11.そして少女と悪人は旅に出る
死体の残骸を供養する時間はあるかと思っていたが、意外にも、行くそぶりを見せたのかアケノと名乗った少女であった。
両手には仲間の遺品と思わしきドッグタグに似た金属片。さりげなく書かれた文字を見てみたが、やはり解読は不可能だった。
アケノを背中に抱えて、白み始めた空を駆ける。ここに来た時と同じように、何も言わず指差しで方向の案内を頼み、城壁を乗り越えると、眼前に広大な海が見えた。
そのまま海岸沿いを太陽を左手に見ながら進む。
(この世界が地球と同じなら、俺たちは南に進んでいる、ってことなんだが、尋ねる手段がないな)
どこへ行くつもりなのか、これから何をするのか、分からないことが多すぎた。
背中をポンポン、と叩かれた。降りたいという合図だろう。
浜辺でアケノを降ろすと、彼女は先ほど部屋で拾った金属片数枚を海に向かって放り投げた。
そのまま両手を組んで祈りを捧げていた。そしてコーイチは気付いた。
(もう、この子には頼るものがいなくなってしまったのだ)
頼る者のいない辛さは、この世界に来る前にも味わったことがある。言語も文化も宗教も、生活様式すべてが異なるモザンビークで、俺は最初何をしてもらったか。
祈りを終えたアケノの前に、コーイチは跪き、その小さく白く美しい手に口づけをした。
(こちらに敵意がないことを示すこと、そして通じなくてもボディランゲージでもいいから、自分の意見を伝えること―――)
「俺は、お前と一緒にいるから」
目線を合わせ、指で互いを差し合った。
その瞬間、アケノの瞳から大粒の涙がこぼれ、コーイチに抱きついて来た。
(そうだよな。俺もそうだった)
確証はないが、きっと伝わったのだろうと、コーイチは少女の頭をやさしく撫でながら、そう思った。
ありがとうございました。