8.そして悪人は目を覚ます
目の前で悶える美少女に、発情した顔を隠そうともせず、ヨウユウ辺境伯はのしかかった。
「守備隊はハナっから捨て札よ。こんな実験をするのだ。<転生者>を見たものを生かしておく道理はないからな。奴らはまた金で買えばいい」
抵抗しようとするアケノの身体を自身の肉壁で封じ、華奢な少女の両手を上に持ち上げた。
「だがまあ、お主の供回りを殺す必要は、なかったかもなあ!?」
そのまま両手をベッドのボロ布で縛り上げ、片手で押さえつけながら、もう片方で仰向けにされた少女の衣服の結び目を乱暴に解いた。礼服は元は一枚絹布を織り込んだ作りであり、つられるようにほかの部分も解けていく。
白磁より白い肢体が露わにされた。絶望と羞恥で顔が歪む。
「そうだ! その顔が見たかった! お主のような清廉な花を汚すのは、薄汚い地下の牢獄と決めていた! 絶望と屈辱にまみれた顔で! 必死の抵抗も及ばず! その花を散らせぇ!」
悔しさと絶望と、段々と心を占めていく諦観。自分は仲間も守れず、こんな下種にいいように手籠めにされて、おめおめと生き延びろというのか。
だがその諦観も、下腹部に感じた熱を持った何かを擦り付けられ、吹き飛んでしまった。もはや何の力も残っていない少女は―――
「いやだ…いやだ…いやあぁぁぁぁ!」
「ジャーナリストが正義の味方を気取るなよ―――」
うるさいな先生、性分なんだ放っておいてくれ、と誰かが拗ねた。
「だって、火事の現場でお前は職務放棄して子供助けて? 表向きは感謝状、裏ではスクープ逃がしの罪でモザンビーク支局へ左遷だろ? 馬鹿じゃん」
だからなんでか知らんが体が動いたんだよ。悲鳴が聞こえたんだ。俺しか助けられない、そう思ったからさ、と誰かが呟いた。
「そいつを助けて何になるの? お前の仕事は何なの? マスコミなんて敵しか生まないよ。みんながお前のことを嫌うんだから。そのうち助けたやつに裏切られるよ」
それはその時だ。裏切られたら逃げればいい。でも俺は、誰かが泣いてるときに、手が届くくせに助けに行けない人生は嫌なんだ、と誰かが誇らしげに話した。
「お前、記者に向いてねえわ。でもまあ、それが出来るなら、最後までやり抜けばいいさ。モザンビーク土産、楽しみにしてっから」
ありがとう先生。俺、行かなきゃ。
「おう、そのお節介、貫き通せよ――――」
アケノは絶望の叫びの中で、隣の牢獄の壁を破壊し、身を乗り出す正義の味方を見た。
次回投稿 8月24日 18:00