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春告!~目覚めたらアイドル!うっかり魔法少女!え?悪役令嬢ってなんですか?~  作者: さぁこ/結城敦子
11月~アイドル活動、異常あり!?~

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 めごの突撃! アポなし学園祭乱入ライブは、近所の大学界隈で有名になりました。

 ステージの隙間で『春告娘はるつげガールズ』として歌い、学生スペースの一角を借りて、特典会をしました。

 無料でステージをしてくれる、ちょっとだけ有名なアイドルグループの申し出は、徐々に浸透して行って、門前払いをくらうこともなくなっていきました。

 蕗ちゃんとマリリンが、他大学に進学した高校の同級生に話を通してくれたことも大きかったはずです。

 あの二人が、松田と竹井よりも、見るからにコミュニケーション力が高く、実際、その通りで、交友関係が広いうえ、その友達もそんな性格の人が多かったので、学祭実行委員率も高かったのです。


 途端に忙しくなった週末を抱えながらも、私はもう一つの計画の準備も同時に進めていました。


 それはあのミス・バタフライを使った人形劇です。


 『春告はるこく』の攻略キャラたちが協力してくれたので、楽かと思いましたら、操演、歌の練習、そして、招待状の発送をしないといけなくて、大変でした。

 主催者権限で、凪子ちゃんも呼びましたわ。

 梅花谷邸で行われるささやかなパーティーで、招待客は使用人の家族や会社関係の子供たち……凪子ちゃんの父親は、梅花谷グループの社員ですから、資格はあります。

 

 みんなで、お菓子を食べて、人形劇を見るの。

 なんて楽しそう!!!



「なのに、どうしてこんな脚本ほんなんですの?

子供がトラウマになります!!!」


 脚本担当をかってでた大湊長束の台本を読んで抗議の声を上げました。


 ミス・バタフライを主役に使ったお話は、『鉛の兵隊と踊り子人形』という童話を基につくりました。

 原作とは違い、踊り子のミス・バタフライの方が鉛の兵隊が大好きという設定です。

 美しい二体のミス・バタフライは、いつも鉛の兵隊に向けて、踊ったり、歌ったりして、アピールしながら、張り合っていました。

 もう一体の、ミス・ブス・バタフライも、同じですが、やることなすこと、ピント外れの滑稽なことばかりして、人々の笑いを誘います。

 

 全体的に、三体のミス・バタフライが鉛の兵隊を巡って、あれこれするドタバタコメディになるはずだったのです。

 そこまでの脚本は、字で読んだだけでも、思わずクスリと笑ってしまうほど出来がよく、トキムネさんらしからに軽快でコミカルな音楽も相まって、爆笑間違いなしの、子供が喜ぶような舞台になっていました。


 しかし、長束の脚本では後半、雰囲気が一変します。


 鉛の兵隊が徴兵されてしまったのです。


 持ち主の男の子が、隣の家に住む男の子と戦いごっこをするのに、自分の少ない兵力を少しでも補おうと、それまで見向きもしなかった古い鉛の兵隊を棚から持っていってしまったのです。

 それでも、夕方になれば、帰ってくるはずでした。

 

 隣の家に住む男の子たちは、お金持ちの子供で、立派なおもちゃをたくさん持っていました。

 鉛の兵隊を見て、古くて格好悪い、と馬鹿にしたのです。

 それを聞いた持ち主の男の子の恥ずかしさと悔しさは、怒りとなって鉛の兵隊に向かってしまいました。

 わざとそれを隣の家に忘れていってしまったのです。


 それを知ったミス・バタフライたちは、三人力を合わせて、隣の家に侵入する鉛の兵隊の救出作戦を開始しました。

 ここでも、ミス・ブス・バタフライは、余計なことをしては、三人を危険にさらしたり、あるいは、助けたりと活躍します。

 子供たちが、その度に、ハラハラしたり、ミス・ブス・バタフライの行動に怒ったりするのが目に浮かびます。

 物語は、再びコミカルに戻るのです。


 ようやく元の家の棚に戻って来て、喜ぶ鉛の兵隊とミス・バタフライたち。


 ですが、その瞬間、悲劇が訪れます。


 なんと、戻ってきた鉛の兵隊を見た男の子が、怒って、それを暖炉の火の中に投げ込んでしまったのです!


 鉛の兵隊は見る見る間に溶けていきました。

 灰の中に残ったのはハート型になった鉛の塊でした―――。



 って、悲しすぎるでしょう!!!

