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140日目

恒星間移民船に搭載されていた機械は、基本的にはメンテナンスを前提に設計されている。

なので、経年劣化で故障していても部品を交換する事で比較的容易に修理可能である。

それはニュートリノセンサーや重力波センサーと言った超大型で繊細なセンサー群も同様だった。(ちなみにこれらはデカいので宇宙戦艦には搭載できない)

むしろ繊細であるがゆえに修理が容易に作られている、と言っていいだろう。

動力を自由に使いたい放題となった外宇宙移民船マルコ・ポーロは、その工作室の機能をフル活用して修理部品の増産に取り掛かった。

作っては部品交換して試運転し、不具合がさらに見つかり、そこも部品交換して修復し……という事を繰り返し、センサーが1つ2つと復活。

こちらは数が多いのでかなり手こずった。

おまけに途中で工作室の機器が故障し、それを修理するのに(工作室の機器は自己を再生産できた。原材料から。素晴らしい!!)手間取ったり。

そして例によってアテナが叫び弓張月が苦労をねぎらう。

「終わったー!!」

『お疲れ様』

もはや何十回目か分からないほどに繰り返されたやり取りの末、巨船のセンサー群はほぼ往時の機能を取り戻していた。

何しろ全長1kmのバカでかい船である。

たった2人で修理するのがいかに大変か。

単一の構造体であるエンジンよりある意味厄介であった。

気が付けばもう、後1か月ほどで遭難から半年である。

祝杯を挙げたいところだが、また二日酔いはご免だ。

「どうしよ?」

『先に酩酊時用の体機能の挙動をプログラミングしといた方がいいんじゃないかな』

宇宙戦艦は生物であると同時に機械でもある。

僅かな造血用の臓物と眼球や一部神経系をのぞけば、生身の部分はほぼ均一である。その挙動を制御しているのは血液を構成するDNAコンピュータだ。

やろうと思えば彼女らは、自分の意志で自分の精神と肉体を改造できるのだ。

もちろんあんまり派手な事をして、後で取り返しがつかなくなっても困るが。

『しばらくは暇だからね。星系内へ飛ぶための観測は時間がかかるし』

「だねー。ま、お酒のために時間潰すのもありか。これぞ文化って感じするよね」

人類は古来よりアルコールのために血道を上げてきたが、まさか宇宙戦艦までそれを踏襲するなどと誰が想像しえたことだろうか。

とはいえ、弓張月の言うように修理は終わり。しばらく天体観測に集中せねばならないから、その間休息するくらいの贅沢は許されてもいいだろう。

それにしてもアレルギー反応を抑制できるというのは羨ましい限りである。筆者もその能力欲しい。

少女たちは、最後に復活したセンサーの機能を再開させた。

再開したセンサーは既に再稼働していたセンサー群とともに、航法コンピュータへとデータを発信し始める。

小質量の少女たちならともかく、巨大な船を位置エネルギー的に均衡させられるポイントを探すのは大変だ。他の天体の軌道に影響してしまう。少女たちが使える程度の均衡点からははみ出してしまうのだ。

空間に空くトンネルが小さすぎる、と考えればよい。

だから少女たちがこのポイントにやってきた時より、あの懐かしき連星へ戻るための天体観測にかかる時間は長い。

これが人類の領域であるならば、既存の観測データを丸々使用し、演算能力の支援も受ける事が出来るからさほど時間はかからない。

スタンドアロンだからこその悩みであった。光年単位の旅など不可能に近い。

少女たちも、武装状態のままごろん、と船体表面に寝転がる。

センサーの足しにはなるだろう。

体温が冷たい船体から流れ出て行って気持ちいい。

「んじゃ、始めるよ~」

『じゃあ繋ぐね』

互いの強化現実をより深い、体機能に関わる部分まで開放。

本来敵軍同士の2人にとって、これは第一級軍事機密を晒すのに等しい暴挙なのだが、どうせバレても味方に知らせる手段はない。なのでまったく問題はない。

帰還がかなえば怒られるかもしれないが。

(もしそれがかなうにしても)多分その頃には2人は兵器としては陳腐化しているだろう。ひょっとしたら、情報公開で公開された設計図が民間の書籍に載っているかもしれない。

―――もしそうなったら私たち、お婆ちゃんだね。

―――そうだね。お婆ちゃんになりたいね。

深いところで繋がり合ったアテナと弓張月は、心の奥底の想像まで共有し合いながらプログラミングを開始。

「あ、そこはこうした方がいいんじゃないかな」

『あれ、アテナ、そんな形式使ってたの?』

「古いからねえ、私の方が」

電子の指が、お互いの体の奥をつつき合う。

議論を挟み、データの構造体を作りながらお互いの情報を把握し合った。

二人はこの時想像もしていなかった。

これが死に際して命を繋ぐ一手になるとは。


140日目終了。

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