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錬金術師は人間観察がお好き  作者: 猫田 トド
四章 死に行く村
35/85

34 君は理不尽1

ブクマありがとうございます!

とても嬉しいです!





「戻ったにゃ~。シン、これでいいかにゃ?」


 ガサガサと音をたてながら森の中から戻ってきたミーユ。その手には、香草と大きめの葉がいくつか握られていた。


 時期的に、ダメ元で頼んだ香草の方はバジルとタイム。バジルの収穫時期は七月から十月。タイムの収穫時期は四月から六月。又は九月ごろ。正直、どこから採ってきたのか聞いてみたかったが、止めた。葉は、余った肉等を包む為の物。


 礼を言って受け取ったシンは、ふむ、と頷く。なかなか悪くない。さてではこれをどうするか、と考える。ただ肉に塩コショウを揉みこみ、香草を腹に詰めて夜番の際にじっくりとローストにするだけでも構わない。しかし、それはそれで微妙に味気ないような気がしてしまった。


 ふと、ユーリがかき混ぜる鍋が目に入った。ああ、あれでいい、と一人頷く。


 香草を川で洗い、しっかりと汚れを落とした後、水気を拭きとった。肉に塩コショウをしっかりと刷り込み、その中に香草の半分を揉みこむようにしながら詰め込む。そして、そのまま置き場所がなかったので、木に吊るした。


 現在すべき処理はこれで終了となる。後は味がなじんだ後、一度塩コショウを洗い流し、再び、今度は軽めに塩コショウを擦り込む。これらは夜番の際で構わない。


 汚れた手を洗い、焚き火で温める。


「お疲れ様、シン」

「おう。んじゃ、ミーユも戻ったし、飯にするか」

「わーい! お腹ペコペコにゃ~」


 ぱっと笑うミーユに、テントを張る前までの陰りも、張り詰めた気配もない。既に気持ちを持ち直しているようだが、緊張が消える速さに苦笑せずにはいられない。


 獣人とは身体だけが大人になる永遠の子供。


 ユーリの言葉が脳裏をよぎる。この調子で怒られたこと、反省した事を忘れていたらどうするか、と考えようとしてやめた。にんまりした笑みを浮かべたユーリが、じぃっと音が聞こえてきそうな程シンを見ているから。


 ユーリが手にした器は空で、自分でよそえよ、という言葉はぐっと飲み込む。反対側に座ったミーユも同じように空の器を持っていたから。呆れて溜息を零しながら、簡易かまどにくべた鍋の前へと移動すれば、空の器を持ったユーリとミーユが並ぶ。


 いつから自分は配膳係に任命されていたのだろうか、と下らない事を考えようとして、止めた。どうせ碌な理由がないと解ってしまったから。だからシンにできることは、無言で差し出された器に、鍋の中身をよそうだけ。


 熱くても平気なユーリは、一度で沢山摂取できるようになみなみと。ネコ科の獣人なだけに猫舌なミーユは、冷めやすいように少し少な目に。自分の分の器にもよそうと焚火の前に戻った。


「シン、そっちの串とってよ」

「自分の前にあるやつ食えよ」


 顔をしかめつつ、器を置くと頼まれた串をとってやる。


「ありがと。だってそっちのが大きい気がするんだもん」

「子供か」


 シンは串を、ユーリの前には五本、シンの前にも五本、ミーユの前には四本、並べて焼いていた。ミーユはハンターなので普通の女性よりは食べるが、別段大食漢という訳ではない。一応少なめにし、シンとユーリの分はほぼ同じ分量になるようにした。それはユーリも理解している。だというのに何故に自分の場所の串を求めるのか。隣の芝生というやつなのか、子供の我儘のようなものなのか、と呆れた視線を向けるが、当のユーリは気にしない。一本奪った代わりに、自分の場所に刺してある串を一本、シンに渡す。それを受け取り、とりあえず再び地面に刺して火に当てた。


 焚火を囲んで食事を始める。


 木のスプーンで軽くスープをかき混ぜ、掬って飲む。シンプルなスープは飲み慣れたもの。旅の間はほぼこれしか飲めない。飽きた、などと贅沢が言えるような生活環境ではないので、誰もが当然のように飲んでいた。


