42日目
遺体を片づけるのに丸々5日かかった。
発見した展開式コンテナを船外にくくりつけ、そこにまとめて安置したのだ。
さすがにあの数の遺体と一緒に船内で過ごすのはご遠慮願いたい。
さて、こうなってしまうと後は機械いじりのお時間である。
漆黒の宇宙空間での作業が始まった。
かすかな星の光だけが頼りである。
「うわ。こりゃバラすしかないわ。ちょっとそっち持って」
『分かった』
船殻から、何トンもある装甲を剥す2人。
慣性があるから人間がやるならパワードスーツが必要な作業であるが、宇宙戦艦には関係ない。
外された装甲が無重力の宇宙空間をふよふよと流れて行く。
「ひゃぁ、凄い古い型。こんなの触った事ないよ~」
アテナは実習で核融合炉の分解と再組立てをしたことはあるが(宇宙都市などで緊急時に核融合炉を停止・修復するのも軍の任務の1つである)、流石にここまで古い型ではなかった。
一体何年前のものなのか、コンピュータ類も停止しているためいまだに不明である。
こんこん
例によってレーザーセンサーを用いたエコロケーション。
が。
「……アカン、こりゃ流石に専用機器がないと無理ね。弓張月、超音波検査機取って」
『はい、どうぞ』
真空吸着で船体に張り付けてある工具箱には、船内で発見した工具類が満載だ。これ一つとっても遭難生活中ではお宝である。
弓張月から超音波検査機を受け取ったアテナは、丹念に内部状態を調べて行く。
「……しっかしでっかいわねえ……」
『昔は核融合、こんなに大きな機械じゃなきゃできなかったんだね……』
宇宙戦艦の核融合は非常にコンパクト化されている。血液中で常温核融合に必要なミューオン触媒を生成できるのだ。
ミューオン触媒は非常に寿命が短く、触媒を作り出すのにかかった以上のエネルギーを得るのには高度な技術が必要とされる。
この船の場合、粒子加速器らしきものもあり、下手をするとそれでミューオン触媒を作っていた可能性もある。
「いまどき核融合炉にこんなデカい粒子加速器って……」
『効率悪いどころの騒ぎじゃあないね』
延々と検査機で調べて行く。
「……これかな?」
『うん?アテナ?見せて』
検査機の画面を横からのぞき込む弓張月。
『……微妙だね』
「結局さらにバラさないと駄目かぁ」
『まあ、その前に、他の場所も調べないと』
「こりゃ損傷個所調べるだけで何日かかるかなぁ」
結局エンジンの1ブロックも調べきれないうちに、その日の作業は終わる。
『でも、できる事があるっていいよね』
「ほんとそれよね」
2人は久しぶりに、毛布にくるまって寝た。
この毛布を残してくれた、船の住民たちに感謝しながら。
42日目終了。