 涙がさっきから止まりませんことよ!



「子供にはこういう不条理な物語がいいんだよ。

阿吽ジャーのメイン脚本家の人が言ってた。

心に残るだろう?」


「残るどころか、ズダズダですわ。

みんなで仲良くいつまでも幸せにくらしました、では、なぜいけないの?」


「教訓も込められているんだ。

おもちゃは大事にしないといけないって。

物にも心があるんだよって、教えたいんだ」


 長束の言葉に、ヨウくんを思い出しました。

 長い間、モモカさまの子供部屋に大切に、とはいえ、半ば忘れられていたミス・バタフライを抱いて、彼は言ったのです。

 

 「放ったらかしにしていたのに? いらないんでしょう? 飽きちゃったんでしょう?」


 それを聞いて、今回の人形劇も考えたのです。

 

「そうね……仕方が無いわね……これで行くわよ!!!」




 パーティーは、十一月二十五日に行うことになりました。ちょうど、この世界での勤労感謝にあたる日の近くだったので、使用人たちへのパーティーには相応しい日程ですわね。

 昼間は学祭だったので、疲れていましたが、子供たちの期待に満ちた目を前にすると、気持ちが引き締まりますわ。


 

 劇は楽しんでもらえたようです。

 ミス・ブス・バタフライへの声援が大きかったのは、予想外です。

 こんな早とちりで、余計なことを言ったり、やったりするキャラなのに、子供たちは嫌いになったりしません。

 次第に、ここが笑い所の失敗シーンでも、笑いが出なくなってきました。

 真剣に、ミス・ブス・バタフライのことを心配して、自分のことのように受け取ってくれたからです。

 なんだか、不満そうだった顔のミス・ブス・バタフライも嬉しそうで、段々と活き活きとした表情に変っていくようです。


 男の子が鉛の兵隊に怒りをぶつけるところでは、ブーイングすら起きました。


 長束の脚本、トキムネさんの音楽、常成の作った舞台装置、久延さんの演出、マサムネの照明……これら全てが相まって、子供たちは舞台の世界に入り込み、すっかり感情移入していたのです。


 そんな中、あの悲劇的な最後をするには、気が引けましたが、こうなったらもう変更はききません。


 鉛の兵隊が戻って来て、三体のミス・バタフライは喜びの歌と踊りを舞います。


 子供たちの顔にも、安堵が浮かびます。


 けれども、その時間がきました。男の子役の小田原が、鉛の兵隊を掴むと、暖炉に投げ込みます。

 

 悲鳴があがりました。


 



 その時です、思いもかけぬことが起きました。


 千草の操っていたミス・バタフライが鉛の兵隊を追って、自ら身を投げたのです。


 私も愛も唖然と見るしかありませんでした。


 火の中に入った……とはいえ、実際の火を使っていた訳ではないので、燃えたりはしませんでしたが、メラメラと炎の包まれる鉛の兵隊とミス・バタフライ。


 咄嗟に、裏で、ナレーションをしていた長束が、台本を変更しました。



「ミス・バタフライは、鉛の兵隊を一人には出来ないと、彼を追って、火の中に飛び込んでしまいました。

彼女の鉛の兵隊に対する愛は、それほど強かったのです。

二人は一緒にハートの塊となって、天に召されました。

おわり」


 部屋に沈黙が流れました。

 

 後ろで見ていた大人たちが拍手をしました。

 まばらな拍手は、次第に大きくなって、最後は、一応、拍手喝采で終わりました。


 女の子たちは、泣いていました。

 ヨウくんは、あまりの出来事に、顔がこわばっていて、能面のようです。

 その姉も、無表情で、暖炉の中に落ちたミス・バタフライを見つめていました。


「千草、どうしたの?」


「―――ずっと人形を操っていて、手が疲れた」


 それで落としてしまったというのです。

 仕方が無いですわね。

 おまけに、そのおかげで、物語に深みが出た気がしないでもないですもの。


 劇では、静まり返ってしまったパーティーですが、食事が出ると、子供たちは元気を取り戻し、騒々しいくらいです。

 そんな中でも、ヨウくんだけは暗い顔です。

 私と同じで、繊細な神経の持ち主なのですわ。


 凪子ちゃんも綺麗な男の子の元気が無さそうなのを見て、心配しているようです。


「モモカさま、あの子、なんだかとっても、寂しそうね」


 

 ああ、凪子ちゃん。

 この世界で、最初から、あなたは賢人だったわ―――。

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