 串も塩コショウという実にシンプルな味付け。コショウがある分幾分かはマシなのだろうが、やはり塩味のスープと塩味の串では何とも微妙な気分になる。


「ユーリ」

「んぐ?」

「ソースとかを持ち運びできるような形にする錬金術とかってねぇの?」


 シンに交換してもらった串を頬張りながら首を傾げるユーリ。少し考えるように斜め上へと視線を向ける。


「そういった錬金術は、存在しないね」

「ねぇのか」


 わかっていたとはいえ、やはりがっかりしてしまう。錬金術の学校に存在しなくても、この錬金術の至宝のような男なら、誰も知らない錬金術を知っているのではないか、と僅かばかり期待したのだ。


「いや、しかし、そういった錬金術は誰も研究した事がない。つまり、僕が知らないだけで、あるかもしれない、ということだよ」

「錬金術は料理発祥じゃねぇのか?」

「それは、料理そのものが錬金術、と考える者達の言葉で、料理した物を錬金術で加工する事ではないんだ。いうなら、その言葉は、このスープや串を指しているんだよ」

「なるほど?」


 意味は分からないがとりあえず相槌を打つ。そんなシンを気にすることもなく、ユーリは続ける。


「君の言う『ソースを持ち運びできる状態にする』というのは『既に錬金術アイテムとして完成した物を、更に錬金術加工する』ということだ。ようは、爆弾を錬金釜に放り込んで、違う形状にする、というような暴論だね」

「爆弾を素材にする? できるのか?」

「僕が知る限りでは不可能だね。威力を増加させるため、一つの容器に爆弾を詰め込む、ということはあるけどね。そもそも錬金術に於いて『完成品』と呼ばれるものと『不完成品』と呼ばれるものが存在する。『完成品』とはそれ以上どうにもならない物。爆弾などはこれだ。『不完成品』は火薬のように素材となる加工品だね」

「でも、それならソースは『不完成品』じゃねぇのか?」


 ユーリの言葉に首を傾げる。


 他のアイテムの素材となる、というものが不完成品ならば、他の料理の素材となっている調味料各種は不完成品でいいはずだ、と。ユーリはそれに目を見開き、大きく頷いた。


「そうだよ! シン、君はやはり錬金術に向いている! 誰もその事に気づいていなかった。料理は完成品だと全員が思っていた。さっきも言ったけど、料理を錬金術というのはあくまでも一部の人間のみ。それも、素材から違う形状の何かをつくるところが似ているから、という理由なんだ。だから誰も料理を錬金術でどうにかしようという研究はしてこなかった。料理はあくまでも料理人の分野だと言われていたんだ。それを君は疑問という形で覆した! 料理も錬金術である、という可能性を! これはすごい事なんだよ! ああ、もしかしたら新しい錬金術が産まれるかもしれない!」


 興奮に頬を染め、目を輝かせる。その姿はまさに恋する乙女。ミーユとシンは、そっとユーリから身を引くように身じろぎした。じりじりと移動し、二人で肩を寄せ合う。


「ユーリ、どうしたにゃ?」

「アイツ、自分では錬金術に飽きたって言ってるけど、本当は錬金術大好きっ子なんだよ」

「怖いにゃ……錬金術師って、皆あんなんにゃ?」

「さぁ……俺が知ってるのはアイツだけだしなぁ……」


 シンの脳裏に一瞬、アラン、と名乗っていた男の姿がよぎるが、すぐに打ち消した。あれとユーリを一緒くたにするのはよろしくない、と。目の前のユーリの姿が、どれほどあの男と同じに見えようとも。


 もうすでに二人は話を聞いていないというのに、興奮のままべらべらと喋り続けるユーリに、奇妙な物を見るような視線が向けられる。だがユーリが気づく事はない。相変わらずいかにシンが凄いことを発見したのかを、恐ろしいまでの語彙力で語り続けた。やがて満足すると、今度はどのような錬成が有り得るのかを一人、ぶつぶつと考え込む。


 旅の最中。岩だらけの河原。書き記す為の物が存在しないその場所で、あーでもない、こーでもない、と悩み続ける。その姿に、これは良くないな、とシンは顔をしかめた。そんなシンの予感をくみ取るかのようなタイミングで、ユーリが顔を上げる。


