324日目
そこは湯気に包まれた空間だった。
石鹸の泡がふよふよと飛び、リズミカルな鼻歌が流れている。
髪をアップにした弓張月と、その体の上で抱かれているアテナのふたりは、バスタブの中で湯につかっていた。
例によって二人の体は装甲が張り付いているので見えたらまずい部分は見えないが。
元は普通の船室であるそこは、床にはシートがひかれ、その上にバスタブが置かれる事で即席の風呂場になっていた。
アテナ復活祝いに、奮発してお風呂を沸かしたのだ。
「はぁ~気持ちいいなあ」
『そうだね、アテナ』
弓張月はアテナの体をなでなで。
アテナもトロン、とした目でいる。
「覚えてる?弓張月」
『何を?』
「初めて二人でお風呂に入った時のこと」
『あの時か……』
あの氷の衛星で「やっほー!」と叫んだこと。電離層で跳ね返った「やっほー!」の電波が後ろから戻ってきたこと。氷原をレーザーで溶かして風呂にしたこと。
全てが懐かしい。
「信じられる?まだ1年経ってないのよね……」
『そうか。まだそれくらいなのか』
「なのに、私は死んじゃって弓張月は妊婦になって私は生まれて……」
『それだけだとわけわからないよね……ボク、たぶん宇宙初の出産した宇宙戦艦だよ。最近育児ママ専門になっちゃってるけど』
弓張月の指が、アテナの大切な部分をそっと撫でる。
それはかつて、アテナが弓張月へしたことそのままだ。
「育児、か……」
『早く育ってね、アテナ……』
「うん。でね。弓張月……私、大人になったらやりたいこと、あるの……」
『なんだい?』
「私ね。弓張月の、赤ちゃんを、産んであげたいの……」
弓張月は驚かなかった。
『ボクも……君に、赤ちゃん産んでほしい……』
2人は湯船の中で向かい合う。
『だから……だから、結婚、してください……』
「……お受けします……」
2人の破壊兵器は、唇を重ねた。
324日目終了。




