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桐島記憶堂 〜お代はあなたの記憶から〜  作者: ぽた
第4章 一人だけの演奏会
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30.知ってたよ

 近くまで歩いて出てくると、葵は僕の隣の席に紗江さんと向かい合う形で腰を下ろした。


 互いに視線が交錯すると、紗江さんは咄嗟に視線を逸らしたが、葵は——


「久しぶり、紗江お姉ちゃん」


 そう言い放った。

 言ったのだ、葵が。


 笑顔で。


 何を思ってか、何を思っていたのか、葵は笑って紗江さんに向かい合っている。

 紗江さんの曇った表情を更に濃くさせるに至るほどに、優しい笑顔でだ。


「葵ちゃん…」


 紗江さんは言葉が追いつかない。

 感情とそれに伴う想像、そして現実とのギャップが生じているのだろう。

 そうして詰まり、再び逸らされた視線だったが、間髪入れない葵の声掛けによって、それもすぐに戻されてしまう。


「何から話そうかな。うん、やっぱり本題からかな。勉強もあるから、そんなに時間も取れないから」


「え、えぇ…」


 何を告げられるのかと恐れ、やはり目には力がない。

 ただそれすらも、葵の言葉一つで変えさせられてしまう。


「まず一つ。私、京都に行ったことは覚えてるよ」


「え……?」


 絶句。

 声にならない声——ともすればただの音のような聞き返しで以って反応した。


 ただそれでも。

 それでも意を決して、紗江さんは葵に向き直った。

 俯きかけていた視線を上げて、意識を正しく持って、長年抱き続けていた感情を、そのままに吐露していく。


 しかし。

 そんな言葉さえも。


「葵ちゃん…私……私は——!」


「分かってるよ」


 たったの一言、それだけを葵が告げただけで、紗江さんは再び言葉を失った。

 いや——続く葵の言葉が、あまりに衝撃的だったからだ。


「私が知ってたって言うのは、それを私がおじいちゃんに頼んだからだよ」


「え……?」


 葵が何を言っているのか分からない様子。

 それもそうだ。


 当事者でない僕も、分からない。


 紗江さんの話では、葵にバレないようにと——紗江さんと葵の双方を思っての行動だった筈なのだが、これは一体。

 紗江さんが僕に語ったことは、恐らく本当だろう。いや、本当の筈だ。

 それを偽って、作り話をでっち上げたところで、誰にも一つも益はない。

 嘘を言っていない道理だ。


 ならば。

 葵の言っていることが嘘…?

 紗江さんを気遣って——いや、それはないか。

 人の心が分からない葵でもなければ、嘘を好むような葵でもない。


 然らば。


「葵ちゃん、説明を」


「うん」


 藍子さんも何かを知っているらしいな。


 葵は藍子さんの言葉に頷くと、紗江さんの目を真っ直ぐに見据えた。


「お父さんとお母さんが亡くなった日——あの日私、紗江お姉ちゃんの電話を聞いてたの」


「電話を…!?」


「うん。会話と”事故”っていう流れで、紗江お姉ちゃんの性格なら、まず間違いなく自分を責めるんだろうなって、幼心に思ってね。それで、お姉ちゃんにはしばらく高宮家を離れて貰おうって。ごめんね、良い言い方が思い浮かばないからこんな言い方しか出来ないけど……時間が必要なんじゃないかって」


「そ、んな…」

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