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2日目

というわけで二日目である。

え?丸一日何をやっていたかって?

『回復したかい?』

「なんとかね~。質量が足りないけど」

損傷部位の自己修復があらかたすんだアテナは手足をブンブンと振り回している。

とはいえ撃ち尽くしたミサイルを生成するには体重が足りていないし、血はさらに不足している。

弓張月もそれは同じだろう。

「補充したいけど、どうしたもんかしらね……」

直近の二つの惑星を交互に見ながら頭を捻るアテナ。

片やガスジャイアント。片や地表が存在しない上に500mの津波が常時周回している惑星。

水分を補充するのは後者の方が容易であろうが、彼女らの肉体の構成物質は水だけではない。

贅沢は言わない。珪素質の固体の地表が欲しい。

『う~ん。近くの小惑星まで行くという手もあるけど…』

移動には時間が少々かかるし、エネルギーも必要だ。エネルギーの重水素は足元に大量にある水でどうにでもなるが、浪費は避けたいところである。

「……あー」

波が来て、通り過ぎて行く。

巨大な波は海底を削り、平らに。海面の高さに起伏がある。

「波が通り過ぎた後の海面、浅いところはどれくらいかな」

『うん?……なるほど。ちょっと調べよう』

連星のラグランジュポイント―――2つの星の重力が釣り合った地点―――に張り付いていた2人は、スラスターをワンショット。

それぞれ微妙に異なる軌道をえらび、水の惑星の周囲を周回する。


十数時間後。

ひたすら惑星表面を走査する地道な作業を終え、ラグランジュポイントに戻って来た2人は難しい顔をして検討を始めた。

「予想より潮流が複雑ね……」

『でも、場所によってはほんの水深数十センチ。極端だねえ』

視界に表示された惑星図を前に二人は唸る。

強化現実である。ちなみにこういうところの規格は両軍同様。

「石油時代の映画でこういう惑星出てこなかったっけ…?」

『マット・デイモンの出てくる奴?リメイク版ならボクのライブラリにあるけど』

「おお、後で見せてね!」

なお弓張月が所持していたのは火星でファーマーな方だったのだがそこは余談。

念の為に言うとフォーマーではない。

さて。計画を練ると後は早い。

「んじゃあ確認するわよ?津波が通り過ぎたところを軌道上からレーザー砲撃で破砕、降下して適当なサイズの岩石を引っ掴んでここに戻ってくる」

『了解。岩石はボクら程頑丈じゃないから、注意してね』

「気を付けるわ。じゃあ構えて」

両者は背面から主砲を展開。

眼下の惑星へ向ける。

出力は抑え目に。

「じゃあここを砲撃するわ」

『分かった』

両者の視界に+マークが表示される。

火器管制システムは連動していないのでここからの照準は個別。

「さんーにーいちー」

『ファイア』

発砲。

弓張月の砲が水を弾き飛ばし、直後に撃ちこまれたアテナの砲が岩盤を爆裂させる。

十メートルにも満たない小さなクレーターができ、周辺に岩石が飛び散る。

「じゃあ収穫しますか」

降下。

 

空は青く太陽はさんさんと照り付ける。

にもかかわらずクッソ寒い。

さっき蒸発させた水分がダイヤモンドダストになって降り注いでいるくらいだ。

宇宙戦艦である彼女らは気にならないが、人間なら五分とたたずに凍死するのではないか。

「なんで凍らないんだろうねーここの海」

『…あ……潮汐力……ザッ』

「いやあんた電波使いなさいよ」

ダイヤモンドダストにレーザー通信が阻害されているらしい。

「そうするよ」

返ってきた声はアナログ通信だった。

「あらやだ。意外と美声」

人造人間は、個体ごとの通信波を、人間が声を識別するように認識しているという説がある。

そのため通信波に美醜を見出したりもする。

普通の人間には意外と理解されない事であるが。

「……だからやだったんだ」

弓張月は苦笑。

―――あ、この娘ちょっと好みかも―――

そんな事をうっかり思ってしまったアテナ。

「うわぁ……直球だなぁ」

ダダ漏れでした。

そういえばさっきから強化現実で回線つなぎっぱなしや!

頭を抱えたくても一抱えある岩石というデカい荷物のせいでそれが出来ないアテナ。

「ほらほら、ボクの声なら後で聞かせてあげるから、収穫確認してね?」

一生ネタにされそうな勢いである。

思わぬ不覚を取ったアテナであったが、弓張月の背後に迫るものを見てぎょっとした。

「ヤバイ、飛んで!」

自らも飛翔。

二つの機影が飛行機雲を作りながら飛び立った直後、巨大な波が押し寄せ、全てを浚っていった。

「……こんなに早く来るなんて」

『読み誤ってたね……助かったよ』

意外と惑星の海底地形は複雑なのだろう。それが影響して波の動きが予測しきれなかったのかもしれない。

「これでさっきのなしね!なし!」

『おや…なしでいいの?じゃあ声聞かせてあげないよ?』

むっきー!?

やっぱりこいつ休戦終わったらギッタンギッタンにしてやるんだから!?

それはそれとして声は聞かせてもらいました。

 

というわけでお食事タイムである。

「岩石食べるなんて訓練以来だわー」

『ボクも訓練以外じゃ初めてだねえ』

端っこを掴むとポキッ

「あっ」

力を入れ過ぎたのか破片が無重力の中飛び散っていく。

彼女らの生命形態は珪素生命という事になるのだろうか。

岩石を直接摂取する事で、体組織に必要な栄養分を取り込むことが彼女らは可能なように設計されていた。

問題は美味いとかマズイとかそういう事は二の次とされている事だ。

手で粉々にした岩石を、更に両手に挟んでゴシゴシとこすり、粉末状にまで押しつぶす。

アテナは意を決して

ぺろり。

岩の味がする。

当たり前だが。

『こりゃひどいね』

地球産宇宙戦艦の感想も同様だったらしい。

早急な改善が必要な問題がまた1個できた。

……じー

『どうしたの?』

「いや、戦艦って食べられるのかなあ?って」

『やだよ!?』

ちなみに構成物質は同じなので食べられる。

「冗談冗談。―――味を見るだけだから」

『ひゃっ!?』

アテナは獣のような動きで弓張月に組み付くと、ペロリ。

甘い(宇宙戦艦の味覚での話です)

若干の塩味は海水がまだ付着していたのだろう。

「おおっ!」

『やったな―――えいっ!』

弓張月がアテナの腋を舐め返す。

「やんっ!?」

甘酸っぱい味がした(繰り返すが宇宙戦艦の味覚での話です)

人類史上初めて、宇宙戦艦が甘いと実証された瞬間である。

数度の攻防の後。

『はぁ……お粗末様』

「あぁ~……」

なお舌戦は弓張月に軍配が上がった模様。(性的な意味ではない)

『けど……今思ったんだけどさ』

「何」

『口直しするだけなら自分の手でも舐めたらよかったんじゃ』

「はっ!?それは気づかなかったわ……」

結局その後は黙々と岩を食べた二人であった。


二日目終了

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