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桐島記憶堂 〜お代はあなたの記憶から〜  作者: ぽた
第3章 秋の夜長
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29.本当は…?

 稚内空港から少し移動して、直ぐにフェリーに乗って礼文島へ。

 これといった何かもなく、順当に目的地へと辿りついた。


「島、というからどんなところかと思っていましたけれど――随分と大きな所ですね」


 そんな感想を漏らしたのは、僕の隣を歩く桐島さんだ。

 楽しそうに、あちらこちらへと視線をやっては微笑んでいる。


 拒絶、ないしはつまらない、なんてことも無さそうでほっとした。


 更にその隣では、大輔さんと小夜子さん、修二さんも――


(……ん?)


 待て、これはおかしい。非常におかしいぞ。

 僕はどうして、あんなに必死になって本を漁り、岸姉妹を頼り、葵に元気を貰って、ここにいるのだろう。

 とてもおかしな話ではないか。


 そも、僕が受けた依頼の内容は何だ?

 修二さんが言っていたな。つきましては、葵と共に、もう一度写真の場所へ、と。そしてその為に、あの写真に写っている場所がどこなのかを突き止めて欲しいと。

 その口ぶりだと、当初の予定では、兄妹で行く筈ではなかったのだろうか。

 しかしこうして、ご両親までついてきている。


 写真の場所について尋ねたのが僕だった理由は、修二さんが桐島さんには尋ねられないからだった。

 ではなぜ、尋ねられなかったのか。桐島さんが、家出をしている状況下にあるからだ。

 そして家出をした理由は、両親及び修二さんとの仲違い。結果的には勘違いだった訳だけれど、当時真剣にそう思っていたのはもう分かっている。

 それならと、僕は修二さんの依頼を請け、色んな力を借りて場所を突き止めた。突き止めて、仲直りして、元通りになったからこうしてご両親も同席している。


 それが、おかしいのだ。


 いくら幼少の頃の写真と言えども、その頃ご両親は良い大人だ。こんな珍しい場所、そうそう記憶から抜け落ちよう筈もない。

 どうして修二さんは、ご両親に尋ねなかったのだろう。この写真の場所なんだけどさ、と、そう聞けば済んだ話ではなかろうか。


(何か……何かが気持ち悪い)


 煮え切らない。

 ここまで来てちゃんとした答えがないのは、居心地が悪い。


 スマホを取り出し、要点だけを纏めたメモを残し、


「修二さん、ちょっとスマホの操作で分からないことがあって」


「あぁ、今そっちに――」


 疑いなく従い、僕の少し離れた所から僕のほうへと寄って来た。


「ここなんですけれど……」


 そう言って、自然な流れで画面を見せると、修二さんは少し目を見開いた。

 何を見せられるのかも疑っていなかったらしい。


《ご両親への確認は不要でしたか?》


 それだけ書いたスマホの画面。

 修二さんは「あぁ、これはね」と演技を続けて文字を打ち込み始めた。


《穴がありましたか》


《穴しかない、が正解ですかね。今思えば、随分とおかしい》


《えぇ、たしかに。しかし、どうか堪えて。後からちゃんと、全部話しますから》


《理由は?》


《藍の前では、話しにくいことだからです》


 ふむ。

 また随分と都合的な話ではあるけれど。


「なるほど――ありがとうございます」


「いえ。また何かあれば」


 そう言い残して、修二さんはまたご両親の隣へ。

 すると、入れ替わるように桐島さんが顔を覗いて来た。


「何か?」


「いいえ。何の話をしていたのかな、と気になってなんかいません」


「それはもう宣言していますよ。別に何も、というのが僕の返答です。ちょっとスマホが誤作動を」


「田舎者さんでしたのもね、神前さんは」


 そう、桐島さんは微笑んで流してくれた。

 どうせ、分かっているくせに。


 今の僕は、灰色の筈だから。


「さて、まずは如何いたしましょう?」


 小夜子さんが明るく尋ねた。

 その声に、皆が一斉に考え込む。


 修二さんに見せて貰ったあの写真の場所は、ここから随分と遠い所にあるから後回しにするとして。

 ではキーワードとして余っているのは、ウニだ。


 丁度、少し前にその店も見える。


「ウニ――いいですね。そういえば、小腹も空いています」


「腹ごしらえとしようか」


「ですね。行きましょうか、皆さん」


 ご両親が先行し、僕らは後から着いていく。


 すると、前を歩いていた桐島さんが、少しペースを落としてまだ僕に並んだ。


「北海道は稚内よりこっち側、利尻、礼文に多く存在する、変わった“セミ”がいるそうですね」


「き、気付いていたんですか…!」


「神前さんは、あんな面倒な褒め方をする人ではありませんから」


「うぅ……一矢報いる機会はお預けですか」


「あら、そんなことは。反抗期を迎えた子どものようで、ちょっと楽しんでいましたから」


「なんて人だ……」


 肩を落とす他ない。

 そんな言い分に対しても、割と頭を使ったつもりだった挑戦状を、あっさりと躱されたことに対しても。


 やはり、僕ではまだ全然届かない。

 とはいえ、我ながら稚拙なものではあるのだけれど。


――ここは、気さくな店ですから――


 きさくなみせ。


 逆さから読めば、せみなくさき

 セミ鳴く先。


 今思えば、ただヒントを与えていただけだったのかも知れないな。


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