34.いざ、大学へ
紗江さんとの予定を終え、三人で軽く昼食を摂った後で帰宅し、しばらくしてから帰って来た葵の表情たるや、それはそれは晴れやかなものであった。
何でも、ともすれば見返す必要がないくらいに確かな手応えがあったらしく、勝ちを確信して帰って来たのだとか。
これで落ちてもらっていては、家庭教師なぞを請け負った僕以上に、彼女自身が傷つきさえするな。
そんなことを思いながら、その日は少しばかり豪華な夕食を摂った。
合格発表の日まで、僕は気が気でなかった。
たまに息抜きにと出かけた葵との夕餉の席では、終始心配そうにそわそわとしている姿をずっと見ていたからだ。
あれたけの自信を語っておいても、やはりその時が近付けば、不安にも臆病にもなろう。
本当に気が気でないのは、言わずもがな葵本人なのだから。
と、そんなことを語ってみても、藍子さんの反応は変わらず「心配いりませんよ」の一点張りだった。
そこにどんな理があり根拠があるのかと…。
見え隠れする”色”でもあるのだろうか。
さて。
日が経ち時間が過ぎ、月も超えれば。
いよいよと葵の合格発表の日がやってきた。
待ちわびていながらも、どこか萎縮していた所為で、経過の体感は速いような遅いような、よく分からない感覚だった。
制服、その上からコートとマフラーを着込み、頬を思い切り叩いて玄関に立つ葵。
後ろからそれを笑う遥さん、そして僕と三人連れ立って、一行は大学を目指し高宮家を出た。
あと一時間程後には、葵の将来、そして諸々の計画の是非——あらゆる選択肢に直接左右する数字が嫌でも目に入る。
緊張しっぱなしでガチガチな葵の肩にそっと手を置いて、一度止まった歩みの再開を促す。
大丈夫。
そう小さく呟くと、葵は淡く笑って一歩踏み出した。