「シン! 帰ろう! 今すぐ研究しよう! 君の意見をもっと聞きたい!」


 だよな、と苦い表情を浮かべたまま、そっと視線を逸らした。慌てたのはミーユ。


「ちょぉっと! ユーリ!? 困るにゃ! 私の依頼ぃ~!」


 ミーユの故郷は、今すぐにでも何かしらの手を打たねば、来年の冬には確実に全員、冬を越えることなくその命を散らす。そうわかるほど疲弊していた。だからこそ、至高と呼ばれる錬金術師であるユーリを頼ったのだから。しかし、そのユーリが依頼を破棄しようとしている。そんなこと、許せるわけがない。


 だがユーリには届かない。


「そんな事よりも新しい錬金術の研究の方が先だよ!」

「依頼を先にしろ、アホ」

「そうにゃ! 依頼が先にゃ!」

「えぇ!? 君達は錬金術の進歩をないがしろにするの!? もし新しい錬金術が完成したら、千年ぶりに新しい錬金術の完成だよ!?」

「知らねぇよ。ハンターにとっちゃ受けた依頼を完遂する事が重要だからな。依頼が終わった後なら付き合ってやるよ。じゃねぇなら、俺は別の奴の依頼を受けに行く」


 一度ハンターが依頼を受け、城壁外へと出てしまえば、次に帰るのがいつなのか、誰にも分らない。翌日帰ってくることもあれば、一月後半月後、一年後なんてこともある。下手をしたらそのまま帰ってこない事もザラにあった。シンには帰る場所があるのでそのようなことはないだろうが、少なくとも半年帰ってこない、などは考えられる。


 慌てたように立ちあがるユーリ。


「ダメだよ、シン! そんなことしたら僕の護衛は誰がするの!? 僕のご飯は!? 洗濯は!?」

「嫌ならミーユの依頼が先な」

「うぅ……はい」


 しょんぼりと肩を落とすが、自分とそう変わらないような見た目の男がしても可愛くない。隣でミーユが「やっぱりシンはお母さんにゃ」とかなんとか言っているが、聞こえないふりをする。


 元の位置に座りなおし、しょげたままのユーリに食事を促し、シンもまた、食事を再開した。そういうところが更に「母親っぽい」と言われるのだと気づかずに。


 旅の最中、腹いっぱい食事を摂る事はない。空腹で寝付けない、力が出ない、といったことが起こらない程度。普通ならスープ二杯ぐらいだ。今日はスープの他に串があったので、ユーリもシンもスープは一杯に留める。


 ミーユは串を四本全て食べず、残りの一本から肉を外した。香草と一緒に川で表面を洗っておいた葉に乗せ、冷ます。冷めた後に葉でしっかりと包み、ほどけないように蔦などで結わえば、簡易保存食の完成だ。自分の胃の容量に対して予定より多い場合、また、これから先の旅が長期にわたる等、諸々の事情から不測の事を考えるハンターは、こうして余裕がある場合は食事をやりくりする。こうすることで手持ちの保存食の消費を減らし、街で消耗した物品の補充の際、少しでも安上がりに済ませるのだ。


 基本的に、依頼者が護衛の食事等をもつ。もしもミーユがユーリに雇われているのであれば、そのような事、気にしなくても構わない。十分な携帯食を用意するのも依頼者の仕事だから。だが、今回ミーユはユーリを雇い、ユーリがシンを雇っている状態。本来なら、必要経費としてシンの護衛代もミーユが持つべきところ、ユーリが「シンは僕が自分で雇う」と言い出した。そのユーリの行為を、ミーユの財政事情を考慮した好意――シンはユーリが雇う際は銀貨十枚だが、他の者が雇う際は金貨一枚と高額なハンターだ――と受け取ったミーユは、感謝し、あっさりと受け入れたのだ。


 ミーユは知らない。ユーリという人間が全く以て優しくないのだ、と。


 基本的にユーリの行動は、彼の中の歪な優先順位によって決められている。今回シンを自ら雇ったのだって、明確な優先順位に則ったものだった。


 まず、ミーユは忘れているようだが、護衛として雇われたハンターは、雇い主の意思に従う。その雇い主が守れ、と言ったモノを守るのだ。雇い主である自分を守れ、荷を守れ、守るモノはその時々。しかし、雇い主が優先順位を付け、守れと言ったモノだけを守る。ミーユだって自分が護衛として雇われていれば、迷わずそう動くはずだ。なのに、忘れていた。


