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35日目

丸々1週間を天体観測に当てた。

謎の救難信号だけではなく、2人の五感で可能なあらゆる情報が収集され、星系内の情報自体も相当に蓄積している。

そして、その結論は―――

「かなり近い……この星系の中よ」

『とはいえ、100光日、か……ほぼ最外縁じゃないか。通常航行じゃ無理だね。どうする?アテナ』

例によって強化現実を利用して視界に表示した概略図を見上げるアテナと弓張月の二人。

地球が存在する太陽系を例にとると、星系とは、惑星だけでも

水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、……と続く。

太陽系は実は、惑星がかなり豊富な方ではあるが、ヘヴリング=ウズとバーラのあるこの星系も結構な数の惑星・準惑星・小惑星・彗星などが点在している。

その広がりは、たった2人の観測ではとても把握しきれないほどだ。

天体観測に必要なのは第一に数。そう。数である。質は二の次。…とまではいわないが、数の方が圧倒的に重要なのは間違いない。

いかに宇宙戦艦少女たちの観測能力が優れているとはいえ、石油時代、協力し合って宇宙を見上げていた天文学者たちにも負けている。

とはいえ。

アンテナがみつけた救難信号の位置は、この星系内、100光日以内という距離であった。光速で三か月強。これなら少女たちの手が届く場所だ。


「超光速航行なら余裕で行って帰れる距離ね」

『2人いるから、行きと帰りの跳躍を分担してやれば体力の消耗も最小限にできる。できすぎだよ、これは……』

「けど、行けるなら放置するわけにもいかないしねぇ」

救難信号を受信したのなら、それが可能な艦船が救助に当たるのは義務である。

そして現在のアテナと弓張月にはそれが可能であった。

実際に相手が生きているかどうかはさておき。

「……行こっか」

『だね。見捨てるという選択肢はない』

例え見つかるのが死体の山だけだとしても行かねばならない。それに、使えるものが残っている可能性は十分にある。

やってみる価値はあった。


超光速航行は、現在の技術では使い捨てのデバイスを使用する方法しかない。

宇宙戦艦にはそれを生成する器官があり、必要に応じて取り出して運用する。

宇宙には位置エネルギーが同じ地点が複数存在する。

その場所は天体の位置の変化に応じて刻一刻と変わり、一瞬たりとも同一であることはない。

詳細な天体観測と強大なマシンパワーで目的地の天文情報を把握し、現在地と近似した位置エネルギーのポイントを予測、それを元に、こちら側の質量の存在を停止させることで、跳躍先に存在を移動させる手法こそが超光速航行であった。

簡単にまとめる。

超精密な計算によって、目的地に通じるトンネルが開くのを待ち構える事こそが超光速航法だ。

この航法はごく微細な誤差は許容される。量子論的な揺らぎによって誤差が吸収されるためである。

なので観測精度が完璧でなくても跳躍は可能だ。

『時間だ。準備はいい?』

「いつでも行けるわ」

アテナの手には超光速チップ。反対側の手は弓張月の体を抱きしめている。

計算ではじき出した時間よりほんの少しだけ早く、チップを投じる。

チップは時間ちょうどに空間のゆがみを広げ、二人を飲み込み、そして唐突にすべてが消えた。

後には何も残らない。



35日目終了。

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