56日目
部品が足りない。
当初から予想はしていたが、やっぱり結構不足があった。
老朽化しているところもあり、かなりの交換が必要そうだ。
というわけで船内の工作室を訪れたアテナと弓張月の2人。
移民船の工作室だけあって立派な設備だ。3Dプリンターもある。それも石油時代に使われていたような時間がかかり制限のあるものではなく、電子部品だろうが積層装甲だろうが塗装済みアクションフィギュアだろうが自由自在に作れる凄い奴である。
問題は。
「電力どうしよう」
『まいったね……』
エンジンを直す部品を作るためには、機械類にエネルギーを供給せねばならない。だがそのエネルギーを得るためにはエンジンを直さなければならない。とんちか。
『ボクのと規格合うかな……』
「ほえ?」
唐突に髪の毛をかき上げ、背中のポートを開く弓張月。
そこにあったのは見覚えのあるものだ。
具体的にはコンセントが。
「…そんなのついてたの?」
『あれ、言ってなかった?本当はオプション武装用なんだけどね』
恐るべし日本製品。
さすがアテナより新型だけの事はある。
とりあえず点検を終えると。
ぷすっ
無事にコンセントと3Dプリンタは接続完了。
『うん、行けそうだ』
「よかった……じゃあ動かすね」
ぷすんぷすん
きゅ~
動き出したかと思ったらエラー。
一度電源を切り、3Dプリンタを開けてみると、材料供給パイプ部分が詰まっている。
長い間放置されていたせいらしい。
「あちゃ~」
『まあこうなるよね』
1つ問題を解決しようとしたら別の問題が新たに立ちふさがる。この繰り返しである。
清掃手順を思い出しながらパイプを取り外す2名。
「……これ、掃除は与圧前提よね?」
『交換した方が早いかな』
倉庫のあたりを付けて発掘作業が始まる。
「見て!エッチな本みつけたわ!!」
『……なんでこんなところにそんなものが……?』
まさか船員がこっそり隠していたものだとはお天道様にも見破れやしまい。遠いし。
「ふぁ~」
『おお……これは……』
別に誰に見つかるわけでもないのに部屋の隅に半座りになりながらエロ本をガン見している2人。
こっそりと捨ててあったエロ本を隠し読む小学生男子のような感じである。
残念ながらこの話は全年齢なのでエロ本の内容はとても口では説明できません!
……彼女らには性器も性欲もないが、背徳感を感じる事はできる。
それは高度な知的活動の結果であるからだ。
つまり彼女らは高度な精神活動を要するエロは可能であるという事の証左であった。本人たちが自覚しているかどうかはさておき。
多分人工知性や人造人間関連の科学者がいたら泣いて喜ぶサンプルではなかろうか。
数時間後。
「はっ!?こんな事してる場合じゃなかった!」
『そういえばパイプの替え……』
まあ時間は無限にあるのだが。
石油時代の神絵師がSNSを眺めていたら半日過ぎていたというのに似ている。
2人はそっとエロ本を元あった場所に収めると、改めてパイプ捜索に精を出した。
結局パイプ捜索だけでが1日終わってしまいましたとさ。
56日目終了。




