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七色イロイロ

僕はいつも通り彼女の家… には向かわず、かと言って図書館に行くわけでもなかった。


そう、珍しく僕は部屋から出なかった。出られなかった、と言った方が正しいのかもしれない。

まぁ、部屋から出なかった事が重要であって 僕の気持ちなんて瑣末な事だ。


目が覚めた頃には両親は既に仕事に出かけていた。

部屋に時計がないため、いつもは太陽の位置で大体の時間を予想する僕だが今日は雨で太陽が見えない。何となく昼頃の気がする…


随分長く眠ったように思うが徹夜をした時よりも身体が重いし気分も重い。


「ふぅー」


大きなため息をひとつつき、布団から身体を起こす。


もう一度眠ろうという気にもならないし本を読む気分でもない。

それでもやっぱり暇なので僕は自分の人生を振り返ってみることにした。ただの思いつき、深い考えなんて無い。ただ、僕の人生は吐き気がするほど不快で後悔ばかりだ。


僕はもう一度横になって目を瞑る。


ゆっくりと記憶の海を潜るように、探るように、深く意識を集中させる。

深く、深く、もっと深く。

セミの鳴き声が聞こえなくなるくらい集中出来れば上出来だ。




微かに見覚えのある遊具と、昨年死んだらしい園長先生が見える。

多分これは幼稚園の頃の景色だ。


「君はどうしていつも一人でいるの?」


優しく透き通る声、顔はどうも思い出せない。


「お弁当一緒に食べる?」


えらく僕の事を気にかけてくれる。そうだ、確かこの子は僕の生まれて初めての、おそらくたった一人の友人だ。


卒園式でもその子は式が終わると真っ直ぐに、親ではなく僕に向かって走って来て こう言った。


「小学校でもよろしくね」


うん、と僕はそっけなく返事をして両親の元へ駆けた。照れくさかったんだ。1番に来てくれたことは何より嬉しかったし、これからもよろしくと言われた事も嬉しかった。


ー もし僕が気持ちを言葉に出していたなら何か変わっただろうか…


今更ながら後悔と申し訳なさに苛まれる。



しばらくして別の景色が映し出される。

これは小学校だ。6年も通ったんだ…嫌でも覚える。嫌なほど鮮明に覚えている。


一年生、二年生、三年生とまあ至って平凡に僕は進級し、あの子も進級した。相も変わらず優しい笑顔で、変わらない優しさで僕に接してくれた。

思い返せば毎日が楽しくて、宝物の様な日々だった。


四年生になると皆異性を意識し始めて一緒に居ると"ラブラブー"だの黒板に相合傘を書かれたりした。ずっと一緒にいた僕達は格好の的だった。その子は全く意に介さず、今思えば大人な対応をしていたのだけれど、僕ときたら とりもなおさず照れて逃げて避けた。


ー僕の人生は逃げてばっかりだ……いや、逃げてすらいない、目を背けているだけ。


僕が避け始めるとその子はもう僕に話しかけてこなくなった。もう視線すら合わない。

夢のような七色の日々が終わり、教室からその子の声が聞こえるだけで後ろめたさすら感じてしまう…僕はついに一人ぼっちになった。


知らず知らずのうちに僕がその子にどれだけ救われていたのか身をもって知ることになった。

けれども悲劇はまだ終わらない。


忘れもしない小学校5年生の冬休み。

家のリビングで"冬休みの宿題"とポップな文字で印刷されたプリントを進めている時に母さんが僕に言った、トドメを刺すような言葉。


「〇〇さん、亡くなったらしいわよ」


ブツン、と"何か"が途切れるような音がした。

頼みの綱か、張り詰めていた神経か、ともかく大切な"何か"が 呆気なく切れた音だった。

その日から、その瞬間から僕の世界は感情(いろ)を失った。



その"何か"が途切れてから僕はずっと、シャボン玉の中にいるような感覚が続き 話しかけられてもどこか遠く聞こえる、空を見ても濁って見える。

そうして僕は失ってからようやく気が付いた。


それ程までに僕はあの子を大切に思っていたのだと、

これ程までに僕はあの子を愛していたのだと。


時が過ぎれば傷は癒えるし忘れもする。

けれど失ったものは戻らない。


ー僕が失ったものは余りにも大きく、かけがえのないものだった。もし、たった一度でも僕が勇気をだして言葉にすれば変わっただろうか…




ゆっくりと目を開ける。

毎朝見ているはずの天井が随分と鮮やかに見える。


「彼女に会いにいこう」


ポツリと呟く、誰にでもなく僕自身に言った。

何でか分からないけれど行かなければきっと後悔すると思った。起き上がると体も心も幾分か軽い。


そういや、傘は彼女の家に置きっ放しだったな…


走って走って走って、彼女の家に向かう。

全身ずぶ濡れで酷く情けない姿だ。


ーピンポーン


…待てど暮らせど返事はない。

玄関に向かうと何故か鍵が空いていて嫌な予感がした僕は家に上がり、リビングで倒れている彼女を見つけた。


「おい!大丈夫か!?」


彼女を抱き上げると 彼女の体はとても軽く、細く何だか消えてしまいそうで少し恐ろしく感じた。

彼女はゆっくりと目を覚まし、弱々しく微笑む。


「今日は随分と遅かったね、ご飯冷めちゃったよ」


チラリとテーブルを見ると僕の為に作ったであろうご飯が並べられていた。

また涙が溢れ出るが僕は構わず話す。


「君が死んだら僕はまた1人になるじゃないか」


もうこれ以上、大切な人を失いたくない。

今度こそ僕は悲しみに耐えられない。


「君の心のどこかで私が生きているなら、生きる為に死ぬのなら、多分それって生きてるのと同じくらい価値があるんだよ」


「そんなの…」


僕の言葉が途切れる。

彼女が体を起こし、唇が重なった。

つう、と涙が彼女の頬を伝う。

彼女も泣いていた。


「君が嬉しいと私も嬉しい、君が悲しいと私も悲しい。君が心に描いた絵を私にも魅せて」


「色をくれたのは君だよ」


僕は一呼吸おいてずっと言えなかった言葉を言った。


「ずっと、ずっと愛してる。今までも、これからも」



これは僕と彼女の彩りに満ちた後悔と懺悔の物語だ。

泡沫の様に儚く、花火よりも切なく、太陽よりも眩しい"僕達"の想い出。


瞳を閉じれば今でも鮮明に思い出せる。決して色褪せない景色がそこに映し出される。

最後まで読んでくださり本当にありがとうございます


いやー、描き始めた頃は始終悲しい話になる予定だったのですが随分と方向が変わりました( ̄▽ ̄;)

彼女が何者なのかってのはいくつかパターンがあると思いますが多分どれも正解です。


さて、今回は"後悔と言葉"というテーマで書いてみました。

私自身、余り自分の意見は言えない方で周囲に合わせてしまいがちです。自分の気持ちも多分5割程しか喋らない気がします。時として周りに合わせることが大切なこともありますが、それ以上に自分の考えを人に伝えるのは大切だな。と私は思います。


だから、閉じこもって感情の出さない"僕" と

感情を素直に表す"彼女"の物語にしてみました。

登場キャラが少ないので区別する必要もなかった為、名前は全く考えてないです…

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