58 下準備1
ふぉぉぉおお……ブクマが増えている!!
なんてこった、めっちゃ嬉しい!!
これもう、あれですね。
この感謝を表現するため、心の中で、
どこかの野球球団のマスコットのように、
七? 八? 連続バク宙をしなくてはなりませんね!
ええ、心の中だけで!
ありがとうございます!
ひとしきり楽しんだミーユが帰り、ユーリは片手間に用意した手紙を手に、店を出る。鍵はかけない。路地裏を歩き、南の目抜き通り直前で動きを止める。人の目から隠れるように立った。
南の城門から王都へと足を踏み込む者。逆に、出て行く者。沢山の人間が行きかい、流れていく。そこを流れる者を観察する。
男、女、若者、老人、狩人、商人、一人、複数。流れて行く者たちを確認し続け、やがてふらりと波に乗った。ユーリの前を歩くのは五人の女性。背格好は多少差があれど、全員が狩人とわかる。年の頃は大体十代後半から二十代前半。
人の行きかう道、五人組からは混雑した道で、たまたま向かう方向が同じ人間程度の距離。行きかう人々からは、談笑する五人組のメンバーもしくは、依頼人のような距離。不自然なく右に左に首をめぐらせ、口元に微笑みを刻む。周りから見れば、五人組と談笑しているように。五人組から見れば立ち並ぶ商店に目を奪われているように。
つかず離れず中央広場にたどり着くと、別れる五人組。同じように、ユーリも彼らとは違う方角へと足を向けた。するりと別な人の流れの波に乗る。王都北西にそびえる、錬金術学校へと向かう道。通称、錬金術通り。
左右に立ち並ぶ店は、錬金術の素材を扱う店ばかり。学校に近くなればなるほど、錬金術師以外なかなか足を向ける必要のない素材を扱っているため、人通りは少なくなる。
歩む速度は一切変えず、素材屋を横目で眺めたユーリは内心溜息をついた。
店で買う素材は処理が甘い。その言葉を飲み込みながら歩く。やはり素材は自分の足で取りに行くのが一番だな、と一人納得しつつ、奥の建物へと歩み続ける。
学校の敷地との境界を示す門をくぐってなお、左右に立ち並ぶ商店。しかし、門をくぐった途端、その商品はがらりと変わった。今までは素材だったのに、突然錬金術で作られたアイテムに変わったのだ。
爆弾、薬、特殊な効果をもたらすアイテム。並ぶアイテムに、鼻で笑ってしまう。
これが今の学校の実力か、と。
相変わらずユーリの足元にも及ばない。そもそも、作れるアイテムの種類が違う。
錬金術の歴史は古い。錬金術の知識が描かれた壁画が遺跡になるほど昔から、この世界では錬金術が息づいていた。その土地独特のものだってある。
ユーリはもともとキャラバンという流浪の民。秘境と呼ばれかねない奥地の村にさえ、立ち寄ったことがある。そして憑りつかれたかのように、錬金術を学んできた。その地独特の素材も、それに近い効果のあるものを組み合わせ、同じ効果のアイテムを作れるほど研究に研究を重ねた。
それは一種の執着。
全ての錬金術を己の手にしたいという我儘。
積み重ねられたそれは、ユーリの糧となり、今を支える。
ユーリでさえ、その遺跡に辿り着かねば知らなかった、古代の錬金術を読み解き、現代に復活させ、一時期世界は錬金術で栄華を誇ったともいえる。それこそ、その辺の主婦でさえ、普通に錬金術を使っているほどに、錬金術は人々の生活に根付いた。けれども、それが失われた事件があったのだ。
水神と名高いアレグロの怒り。
水と植物は錬金術から切っても切れない存在。その全てが毒に侵され、錬金術は一瞬で衰退した。
あれは痛かった、とユーリは笑う。
はるか昔に栄華を誇ったという古代文明まではいかないが、随分と錬金術は復活し、文明は進んだはずだったのに、気が付けば元通り。いや、多くの錬金術は失われ、元通り以前の状態。
正直、錬金術学校には期待していた。再び錬金術が日常という世界に戻る、その足掛かりとして。
ちらりと横目で眺めた並ぶアイテムショップに、失望する。
まだ、この程度か、と。
この程度で錬金術師になるのは難関で、学校が独占状態とは、と。
呆れつつ、真っ直ぐに進んだユーリは、錬金術学校へと足を踏み込む。本来、校舎前の入り口には衛兵が立ち、その前に立ち並ぶアイテムショップまでしか入れない。しかし、学校の関係者なら話は別。
どうみても錬金術師のような恰好をした美女は、難なく衛兵の間をすり抜けた。
当たり前の顔をして、堂々と歩く美女。衛兵も、一瞬あんな美女はいただろうかと考えるも、あまりに当たり前のように抜けて行った姿に、声をかけることができなかった。
衛兵二人にうっとりとした視線で見送られたユーリは、迷いなく奥へと進む。学校自体は初めて訪れるが、学校の見取り図はもらっていて、それを頭に叩き込んである。出所は国王なので、その内容を疑うことはない。
