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4.そして少女と悪人は邂逅する

夕刻の金鐘が鳴った時には、全員が遅れず城門前に到着していた。


その後、彼らは<転生者>が住まうとされる場所へ向かった。城門前から約10里にある郊外の草原、日が沈む前には到着できる計算である。


装備は正規部隊こそ支給される統一式だが、カミガワの部隊は倉庫から調達した有り合わせの装備であった。


守備隊長の合図で、カミガワの部隊8人が箱状になっている施設の一部を取り壊していく。


(しかし御屋形様、我らだけではなく部隊全員の主武装が森マナ型の催眠狩猟銃とは……。本気で<転生者>を捕らえるつもりなのでしょうか)


(わからん……。だが用心してかかる他なかろうよ。<転びたて>と言ったところで、その身体能力と言語汚染だけで、我々が束になっても敵う相手ではない)


そうこうしているうちに、切り崩していた壁の一角を崩すことに成功した。


ミーティング時の守備隊長の読み通り、部屋に罠<トラップ>も迷宮<ラビリンス>もなかった。崩した瞬間に部屋の中から見えたのは、<転生者>らしき人影がひとつ。


「―――!!」


中の人影が何かを話そうとし、部隊に緊張が走る。


<転生者>による言語汚染はある程度解明しつつある、と言われているが、何がキーワードで、どんな効果が起こるか、予測不明な部分もある。


―――我々はわずか8人。一人でも奴に操られるわけにはいかない―――


「やはりここにいたか!」


「奴は<転生者>だ! 気を付けろ!」


血気に逸った一人が、森マナ型催眠狩猟銃で<転生者>を狙い撃った……はずだった。


完全に相手の虚を突いたマナ銃弾は、やはり超人的な身体能力をもって回避された。


「流石に<転生者>か、そう簡単にはやらせてくれん」


殿にいた一人が呟いた。この8人部隊の指揮官であり、皆から『御屋形様』と慕われる少女ではあったが、<転生者>との戦闘はこれが初めてであった。


(あのタイミングで回避、距離を取られた……! だがここで止まっては―――)


一瞬、攻撃が止んだそのときを、<転生者>は見逃さなかった。


「―――――――――!トマレ!」


言語汚染。<転生者>のみが持つ能力の一つ。対象の言語を耳にした者は、その言語に肉体を支配される。カミガワの部隊8人の肉体はその活動を拒絶させられた。


「こいつ―――『トマレ』を使いこなすのか!」


多くの<転生者>が使いこなす、トマレ、クルナ、ヤメロの言語汚染3種は、四肢の拘束が主たる効果である。


(そう知識で知ってはいたが、まさかここまでの即効性を持つとは……!)


少女は己の未熟さに歯噛みした。何が指揮官だ。たった一言で8人まとめて拘束された。これではただ死を待つばかりではないか……


しかし、<転生者>はそこから追い打ちをかけず


「―――!」


また何言か話し、彼らの拘束を解いた。


(我らは『戦うに値しない』と……!? ふざけた真似を―――!)


拘束が外れた瞬間、構えたままの催眠狩猟銃にマナを有りっ丈込めて撃ちはなった。それでも<転生者>は壁を使い3次元回避運動を行う。


そのまま壊した壁へと逃走を図る。


(逃がすわけには……!)


目前に迫る敵に対し、少女は狩猟銃を投げ捨て、腰に差した大剣を大上段に構えた。


(ダメだ! 手傷を追わせれば手柄どころか懲罰ものになる……)


少女の剣を振り下ろすタイミングが一瞬遅れた。やはり<転生者>は見逃さなかった。


懐に潜り込み、振り下ろした腕の力を利用され、投げ飛ばされた。地面に叩きつけられ、大剣も兜も弾き飛ばされた。


息が苦しい、視界がゆがむ。だが少女は<転生者>の下肢を掴み


「逃がすわけにはいかん……<転生者>め!」


最期の力を振り絞って引き留めた。


呆けた顔をしていた<転生者>だが、少女の言葉で我に返ったらしく、掴まれた手を振り払い、出口に振りなおした瞬間。


守備隊長の合図で発射された拘束網によって捕らえることに成功した。


(やっぱ<転びたて>じゃねえか。驚異的なのは肉体だけ。言語汚染も使いこなせず自身のマナすら理解しちゃいない……)


やれやれといった表情で、守備隊長は<転生者>の前に出て、催眠狩猟銃を発射する。


「よし、てめぇら引き上げだ! 帰ったらヨウユウ辺境伯から褒美が出るぞ!」


うおぉぉぉ! という勝鬨の中、守備隊長は、部屋の中で今も痛みにうずくまる少女に向かい


「足止めご苦労。だが逃げられたのは処罰対象だな。まあ今回は大目に見てやるわ。感謝しろよ猿ゥ!」


と高笑いした。

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