３ 大切な人
俺とアンは夕飯を作りながらこの世界について話した。
「アンはどうしてこの世界に来ることにしたの？」
アンがさん付けと敬語はやめてくれっていうから呼び捨てで呼ぶことにした。
「そうね、私は独り身だったから断る理由がなかったのよ」
アンは少し寂しそうな顔をして言った。
「ごめん・・・・・・」
「あら、謝ることじゃないわよっ！」
俺は背中を尻尾で叩かれた。
「そろそろ、完成ね」
違う世界にもカレーは存在するようだ。
名前は違うらしいがカレーだ。どう見てもカレーだ。
カチャ・・・
隣の部屋とのドアがゆっくり開いた。
治療の後、眠っていた女の子が起きてきたようだ。
「ありがとう」
ドアから顔を半分出してそう言った。
声は小さかったがほんとに感謝してるんだなっていう「ありがとう」だった。
アンが恥ずかしそうにしている女の子を迎えに行った。
「名前なんていうの？」
「レーヌ」
「私はアン。で、こっちの君をここに運んできたのがスグル」
俺も近くに行って挨拶しようとしたとき油断して机に脚の小指をぶつけてしまった。
さらに、手にもっていたカレーを二人にぶちまけてしまった。
「スーーグーールーー！！」
「ご、ごめんってば！痛い！いででででで！」
アンに頭ぐりぐりの刑を受けた。
「ふふふ」
俺とアンはその声を聞き逃さなかった。
二人同時にレーヌの方を向いた。
その時の二人の顔がそうとう間抜けな顔だったのかわからないけど、レーヌのツボにはまったらしい。
「ふふふふ、ふぁっ！」
俺とアンもその瞬間に笑い出した。
「ははははは」
「くくくくく」
「ふふふふふ」
「よし、レーヌ！汚れちったし一緒に風呂入ろ」
一通り笑いが収まったところでアンが言った。
レーヌが答えようとした時にはすでにアンはレーヌを持ち上げて風呂場に向かっていた。
「おい、スグル！そこ綺麗にしといてよ」
「へいへい」
俺は掃除を始めた。
「おおお！レーヌ綺麗な身体してるな！」
「いや、そんな」
「胸は私より全然小さいけど形いいし、色も綺麗だ」
「あ、やっ！くすぐったい」
バシャバシャ
「あいつら・・・・・・」
男だから当たり前のように身体が反応する。
しばらくそんなやり取りが継続された。
生まれてから女という生き物とあまり関わってこなかったためスグルには刺激が強すぎた。
「いやーいい風呂だったー」
しばらくしてアンとレーヌが風呂から上がってきた。
スグルはやり取りをずっと聞かせられたので疲労していた。
いや、レーヌをなんか疲れているように見える。
「さ、気を取り直して夕飯食べよ」
「「「いただきます！」」」
スグルはゆっくりとスプーンでカレーを口に運んで行った。
まだ、自分が作ったカレーしか食べたことがなかったからだ。
ぱくっ！
スグルは「おいしい」と心の中で呟いたとき隣からその言葉が聞こえてきた。
レーヌだ。
驚いたことに目に涙を浮かべている。
「どうした？」
アンが正面から優しく聞く。
「嬉しくて。楽しくて・・・・・・こんなの初めてだから」
「そっか」
アンは深くは聞かなかった。
これが大人のやさしさなんだとスグルは感じた。
夕飯を食べ終わり落ち着いたところで再びトークタイムが始まった。
ちなみにレーヌは種族を教えてくれなかった。
レーヌは第３期にこの世界に来たらしい。
「そのうちわかるから」
そう言われた。
だからスグルも深くは聞かなかった。
「そういえばここ来る前に能力１つ与えられるって話されたけどあれは本当？」
スグルはずっと疑問に思っていたことを聞いた。
「ええ」
「使う？」
こんなに平和に感じるのに使うのかが疑問だったのだ。
「すぐわかると思うわ」
レーヌが言った。
確かにあの傷だらけの姿を見たから説得力はある。
「よっし！暗い話になってきそうだから今日はもう寝よう」
その夜毛布にくるまりながら考えた。考えなければならないことがたくさんありすぎて眠れなかった。
スグルは静かに外に出た。
綺麗な夜空を見てスグルはごちゃごちゃ考えるのを止めた。
そして、一つだけ心に決めた。
何があっても大切な人を守り抜こうと。
未だに魔法・能力共に登場せず。
次話出てきます。
