322日目
ごく。
弓張月は、息をのんで―――宇宙戦艦は肺がないのであくまでも比喩表現―――目の前の計器を見つめた。
それは身体の状態を知るための極めて重要な―――特に女性には生命に匹敵する結果を教えてくれる機器。
体重計であった。
『減ってる……』
世の女性が体重の減少を知れば喜ぶものだが、勝手に最適なプロポーションを維持できる宇宙戦艦にとってはそんなものは割とどうでもいい。そもそも常人より比重が重いし。
それよりも問題なのは、減っている―――すなわち体が削れつつあるという点。
弓張月はアテナへ滋養を与えるために、自らの乳房を母乳が出せるよう改造した。
あ、ちなみに常人が飲むと死にます。万一宇宙戦艦のおっぱいを吸う機会があったとしても気を付けましょう。
閑話休題。
アテナはおっぱいを吸ってすくすくと成長した。
今では幼稚園年長組くらいまでにはなったか。
だが、それだけの質量がどこから出て来たか―――と言うと弓張月の肉体である。
質量保存の法則は宇宙戦艦も覆せない。
食べては―――岩石質を摂取してはいる。
だがそれ以上にアテナへ与える量が多い。
そろそろ限界であった。
彼女には乳離れしてもらわなければならない。というかあんだけ成長すれば岩石から作ったブロック食品も食べれるよね!?
いい加減ボクのおっぱいから卒業してよアテナ!
―――産後鬱かもしれない。これはいけない。
『よし。おっぱいを削ろう』
減った分はどこかで補わねばならない。とりあえず応急処置で削られる場所は決まった!
というわけで美少女のおっぱいにむしゃぶりつく中身美少女の幼女を拝めるのはこれが最後のようだ。
「やー」
『やーと言われてもね、アテナ。これ食べてくれないかな……』
「おっぱい」
『うーん』
「だーめ?」
『ちょっとね。そろそろこっちを食べてくれないと困る…かなって』
器に入っているのは、ドロドロのペースト状になった謎の物体。
宇宙戦艦用の食事をなんとか柔らかくしたものだった。弓張月苦心の一品である。
『……やっぱりまずそうかなあ……』
これは困った。
悩む。これは悩む弓張月。
『そうだ。これならどう?』
そう言うと、弓張月はペーストを一口、口へと含んだ。
『ほーら、ボクの口からなら』
口がふさがってるがレーザー通信なので問題なくしゃべる少女。便利だなレーザー。
「まんま、おくち?」
『そうそう』
「ちゅー?」
『ちゅーしよっか』
「ちゅー!!(興奮」
二つの唇が一つに重なり合う。
弓張月の口内から、命の糧がアテナへと流れ込んだ。
嚥下する音だけが室内に響く。
アテナは舌で、相手の口の中を舐めとる。そりゃもう綺麗に。執拗なまでに。
『あ、アテナ……まだあるからね』
引き離されると残念そうな顔をする美幼女。
「もっと、もっとちゅー」
『はーい。よっぽど気に入ったのかな』
本日も平和だった。
322日目終了。




