214日目午後
アテナのストレージからデータを掘りだすための作業は、掃除というよりドボクであった。いやサルベージだ。
重機アイコンで腐海をそこから浚っては選び出す作業である。
いや、これひょっとして侵入対策じゃねーの?
というレベルの混沌ぶり。
これならデータ泥棒が入り込んでも何も持ち帰れない!
高能力知能機械でもある宇宙戦艦でさえこの有様である。
一般のデータ泥棒ごときでは手も足も出まい。(実際この仮説は正しい)
無駄に青々としているデスクトップ壁紙が忌々しい。
『ええい面倒だ!』
とうとう弓張月がキレた。
髪の毛をぷちぷちぷちっ、と引きちぎると、そこらに投げつける。
地面?に落ちた毛はその場でぶくぶくと膨張。
たちまちのうちに無数のミニ弓張月がそこらじゅうに生まれた。
本人のデータ構造を簡略化した分身である。
『さあいけっ!いくんだボクたち!!』
ストームなトルーパーのように整列したミニ弓張月たちは、ザッ!ザッ!と軍靴の足音を立てつつ前進。前方を薙ぎ払うようにお片付けしつつ突き進む。
増えた弓張月のパワーは凄まじく、どんどんアテナの中が片付いていく。
認証鍵を持っているのでやりたい放題である。
このままストレージは蹂躙されてしまうのだろうか!
蹂躙されました(こなみ
数時間かけてなんとか整理が終わった。
弓張月が手にしているのはスクロール型のアイコンである。
中身は今となってはさほど戦略的価値はない設計図だ。
念の為中を確認、ダミーではないことを確かめると、弓張月はミニ弓張月の軍勢を労った。
『ご苦労様』
彼女が手を振ると、ミニ弓張月たちは消えて行く。
ハンカチを振ったりクラッカーを鳴らしたりしながらとやたら芸が細かい消え様であった。
五感を現実に戻す。
『……』
弓張月は、身を起こすと時計を確認。
それなりに時間が経過していた。
続いて自己診断開始。
こちらも数十秒で結果が出る。
肉体の改造が終了していた。
『……大丈夫、なのかな』
起き上がると、武装を展開。そしてまたしまう。
異常なし。
右腕に移した超光速チップ生成器官はどちらの形態でも正常だ。おかげで右腕だけは武装状態のフォルムのままだが。
出産機能も非武装状態・武装状態両方に組み込んだ。
もう後戻りはできない。
『ボクのお腹、子供を産むためだけの器官になったんだ……』
感慨深い。
傍らのアテナを見る。
未だに意識は戻らないが、小康状態を保っている。しばらくは命はあるだろう。そうすぐには死なないはずだ。
『待ってて。すぐに元気な体にしてあげるから』
214日目終了。




