56 錬金術
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カウンターに積み上げられていたはずの本は、まるでそのまま押しやって落とされたかのように床に散らばっていた。その周りを掃除用具達がくるくると回り、器用に本棚へと本を片付けている。
空いたカウンターに広げられた布。その上に並べられた、長く細い幾本かの針。これはなんだろうか、とカインは首を傾げた。
「カイン聖騎士長、気を付けてね。その針が体に刺さると死ぬからね」
けして不用意に手を伸ばす男ではないけれども、ユーリは一応注意を促した。それにわかったと大人しく頷くカイン。
「随分と物騒なものを出しているのだな?」
「ちょっと入用でね」
「使うのか? 君が?」
「使う事もあるかもね」
念を入れているのさ、と笑いながらユーリは、針を布に一度通し、落ちないようにしていく。それが終わると、布の端からくるくると巻いた。コンパクトになったそれは袖の中へと仕舞われる。
それの前は爆薬。その更に前はポーションだったな、と思い出したカイン。ユーリの袖を興味深そうに見つめた。
「相変わらず便利だな」
「慣れれば、ね」
ユーリの袖に隠されたアイテム。カインはそれが何であるのか知っている。予定が合い、ユーリの採取に付き合った際に、教えてもらった。
圧縮袋。手のひら大の巾着。その口さえ通れば、どんなものでも豆粒よりも小さくなり、袋内に収まる、という不思議な巾着。ユーリは左右の袖にそれを隠し持っている。そして、沢山のアイテムを入れているのだ。
小さくなり、沢山のアイテムが入るとはいえ、重量はそのまま。以前、圧縮袋の説明を受けた際にカインも持たせてもらったことがあるが、鎧以上に重たい、という印象があった。持ち方の問題でそう感じただけかもしれないが、それでもカインがそう思うほどのそれを両腕にぶら下げていられるのだから、ユーリはかなりの力持ちである。
袋に突っ込まれたアイテムは、小さくなるだけで、中で整理整頓され、望んだものがさっと取り出せる、などといった便利機能はない。よって、手を入れ、その形を確かめ、必要な物を自己判断で取り出すのだが、慣れていないものは、豆粒よりも小さなものの形など即座に判断できない。違う物を取り出しやすい。結果として、あまり使用者のいない珍品。そんな不便なものから、望んだアイテムをさくさく取り出せる。ユーリのすごさの分かる一品、ともいえる。
次々と放り込まれるアイテム。規則性はない。少なくともカインの目には。毒薬爆薬回復薬の他にも、カインが見た事のない宝石類も放り込まれていく。
それを眺めていたカインは、薬湯に口をつけ、ふと首を傾げた。
「なぁ、錬金術とは何だ?」
突然の問いかけに、ユーリはぱちりと瞬く。カインからそのような質問がくる、とは考えもしていなかった。そう言わんばかりの表情。それに、カインは、言葉を続ける。
「我々錬金術を知らぬ者から見れば、君達の造る物は奇跡を呼ぶ魔法のようだ。だが、魔法ではないのだろう? なら、錬金術とは何だ?」
「成程。錬金術ってのは、そうだね、わかりやすく、端的に説明するなら、エネルギーを産み出す学問、かな」
以前カインにも与えた、嵐を起こすアイテムは、嵐を呼ぶための条件を満たすエネルギーを秘めている。風を動かす力、その力で雨雲を呼び寄せ、嵐となる。そのアイテムに秘められた力が大きければ大きい程、発動から嵐が起きる時間が短い。この時間をいかに短くするかが、錬金術師の技量にかかっている。
傷の回復は、使用者の身体を活性化させ、傷を即座に塞ぐ。その力を増幅させるもの。
無論、単純にエネルギーを産み出すだけではないが、魔法と勘違いされやすい物の多くが、これに値する。
魔法に見えるアイテムに関しては、人智を越えた力に干渉する、産み出す、学問。
そう説明され、カインは成程、と頷いた。
「では、錬金術、とは何を求めて生まれた学問なのだろうか?」
続いた問いに、ユーリはふは、と気の抜けた笑い声を上げた。
「懐かしいね。昔、十代のシンが同じ質問をしたよ」
アイテムを仕舞う手を止め、揺り椅子に背を預ける。懐かしそうに目を細める姿は、自分よりも若い青年だというのに、何故だか人生を謳歌した老人のようだ、とカインは思った。
ぎしり、と音をたてて揺り椅子が前後に揺れる。
「錬金術において、最終目標はいつの時代も賢者の石、と言われている。けれども、本当の目標は不老不死の妙薬。それを得るために始まったんだよ」
