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錬金術師は人間観察がお好き  作者: 猫田 トド
八章 結び解け行く縁
75/85

74 人とホムンクルス

!?

ブクマが三ケタ行ってる!?

どうしよう……嬉しすぎて動悸がします(・∀・)!

ありがとうございます!



 愕然とする女から手を離し、崩れ落ちる様をにんまりと笑いながら見下ろす。


 ぺたりと座り込み、真っ青になった女は小さく震えていた。碧の目にみるみるうちに涙が溢れる。すぐにぼろりと零れ落ちた。赤い唇は震え、微かに開いてはごめんなさい、と謝罪の言葉を紡ぐ。しかし、ユーリはにんまりと笑ったまま、何も答えない。彼女が反省をしていないのを知っているから。


 大好きなお父様に怒られたから、許してほしくて謝っているだけ。何を怒られたのか、何故怒られたのかを理解していない。だから、応えない。


 許しの言葉もなく、ただただにんまりと笑いながら見下ろすユーリ。次の瞬間、すい、としゃがみこんだ。その上を過ぎるきらりと輝く何か。それはユーリの後方にいた、カインの剣に叩き落とされた。


 キン、と金属と金属がぶつかり合う音。そして、がしゃりと落ちた。


 反動でくるくると回りながら滑るそれは、ナイフ。


「ほら見なよ。君のところの子は僕を殺そうとする。いったいどういう教育をしてるんだい?」


 揶揄するように、呆れるように、紡ぐ。


 言われ、のろのろと頭を上げた女は、その目にナイフを映すと怒りに震えた。


「お父様にナイフを投げた愚か者は、今すぐ出てきなさい!」


 怒号に、揺れる気配が一つ。


 高い天井のどこに隠れていたのか、上から飛び降りてきたのはリーン。顔に困惑を貼り付けている。しかし、それもそのはず。彼はユーリが『ユリウス』だと知らない。己の主人である女に近づく危険人物を、排除しようとしただけ。間違っても『お父様』に攻撃を加えたつもりはないのだ。


「やぁ、リーン神父。君のミスを教えてあげよう。シンから何か、聞かなかったかい?」


 ゆっくりと立ち上がり、両手を広げる。


 広がる闇を目に映し、馬鹿な、とリーンは呟いた。


「貴方の背に、痣はなかったはずです!」

「本当に? 目に見えるものだけが真実とは限らないよ?」

「そんな……」


 間髪入れず問われ、揺らぐ。


 確かにリーンはユーリの背に痣を確認できなかった。しかし、それもユーリの策だとしたら?


 目の前にいるのは『魔法使い』とまで呼ばれる、神の如き錬金術師。自分の主である女から聞いている。お父様――ユリウスは、錬金術の神で、不可能を可能にする男だ、と。それならば、痣を綺麗に隠すアイテムを持っていたとしてもおかしくはない。そう、初めて思った。


 リーンが女から聞いたユリウスの情報は、錬金術の腕が神がかっていることと、背に大輪の薔薇を背負い、この施設に入る為のアイテムを持っている人物。ただそれだけ。目や髪の色、性別などは変えている可能性があるため、あてにはならない、と聞かされていなかった。


 一歩後ずさる。


 確かにユーリは条件に見合っていた。だからこそ徹底的に調べたはず。リーンは己の影としての腕にそれなりに自負があった。歴代影に負けない、と。それになにより、彼がユーリを違う、と断じた理由があった。


「馬鹿、な……貴方の背には、何も、何もなかった……それに、ミコト様から、貴方は敵で間違いない、と……」


 愕然としたまま呟く。その呟きを拾ったのは女。


「No.3510? 何故? アレがお父様をわからないわけがないわ」

「知って……? あの方は、御存じでいながら、私に……?」


 そんな、と信じられないように零す。


「あ、ああ、何という事を……私は、私は、主の命令に背いて……あああ!!」

「親父! よせっ」


 信じがたい裏切り。騙されたとはいえ、己のしでかした失態。それを理解した瞬間、リーニャが動く。袖に隠した短刀を取出し、一気に己の喉を貫いた。今もなお、親父、と呼ぶシンの声さえ聞かずに。


 縋り付くシン。背にはリリ。


 一度に愛する者を二人も失った青年。自分を殺そうとした親でも、それでも、シンが未だに彼に未練を残しているのがわかる。その姿を眺め、ユーリは笑みを濃くする。いつものにんまりとした笑みが、やたらと満足げに見えなくもない。


