9 惨敗
馬車に揺られ三時間程過ぎた。
寝起きの目を擦りながらスグルは風景を眺めている。
「あと一時間弱で着くからな」
そう言ったのはこの馬車の運転手である。
短髪で赤髪だ。
身体は大きくがっしりしている。
名前はバンと言うらしい。
馬車に乗って得られた情報は今んとここのくらいだ。
スグル達が警戒しているのと同じくらいバンもスグル達を警戒していた。
「何警戒してんのよ」
レーヌが眉を細めスグルを見て言った。
「しないわけにもいかないだろ」
「ホント心配性ね」
バンと名乗る男の能力がわかるまでは油断はできない、とスグルは思っていた。
「まずいわ」
アンがつぶやいた。
「やばいどころじゃないですよ」
コロンも言う。
「どうしたんだ?」
ごくり・・・・・・スグルは恐る恐る聞いた。
「あの丘の向こう側から30人ほどかなりのスピードで近づいてきているわ」
「話の内容からして闇ギルドの者ですね」
コロンの耳の良さとアンの感知能力のありがたさを思い知らされた。
「バンさん逃げ切れますか?」
「厳しいかもしれねー!」
流石に少し焦り気味の口調だった。
「戦闘準備だな」
「りょーかい」
レーヌは戦闘慣れしているようだ。
前いた世界でもこういうことは珍しくなかったのだろうとスグルは思った。
ドドドドドドドドド!!
「ヒャッハー!!」
意味もない奇声を発してやってきた。
首が長く、足が二本ある生き物に一人一匹で全員乗っている。
ダチョウ?スグルは思ったが普通のダチョウの二倍以上の大きさはあった。
「くそっ」
スグルは悔しそうに吐き出した。
馬車の周りをいつの間にか包囲されてしまったのだ。
レーヌは攻撃しようとはしているがさすがに30人相手で慎重になっているようだ。
「ピー助、炎爆」
バンがつぶやいてすぐ炎が馬車の前の方から飛び出した。
ゴゴゴゴゴゴ!!
地面を抉りながら闇ギルドの奴らに向かって放たれていく。
ぐああああああ!!あついいいい!!
あっという間に相手の人数が三人になっていた。
ダチョウみたいな生き物は逃げてしまったらしい。
火傷した奴らは氷や水の魔法が使える奴のところに集まっていた。
「おいおい。やってくれたな~」
無傷の男が言った。
「俺このギルドの長ベラハートだ」
「お前らの目的はなんなんだ!?」
スグルは聞いた。
「この世界を滅茶苦茶にすることさ」
ブチッ!!!!!
スグルは怒りの限界に達した。
手を振り上げた。
風が集まってくる。
巨大な空気玉を作り上げた。
「すごいな・・・・・・だが、無駄がありすぎだ」
さっきまでいたはずのところにベラハートはおらずすでにスグルの目の前に現れた。
ドゴッ!!
「グッ・・・・・・何をした」
スグルはあまりの痛さに跪く。
「くくくく、弱いな。お前に興味はない」
さっきと同じ攻撃を受けスグルは十メートルほど飛ばされた。
ザザーーー!
立ち上がれないほどのダメージだった。
「すぐるっ!!」
「大丈夫?」
アンとレーヌが駆け寄ってきた。
「しんぱ・・・い・・・ない・・・コロン・・・は?」
「バンが守ってくれているわ」
見るとバンは残りの二人の敵と戦っていた。
コロンを守りながら。
「惨めだな~男のくせによ」
スグルは俯く。
「女にも守られてよ、お前は一生大切な人を守ることなんてできねーよ」
メンタルが崩壊する寸前アンが言い放つ。
「そんなことはないわ!人は失敗して成長するものなの、スグルはまだ成長過程、馬鹿にしないで!」
戦闘態勢なのだろう、耳と尻尾も毛が逆立っている。
スグルはなぜか嬉しくて泣いていた。
見捨てられなかったことに感動しているのだ。
「後悔するなよ」
ベラハートは不気味に笑った。