、平然と立つ。そして、顔面を挟み込む柔らかな二つの膨らみを堪能していた。


「うーん、君がそれなりに美形なのは認めるけど、少女と言うには少々歳が微妙だから、今度からは美女と言うべきじゃないかなぁー」

「酷いにゃぁああああああっ」


 しれっとした突っ込みに、ミーユがわぁわぁと騒ぐも、どこ吹く風。柔らかい感触にだけ神経を向けている。


 その一瞬が、命取りと知りながら。


 広がる白い布。一瞬で間合いを詰めたカインの手に握られた、剣。


 抱きつくミーユごと、丁度ユーリの胸元を貫く。


「にゃ、んで……動き、封じたら、殺さないって……」


 ぐらりとミーユの体が、ユーリごと倒れるも、カインは見向きもせず、引き抜いた剣でシンへと迫る。


 短剣を引き抜き、咄嗟にその剣を流そうとするも、その重さにシンの体は容易く吹き飛ぶ。宙で身を捻り、着地しようとするシンを追うように、直ぐに踏み込み、剣を振りぬくカイン。


「ぐぅっ」


 短剣を盾にするも、空中では踏ん張ることもできず、壁に叩き込まれた。派手な音をたて、シンの体が壁にめり込む。


 広いマントが優雅に宙を舞い、カインの背を流れた。


 床に崩れながら、顔を上げたシンは、迫る巨体を確認する。素早く腰のポシェットに手を入れ、癇癪玉を投げつけるも、あっさりと斬り退けられた。左右で小さな爆発を起こしたものなど歯牙にもかけず、巨体はシンの間合いへと踏み込んでくる。


 床に手をつき、横に飛び退くようにして避けようとした剣は、まるでシンがそうすることを知っていたかのように軌道を変え、シンを捕えた。


 短剣で今一度捌こうとするも、短剣ごと押し込まれるような圧。耐えきれず、手放した短剣は床を転がり、カインの剣先がシンの体へと吸い込まれていく。宙でなんとか体を捻るも避けきれず、脇腹を切り裂いた。


 鮮血が飛び散る。


 床を転がりながら追撃してくる剣を避ける。


 殺すために振るわれる剣。意図を問う暇もなく、生き延びるために何とか間合いを空けようとするも、そんな優しい相手ではない。どうにか起き上がったその時には、カインは目の前にいた。


 最小限の動きで振りぬかれる剣。右肩から、左脇へと抜ける。骨を断ち、内臓をも切り裂いて。


 一撃で確実な致命傷。


 剣に着いた血を払い、倒れ伏すシンの末路には興味もないかのように背を向けるカイン。大股でユーリ達に近寄ると、逃げようと這っていたミーユの心臓を剣で貫いた。びくびくと痙攣し、やがて体から力が抜けたのを確認すると剣を引き抜く。再び剣に着いた血を払った。


 一分もかからない出来事。


 カインの剣が、鞘へと納められた。


「終わりました」

「ご苦労」


 答えたのはルルク。


 繊細な眼鏡を押し上げ、鷹揚に頷くとクリストファーを振り返った。


「国に害成す可能性があったのと、この場所を知られた以上、生かすわけには行かなかったので、処分いたしました」

「宰相……気持ちはわかるが、勝手は困る」


 呆れたような声。しかし、ルルクは表情を崩すことなく、己の主を見た。


「お言葉ですが、彼の者自身も言っていたではありませんか。我々は自由だ、と。始まりの王に縛られる必要はないのだ、と。ですからこうして、他貴族達が元気になる余計な物を始末したのですよ」

「わかっている。彼の方の正体を知れば、貴族たちが黙っているわけがないのは……」


 苦虫を潰した表情を浮かべる。


 国の今後を思えば、ユーリと言う存在は非常に危うい。知るものが自分達しかいないのなら、これは正しい事と言える。それでも、クリストファーは葛藤する。


 神格化された始まりの王。その人物を、自分たちのエゴで殺すことに。だが、ルルクにそんな感傷はない。冷たい瞳は、伏したユーリを一瞥する。


「それに実験も兼ねています。化け物の殺し方を知っておくのは、重要なことです」


 淡々と言いきられた言葉。それは確かに知っておくべきことかもしれない。けれどもクリストファーは眉根を寄せた。


 ユーリは言った。自分は不老不死だ、と。


 クリストファーには、この程度でユーリが死ぬとは思えない。死んでいなかったら、報復に来る可能性が高い。いや、来ないわけがない。彼は、己に害成すものに容赦がない。だからこそ、力ある者達は彼の名に恐れ慄くのだから。


 しかし、ルルクは平然と笑った。


「不老は、まぁありえたとして、不死などありえません。現実味がなさすぎるのです。おそらく、不死とは、限りなく不死に近い、という意味だと思います」


 だってそうではありませんか、とルルクは首を傾げた。


 首を落とされて生きているとしたら、それはどちらが動くと思いますか、と問われ、クリストファーは眉根を寄せた。生物である以上、首を落とされ、生きているのは難しい。では不死の人間はどうなるのだろうかと考え、人間に必要である脳を持つ頭部が生きているのか? それとも、心臓部分を持っている胴体が動くのか? その両方が揃わない状態で生物が生物たれるのか。


 どれだけ思考を巡らせても、否という答えだけが返る。クリストファーの様子に、ルルクは満足げに微笑んだ。


「お分かりいただけましたか? つまるところ、私たちは彼のような化け物に怯えることなく、死ぬ条件を知るために動くべきなんですよ。世界には、彼のような化け物が他にいないとも限りませんからね」


 だからこれは必要経費のようなものです、と締めくくる。


「ではこの後どうするのだ?」

「そうですね……聖騎士長!」

「はい」

「それは死んでますか?」

「不明です。とりあえず胸の石は間違いなく貫通した、と言えますが……近づいて、生死を確認しましょうか?」


 カインの言葉にルルクは首を左右に振った。


「やめておきましょう。それが生きていた場合、近づいてくるのを待っている可能性が高いです。それくらいなら、今ここで火をつけて立ち去った方が安全かつ、確実です」

「かしこまりました」


 深々と頭を下げたカインに後の事を任せ、ルルクは壁掛けのランプを手に取ると、クリストファーを連れ、立ち去る。それを見送り、カインは屋敷内を歩く。そして奥の部屋から順に、かけてあった壁掛けランプを叩き割り、その火を落としていく。火は、床を舐め、壁を飲み込み、やがて全てを飲み込む大きなうねりとなって、館を飲み込んだ。


 窓ガラスが砕け、吹き出す炎をカインは外で眺め、深い礼を一つ。世話になった、と短く告げる。


 顔を上げると、廃材で作った簡易松明を手に、立ち去った。


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