だから、薬と名がつく物が多いだろ、と笑われ、成程、と頷く。そして同時に少しばかり失望した。錬金術師が造る人を救うための薬が、そんな物を造るための過程で偶々生まれただけでしかない、と知ってしまった事に。
「不老不死、か」
ぽつりと呟かれた言葉。
カインは考える。いつの世もそれを望む者は後を絶たない。確かに、死の恐怖を乗り越え、いつまでも自分の最も優れた状態を維持する。それは夢のような事なのだろう。けれども、とカインは首を傾げた。それにどれほどの価値があるのか、カインには理解ができない。
「君も、望むのか?」
「僕が? まさか!」
可笑しそうな笑い声。懐かし気に細まったままの目に、ああ、これもシンが問うたことがあるのだな、と理解する。
「不老不死なんてくだらない。人は死ぬから生きているんだよ。かと言って死ぬために生きているわけじゃない。生きるために死ぬんだ。意味をはき違えてはいけない」
死のない者は、死んでいないだけで生きていないんだ。そう笑うユーリ。
死という絶対的な終わり。それに向かうからこそ、生に意味がある。価値が見いだされる。ただただ存在する、ではなく、生きようとする、のだ。そして、それは何よりも美しく、価値のある事。何をした、何を遺した、ではなく、生きる、ただそれだけで、生まれた意味を成し遂げる。それを最も感じられるのが人間で、だからこそ、僕は、生きた人間、が好きなんだ。
にんまりと弧を描く口許。いつもは軽薄な印象しか受けないその顔も、今だけは、実に深い愛情に満ち溢れている。そう感じた。
ユーリは言う。
人は長くを生きる事に向かない。それは考える力があるから。それを推す欲があるから。
それは自身と共に世界を滅ぼす。やがて滅ぼした世界で一人残った時、その心はきっと生きていない。おそらく、生きていたころの残骸が残っているだけ。残骸に変わった時、人は死ぬのだ。
結局、人は長くを生きられない。手に入れたとしても、自ら失う。
そう告げるユーリの声は酷く穏やかだった。
「できないと分かっていて、足掻くからこそ、人は愚かで愛おしいんだよ」
「では、何故君は錬金術師に?」
錬金術師の目標をくだらない、と一蹴する男。その男こそ、間違いなく現在錬金術師の最高峰にいるものだと、この男を憎む者でさえ認めている。それほどの錬金術師に、何故至ったのか。
ユーリは一度、そっと目を閉じた。それからゆっくりと目を開き、天井を見つめる。
面白かったんだ。無から有は生まれない。けれども、有からならば当然生まれる。それが面白かったんだ。次々に思い描く。そして、それを産み出す。そうすれば皆が喜んだり困ったりした。それが、とても面白くて、嬉しかったんだ。
ゆらゆらと揺れる揺り椅子。
まるで眠るように朧気に呟かれる言葉。
弧を描いたままの口許。天井を見上げる目は、どこを見ているのかわからない。ただ、ここではない、どこか遠くを見ているのだと理解できた。
カインは、この時初めてユーリという人間に触れた気がした。
普段はにんまり笑い、けして己の事を語らず、己の事にならないよう、上手く話を逸らす。顔は広く、付き合いも意外と多い。けれども、側に置くのも、踏み込むことを許すのも、シン唯一人。
謎というものを体現したかのような男。
おおよそ人というには不可解な思考を持ち、まるで自分以外の全ては研究、観察対象と言わんばかりの視線を投げかける。そんな奇妙な男が、まるで普通の人間のような姿を見せた。その事に、多大な違和感を覚える。
けして表情が変わる事のないまま、じっと見つめるカインに、ユーリは小さく笑う。
実にわかりやすい男だ、と。
普通の人間なら、十人見て、十人全員が、何を考えているかわからない。そう称する男を見て、ユーリだけは言う。カイン聖騎士長は単純でわかりやすいよ、と。だからこそ可愛がってしまう。
「そうだ、カイン聖騎士長。これをあげるよ」
カウンターに置かれ、つい、と差し出される小さな紙。
親指と人差し指でつまめば、隠れてしまいそうなほど小さなその紙を受け取った。二つに折りたたまれていたそれを開く。白い背景に、黒いインクで記されたそれは、人の名。
視線だけで問う。
「網の一つでね。情報屋。そこそこ使える子だったんだけどさ、要らなくなったんだよね」
口とは逆の弓なりを描く目。
優しいはずの笑顔が、酷薄で、恐ろしい印象を与える。
「初めから僕を裏切っていてね。ずっと僕の情報を売っていたんだよ。面白かったから今まで放置してたんだけどさ、そろそろ邪魔なんだよね」
「だからと言って、どうこうは……」
「そうそう、その子ね、最近新しい飼い主がついたんだよね。その飼い主の名前がね、タルポット男爵って言うんだー」