慣れた者のように迷いなく歩く様子に、誰もが疑う様子もなく、ユーリは目的地へとたどり着く。
一際重厚な扉。その前には一人の兵士が立っている。校舎の入り口に立っていた者たちよりも腕の立ちそうな雰囲気。それだけで、その部屋に居る者の地位がわかるというもの。
緩やかな微笑みを浮かべ、何食わぬ顔で近づいたユーリは、兵士に声をかけた。
「失礼いたします。ご主人様より、校長先生へお手紙をお預かりしております。どうぞ、お渡しください」
そっと差し出される封筒。
どこかの家紋入りの蝋封。高位貴族でもあまり使用しない、高級な真っ白い紙。
錬金術学校は、国から支援金を与えられ、初めて国家機関として活動している。しかし、いくら国から金をもらったところで、研究をするには足りない。沢山の貴族からの支援金、そして、敷地内に構えたショップでのアイテム販売で、ようやく成り立っているのだ。当然、このような場所を守っている兵士が知らぬわけもなく、その高級さに、即座に行動するべきと判断した。
「校長に渡してきます。貴女はこちらにてお待ちください」
「はい」
ユーリが二歩下がったのを確認し、兵士は中へと入っていった。そして、大して時間もおかずに、出てくる。
「校長がお会いになるそうです。どうぞ」
「失礼いたします」
開いた扉。深々と頭を下げ、入出の許可が聞こえて初めて頭を上げる。再度失礼します、と声をかけ踏み込んだ部屋。
見上げてなお高い天井。壁一面の本棚は、その天井に届きそう。ぎっしりと本が並び、圧巻としか言いようがない。しかし、ユーリはまるで興味なさげに、まっすぐと前を向き、歩を進めた。
後方で扉が閉まる。
部屋の中央に置かれた立派な机。その上に積み上げられた本と書類の数々。
「いやいや、少々散れているのだが許してもらいたい。研究に忙しく、なかなか手が回らないものでね」
椅子から立ち上がり、笑顔を浮かべる小太りの中年男。
少々さみしくなり始めた頭部を撫で、腹を揺らしながら笑う様に、錬金術師のくせによく太ったな、と呆れた声をあげそうになるのをこらえ、ユーリは楚々と微笑んだ。
「よく、わかります」
美女からの肯定に、男はひどく満足げに笑い、来客用のスペースとして用意されているのであろう、仕事用の机の斜め前に設置された、ソファーへとユーリを誘う。
当然のように腰に回る手に、おいおい、と内心笑いながらも、嫌悪一つ見せず、優雅にエスコートされるユーリ。もしもシン以下、あの店に来るものが見たのなら、気持ち悪そうに顔をしかめるか、指を指して笑っていただろう。それほど完璧に淑女のように振る舞っていた。
「紅茶をもってこさせよう」
「どうぞお構いなく。ご主人様からの言伝を伝えましたら帰りますので」
「ふむ、ご主人様、か。どちらの御方だろうか?」
家紋入りの封筒を受け取ったはずなのに空っとぼける様子に、けれどもユーリは微笑みを崩さない。崩す必要もない。そして、男の問いに答える気も、ない。
「ご主人様は大変失望しておいででした。今後、知識を授けるのも考え物だ、とのことです」
歌うように紡げば、顔色を変える男。
一瞬で、丸々とした顔中に脂汗を浮かべ、ぶるぶると震えだす。
「そ、そんな! 我々は一定の成果を……!」
「落ち着いてくださいませ。わたくしも皆様のことをそう、評価いたしております。けれど、ご主人様の理想は、わたくし達には及びつかないほど高いのです。勿論、わたくしはご主人様に猶予を与えてくださるよう、お願い申し上げました」
「お、おお、なんとありがたい! そ、それで、彼の御方はなんと?」
「実験場が小さい、以前の規模にて実験せよ、との仰せです。そうすれば再び、とも仰っておいででした」
ユーリの言葉に、男は顔をしかめる。
実験場、とは隣国との戦場のこと。四年前、忌々しくもユーリが終わらせ、一昨年小競り合い、という形で復活させたあの場所。
隣国側から一方的に休戦協定を撤廃させるのだって一苦労だった。だというのに、そこからさらに本格化した戦争に、など、考えただけで頭が痛い。両国は長い間戦争続けていたため、互いに国力が戻っていない。小競り合いだって本当は苦しいはずだ。それを、再びあの状態へ、など。
ずっと続けていたときは良かった。互いに意地を張れたから。その意地が一度崩れてしまった今、どうやってそうしろというのか。
男はユーリの正面にある数人掛けのソファーに座り、頭を抱える。
きしり、と微かな音を立て、ユーリは立ち上がる。そして、男の隣へと座った。するりと細い手で男の太ももを撫でる。