 対して、シンたちの様を見ていたはずの女は特に何の反応も示さず、ユーリに無視されて以来、ずっと壁に張り付いていた女を見た。


「お前、No.3510を呼んできなさい。研究室にいるはずよ。無駄な事は言わなくていい。私が呼んでいる、それ以外何を尋ねられても応える必要はありません」

「かしこまりました、お嬢様」


 声をかけられた女は、恭しく首を垂れると、女は立ち去った。


 従順な女。死んだリーン。創造主の命令には絶対服従。逆らえば自死せよ、と意識に刷り込まれているのだ、とわかる。勿論、それがホムンクルスを造る絶対条件。創造主に反するホムンクルスを造るのは、禁忌。手に負えなかったとき、始末できないから。


 理解しているユーリは特に何も言わない。けれども、知らないクリストファー達は、困惑していた。


 目の前で命が潰えているのに、何の反応も示さない、まるで何事もなかったかのように振る舞う錬金術師たちに。


「リーニャ・グルフェリック達は、皆君の造ったホムンクルスかい?」

「は、はい」

「タルポット男爵家は?」

「ホムンクルスの子です。子供の方が使えそうでしたので、それに素材として持ってきてもらいました」


 それ、と言って示されるリーン。その態度に、ユーリは一つ息を吐く。


「で、殺して今は保存液の中に浮かんでいるんだ?」


 侮蔑する視線。冷たい声。向けられた女は、びくりと震えた。けれども事実を答える。


 はい、と頷く女に、ユーリは興味を無くしたように視線を逸らした。その目が捕えるのは、未だに剣を構えたままのカイン。


「どうする?」

「……既に死んでいるのなら、我々にできることはない」

「そ。ところで疲れない?」

「陛下の敵がいる以上、構えはとけない」


 硬い声。視線は女を捕えて離れない。相変わらず頬を冷や汗が伝っていたが、震えは治まったようで、剣先は静止したまま女へと向けられている。


 お堅いこって、と肩を竦め、ユーリは女へと向き直った。


「僕の研究室は?」

「そ、そのままです!」

「僕の研究室の内容、勝手に見たね? 君と、僕のホムンクルスの他は誰が見た?」

「わ、私と、No.3510だけです」

「はぁ……そんなに『ユリウス』を造りたかったの? 禁呪さえも覚えさせようとしたの?」


 迷惑なんだけど、と吐き捨てられ、女はますます縮こまる。


 愛する父親が、禁呪に手を出すことを固く禁じていたのは知っている。それでも、父は禁呪を知っている錬金術師だった。だから、父を造るうえで、禁呪に関する知識を与えるのは必然。だから手を出した。出してしまった。知られなければそれでいい。単純な思考で。


 己の作ったホムンクルスには父に知られてはならない、と覚えこませたはず。どこから知られたのか。


 いや、と否定する。


 相手は自分の全てを知っている。性格も、癖も。隠すだけ無駄だったのだ。自分の浅はかな考えなど、大した労力もなく見抜くのだろう、と納得する。


 愚かな事をした、と顔を青くするのさえ、不快に思う相手。だからこそ、どうしよう、と途方に暮れた。


 愛している。誰よりも。姉よりも。彼に愛してもらうなら、何を犠牲にしてもかまわない。己の姿さえ、棄てた。彼に愛されるために。けれども、実際はどうだろう。ただ、侮蔑されただけ。


 女の知っている(・・・・・)彼は、厳しい人。確かに娘に多少は甘いが、錬金術師には厳しい。きっと禁呪に手を出したことは許さない。必死に思考を巡らせ、どう許しを得ようかと考える。


「僕は、禁呪に手を出す者は許さないよ」


 にんまりとした笑み。突然囁かれた言葉。ハッとして顔を向ければ、いつの間にか、にんまりとした笑みが、触れ合いそうなほど近くにあった。


「そして僕は言ったね。君に禁呪は扱わせないって。どうして破ったの?」

「そ、それは……」


 女は答えあぐね、唇を震わせる。問いかけるユーリの目はフードに隠れ、見えない。暗い闇だけがあった。


 飲み込まれそうな闇に、ごくりと女の喉が鳴る。


「お、お父様……」

「僕には、君みたいな、約束を守らない娘はいない」

「わ、私……」

「言い訳はきかないよ。君が、自分の手で生み出したホムンクルスに関しては、まぁ、君が生かそうが殺そうが文句はない。けれども、この国の人間、命に手を出したこと、禁呪に手を出したこと、そして、その禁呪を、この国の錬金術師に教えたことも許さない」

「ま、まってください! わ、私、禁呪を他に広めてなんか……!」

「じゃぁ君の造ったのが行ったんだろうね。躾のなってないことだ。それで僕のつもりだったの? 僕が誰かに禁呪を伝えるわけないのに、それさえもわからないの?」


 馬鹿なの、と呆れたように告げる声。一つ告げる度に女は身を震わせ、顔を伏せる。再び碧の目いっぱいに涙が溢れる。すぐにそれは決壊し、ぽたぽたと床に落ちた。


 はぁ、と大きな溜息。


「止めろ、ユーリ。あんまりいじめんな」

「あれ? ようやく僕と口利いたね。機嫌治ったの?」


 投げかけられた言葉に、ぐるん、とユーリの頭が回り、シンを見る。壁際にリリを凭れさせ、その横に立ったシンが肩を竦めた。それだけで、シンが未だ怒っているのだ、とユーリは判断する。そして、にんまりと笑った。