ぴくり、とカインの眉根が僅かに跳ねた。因縁のあるその名に、反応せずにはいられない。
昨年、息子が問題を起こした為、警戒対象となった。領地も半分以上を没収。財産も殆どが没収となり、貴族とは名ばかりで、クリストファーに対抗する手段もなくなったはず。そんな男が何故情報屋を囲うのか。そして、そんな相手に何故、その情報屋は囲われたのか。
調べる価値は十二分にある。
「情報提供、感謝する」
「どういたしまして。市民を守る為に立ちあがった陛下の為ですから」
にんまりと笑い、丁寧に言葉にするほどに胡散臭さが際立つ。それでも、カインがユーリからの情報を疑う事はない。それだけの信頼がある。
「ああ、聖騎士長。気を付けなよ。陛下を、一人にしてはならないし、君が陛下の側を離れる時、宰相を必ず側に置いておくんだね」
「? 聖騎士の誰かでは駄目なのか?」
「駄目だね。それでは役に立たない。陛下の側には、君か宰相だ」
「陛下が、襲われる危険があるのか?」
「僕側の敵じゃないけど、それに乗じようとしているようだよ」
意外と荒れた白い指先が指し示すのは、先程渡した小さな紙きれ。それに一度視線を向けたカインは、そっと紙をカウンターに置いた。
暗黙のルール。
この店で得た情報。後に残るようなものは持ち出さない。
どちらかが言い出したわけではない。念を入れる為、当たり前のように行動していただけ。それがいつしかルールとなっていた。
「ごめんねー。僕の敵が、更にそれに乗じようとしているかもしれないからさー」
「ああ、成程。タルポットごときに、と思っていたのだが、そういうことか」
「まぁ男爵はそう言われても仕方ないだろうけど、息子の方には気を付けなよ? 君ほどではないが、あの子は腕がたつようだ。どちらかと言えば暗殺者向きだから、君でも場合によっては危ないかもよ?」
まだ、捕まってないんだろう、と問われ、ぐ、と押し黙る。
捕え、重犯罪者用の牢にて厳重警戒の中、消えたタルポット。未だに消息はつかめていない。死体が上がっていない以上、生きている可能性を考慮している。だが、もうこの国にいない。それが最近の考えだった。
親である男爵に匿うほどの能力はない。では、誰がこの国で自分達から隠せるのか、と眉根を寄せる。そんな者、目の前の男以外、カインには想像もつかない。だが、相手はユーリと敵対している側についていた。ユーリが匿うわけがない。となると、ユーリの敵が匿っていることになるが、そんな勢力がこの国にあるものだろうか、と疑問が尽きない。
ゆっくりと立ちあがる。
椅子に座ってなお、圧迫感を感じるほど巨大な体躯を持つ男。それが立ちあがり、ユーリは自身を覆う影に、まるで壁だな、と感想を持つ。シンでは絶対にありえない。
「シンはいつ戻る?」
「おそらく後五日」
「五日、自力で生き抜けるか?」
勿論、と頷きながら、ユーリは笑った。
陛下の剣。
何を、誰を、優先するのか、明確な思考。当然の選択に、それでこそ、と笑ったのだ。
「宰相殿が、シンがいないと食事をしない事を心配しておられた。きちんと食べるんだぞ」
「え、まって。君、まさかそれだけの為に派遣されてたの?」
王国最強の剣を何に使ってんだよ、と思わず声を上げるユーリに、カインはゆるりと首を左右に振った。
「無論、監視と護衛も入っている。何だかんだと、宰相殿は君を諦めていない」
げぇっと顔をしかめる。
いかに人間が大好きなユーリでも、苦手な人間がいるのだな、とどこか抜けた感想を抱いたカイン。そして、まぁ、得意不得意あって当然か、と納得すると、いつものように挨拶をし、窮屈そうに扉をくぐって店を後にした。
なろうを開いたら、大幅に画面が変更されていて、大変ビビったトドです。
皆様おはようございます。
新しいものがなかなか受け付けられない、アナログ脳なので、硬直してしまいました。
ホーム画面にさえ入るのに一苦労……
これが老いってやつですかね……
昔はこんなことなかったなぁ、とピッチピチのガラスの十代の頃を思い返しては溜息が出ます。
恐れを知らないってすごいですよね。
仕様書に書いていない事を平気で行って、「なんか壊れた~」と笑う事はなかったけれども、
色々な事で黒ひげ危機一髪感を楽しんで、ぎりぎりのラインを探っておりました。
まぁトドは寂しい子だったので、けして多人数型な遊び方はしておりませんでしたが。
ちょっとホーム画面が変わっただけでビビッて、何十分もかけてホームボタンを探しながら、そんな事をつらつらと思い出しました。
猫田 トド