 シンは、ユーリが雇った。


 雇い主は、ユーリである。


 そしてユーリは「僕()護衛、よろしく」と言った。


 そう、ユーリは『僕の』と言ったのだ。その他の護衛は一切頼んでいない。もしもミーユが雇い『ユーリの護衛を頼む』と言ったのなら、シンは先ずユーリを守る。そして、ミーユも守る。だが、ユーリが雇い、自身の護衛のみを頼んだのだから、シンがミーユを守る事はない。勿論、ミーユはハンターで、自分自身を守る術を持っている。だが、どんな時も不測の事態は起こるものだ。


 いつぞやのように突然魔人に襲われたら?


 その時シンは、ミーユを見捨て、ユーリだけを連れて逃げる。一秒の迷いもなく。ミーユという囮を使い、時間を稼ぎ、それでも逃げる事が出来なければ、自身を盾にするだろう。


 勿論、魔人に襲われる、等と言う不測の事態、早々起こらない。しかし、その不測の事態をかつてその身に受けた二人は、常にその可能性を考慮していた。


 ユーリにとって自身の生存が第一。次にシン。ミーユに関しては特に何も考えていない。勿論、ユーリにとってミーユは使い勝手の良い駒だ。なくなれば少々痛い。が、その程度。替えのきくもの、という認識でしかない。だから、シンは自分で雇った。


 知らないって幸せだよな、とぼんやりと考えながら、後片付けをしたシンは、吊るしていた肉を降ろす。イイ感じに水分が抜けていた。既に日も沈み、更に冷えた中、まるで寒さも冷たさも感じていないかのように、川の中に肉を沈め、洗う。


 表面に浮いたドリップと、余分な塩分を洗い流した。内臓をとる為に開いた腹部から、中に手を差し込み、滲みだしたドリップを丁寧に洗い流す。外も中も綺麗に洗い終えると、タオルで水分を拭きとる。余って、火から降ろしたスープの底に沈む豆や肉を掬い、中に詰め込んだ。十分に詰め込むと最後に香草を詰め込む。そして武器として持っている、長く太い針に、裁縫セットの細い糸を何本か通した。本当ならタコ糸のような、丈夫で太いものが好ましいのだが、生憎持ち合わせがない。繊維の強い葉、または長い蔦を採取し、糸状に加工しておけば良かったが、それもない。裁縫用の糸で我慢するしかない。この裁縫用の針を使わないのは、一応応急処置で傷口を縫う事があるから。


 長く太い針で、器用にも細い糸を使って開いた腹を縫い合わせた。多少はしみこませたとはいえ、表面の味は洗い流されている。塩とコショウを軽く振りまいた。後はこれを長い枝に通し、焚火の火でじっくりとローストするだけ。


「ねぇシン、まさかと思うけど、僕が寝てるとき、それを炙るの?」

「おう」

「拷問にゃ……交代の時起きても食べられないのに、酷いにゃ……」

「食テロ。こういうのを食テロって言うんだ……」


 ぶつぶつと呟く二人に首を傾げ、さっさとテントに押し込む。ミーユとは二時間後、と確認し合い、ユーリにはお休み、と声をかけた。


 テントで寝る時用のマントをユーリが差し出したので、礼を言って受け取る。


 今は十二月。もうすぐ雪の降る季節。シンはもともと孤児院出身で、寒さに強いとはいえ、やはり焚火の火一つでは寒い。こうしてきちんと準備してくれるユーリには、いつだって感謝している。本来なら旅装束として自身で準備しなくてはならないのに、戦闘の際邪魔になる、と言い訳して買わない自分の為に、ユーリが準備してくれているのを知っているから特に。せめて、旅をしていてもそれなりに美味い食事をとれるようにするくらいしか、返せることがない自分に呆れる。


 パチパチと音をたてる火の上にセットした肉。くるくると回しながらじっくりと炙った。テントの中で、漂う香りに、溢れる涎と、勝手に空いていく腹を抱え、必死に眠ろうとしている男女がいるとは知らずに――。




今年の更新はこれで最後です。

次は一月七日に更新出来たらなー……と思っております><;

それでは皆様、良いお年を!!

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