 じっとシンを見る。リリと、その隣に壁にもたれかけさせられたリーンの姿。ああ成程、とユーリは頷いた。それどころではないのか、と。


 ユーリはシンに告げた。一時間以内なら生き返らせることができる。リリが死んでから既に45分程経過した。リーンはつい今しがた。生き返る可能性が高いのはリーン。リリからリーンに切り替えるのか。それとも、可能なら二人を生き返らせろと迫るつもりか。


 ふふ、と思わず口元が緩む。


 面白い、と思わず呟いた口元を、袖で覆い隠し、フードの陰に隠れた目を細める。


 人は、愛しい者に対して、かくも冷たく、かくも貪欲なのか、と。そして考える。正直、一時間という縛りはない。ユーリの腕と知識なら、どちらも蘇生できるだろう。その時、彼はどうするだろうか。愛する女を選ぶだろうか。大恩ある父親を選ぶだろうか。両方を選び、ユーリを力づくで従わせようとするだろうか。それとも、二人とも切り捨てるだろうか。


 考えるほどに口元が歪む。


 君は、本当に理想的に、人間だ、と呟く声が、ハンターであるシンの耳に届かないわけもなく、軽く眉根を寄せられた。それさえもユーリを愉しませると知りつつ。


「お嬢様、連れてきました」

「は、入りなさい」


 静かな声に、女が慌てて目元を拭う。顔を上げ、奥の扉を見た。


 ゆっくりと開く扉。ホムンクルスの女が押し開く扉の後ろから、茶斑の髪をした、銀眼の男が姿を現す。


 ゆったりとした紺のローブを羽織、中肉中背。平均身長のうえ、凡庸で、右を向いて左を見たころにはその顔も思い出せない、そんな背景と同化しそうな顔をした男。


「マリア、呼んだか……な、ぜっ!」


 その顔が、ユーリを視界に収め、驚愕に歪んだ。


「No.3510、貴方、影を使ってお父様を殺そうとしたそうですね」


 女がゆっくりと問う。ピンと伸びた背。咎めるように冷たい声。つい今しがたまで、父親に怒られ、泣いていたとは思えない。あまりの変わり身の早さに、クリストファー達は成程、とうなる。まさに、王の娘。一瞬の気持ちの切り替え、表情の選択は、腹芸が得意な貴族たちでさえ、見抜けることはないだろう。


 対する男は、無言無表情を貫く。


「それと、禁呪を勝手に外に出したそうですね」


 女は疑問ではなく、確定で言葉を発する。何しろ、伝えたのはユーリ。愛しい父親の言葉を疑うことはない。ユーリが白だと言えば、黒も白だと信じている。


 なんて危険な存在だろうか、とクリストファー達は畏怖する。ユーリと言う男の言葉一つで、毒にも薬にもなる力を持ち、それでいて人としての常識の外にある思考で動いている。そんな化け物が、地面の下に自分たちが生まれるより以前から、ずっといた。その恐怖に震える。


「貴方は、不良品として廃棄処分します」

「ッ! わ、私は! ユリウスではない! それでも、貴女の望むユリウスになろうとしただけだ!」

「お父様は、禁呪を嫌ってます。勝手に禁呪を拡散するなど、あるわけがありません。貴方は私の命令に違反した、不良品。今こうして逆らっていることも廃棄の理由になります」


 不良品。その言葉に、ホムンクルスの女は、表情ではわかりづらいが、侮蔑の視線を男に投げかけていた。続いて廃棄処分、と投げかけられた言葉に、大きく頷く。それが、当然だと言わんばかりに。それなのに反論した男に、今度こそ大きく顔をしかめた。それがホムンクルスの常識だから。そして、扉の奥に続く廊下に声をかけた。


「不良品です! 廃棄室へ連れて行きなさい!」


 その声にこたえるように、廊下の奥から足音が複数聞こえてくる。やがて、足音の持ち主たちが顔を出したとき、クリストファー達は驚く。ずらりと揃った同じ顔。男女数名。身長も平均前後だが、見事に同じ顔をしている。誰一人、違いはない。


 ホムンクルス、という言葉が、クリストファー達の脳裏に、じんわりと浸透していった。


3D酔い+風邪=グロッキー二乗=小説が下書き状態!

いつにましてもな文章で申し訳ないです><;

後程見直して、修正するかもです><;

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