「わたくしは、貴方がご主人様の期待に応え得る、智者だと存じています」
そっと耳元に声を滑り込ませた。男は顔をあげ、ユーリを見る。対してユーリはうっとりするほど柔らかな微笑みを浮かべ、男を見つめた。その目に乗せるのは、心から信じ、愛する者へ向ける視線。
「ご主人様の理想は凡人には見えぬ、遥か高き頂にあります」
そうだ、と男は頷く。
自分に錬金術の知識を授ける不思議な男。それは、天才と呼ぶべき存在だった。何しろ、従来の錬金術では考えもつかないような素材の組み合わせを平然と口にし、不可能だと思われていた、難病を治す薬さえ造ってみせる。
憎き『魔法使い』に対抗しうる存在。
それが凡人に理解できる場所に理想を立てるはずがない。
「わたくしも、ご主人様も、貴方ならそこに到達する、と信じているのです」
可憐な声が囁く。
まさか、と男は咄嗟に思った。それは否定的な意味なのか、肯定的な意味なのか、一瞬自分でさえもわからない。けれども、目の前の美女は、言い聞かせるようにゆっくりと、貴方ならできる、そう再び口にする。
男は、太ももを撫でる細い女の手に、そっと己の手を重ねた。
自分は、『魔法使い』と対抗しうる存在が認めた男。目の前の美女がこうして媚びるのも、それが事実だからに違いない。そう、気づいた。
そう、自分こそはあの憎き『魔法使い』に対抗できる存在なのだ、と思い込めば後は容易い。
「そうだ、私には錬金術の才能がある」
「ええ、そうです」
「私は、あのいけ好かない小僧が治めるこの国は勿論、隣の国だって動かせる才がある」
「ええ、そうです」
美女は微笑む。絶対の信頼を乗せて。だから、貴方は期待されているのだ、と囁きながら。
自分こそが、と思い込めば容易く、あっという間に過ぎた自信が思考を奪っていく。
目の前の女性は、素晴らしい自分に媚を売っている。男なら、それに応えてやるものだろう。そんなくだらない見下しをして、ソファーに女を押し倒した。女の体をまさぐろうと伸びた手は宙を滑り、床に落ちる。にやけた笑みを浮かべていたはずの頭は、ぼとりと力なく女の上に落ちた。
「はい、お休み」
可憐な声がそんなことを囁き、次いでよっこらせ、とどうにも年寄りくさい掛け声をかけながら、男の下から這い出してくる。
ユーリの左手、人差し指と親指の間にきらりと光る針。カインの目の前で収納した危険なものではなく、ただの睡眠針。うなじにちょんと一刺し。それで、一般男性と同じ背丈の肥満男が、一瞬で意識を失う。それほど強力なもの。そして、直前に強く思い描いていた思考を夢として見せてくれる。ちょっとした現実逃避薬、とユーリが呼ぶもの。
今頃いい夢でも見ているのだろう。男はソファーに俯せのまま、だらしなく鼻の下を伸ばして、にまにまとしたいやらしい笑みを浮かべている。脂肪に覆われた手が、むなしく宙を揉んでいた。
そんな男をひっくり返し、仰向けにすると、口元に瓶を押し当てる。その瓶の中で揺れる液体は薄黄色。低位の回復薬。それで傷を修復し、ユーリが男に使ったものの痕跡を消す。
行儀悪く足の裏で机を蹴って、軽い物音を立てながら、隠し持った圧縮袋に要らないものを片付け、次のアイテムを取り出した。乳白色の液体が入った試験管。その中身を男の口腔へと流し込む。小指の先ほどもない量だが、変なところに入らないよう、気を付け、ゆっくりと。
そうして、男の耳元へ、甘く、優しく、繰り返し同じ言葉を囁いた。
この作品でカップリングをあげよ、と言われたら真っ先に、
動く掃除用具(箒)×ユーリ
がでてきた残念なトドです。皆様おはようございます。
ハードディスクを入れ替え、無事パソコンさん復帰しました。
思いの外軽傷でした。
さてさて、新しいパソコンさんが復帰するまで暇だったトドは、くだらない妄想を温めておりました。
その時に思い出したのですが、
私の自分で動く無機物好きや、人外好きの始まりはジブ○ではなかったのです。
ネズミーな王国にある、黄色いドレスを着た女の子と、
モッフモフになる呪いを受けた王子? 領主? の恋愛話が始まりです。
その話を読み聞かせられたのが保育園の頃だったような気がします。
少なくとも幼稚園ではなかった。
つまり、そんな以前から女を腐らせていた疑惑が発生しており、
驚愕に打ち震え……はしませんでしたね。
ええ。
もともとトドの実家は、ヲタ一直線のエリート教育でしたし。
そんなことを思い出したら、
ポップコーンもチュロスも嫌いだけど、あのランドでご飯食べたいなーとか
関係ないことを思い始めてしまいましたので、この辺で。
最近は落差の激しい文章を書いてるきがしますが、
来週もよろしくお願いします。




