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春告!~目覚めたらアイドル!うっかり魔法少女!え?悪役令嬢ってなんですか?~  作者: さぁこ/結城敦子
11月~アイドル活動、異常あり!?~

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 大学構内は広く、学園祭のせいでごった返していたので、迷ってしまいました。

 

『モモカさま……門が見えません……』


『松田が見えるわよ〜』


 鳥という形態を活かして私の頭上を飛んでいたモモカさまの声がします。


『えっ! どこ!?』


『あっち。あれはめごを探しているわね。

落ち込む女の子を慰めて、自分の株をアップさせようとしているのね……安易』


『ええ、あの愛にそんなの……』


『ひ……ひさのぶさーん!!!』


『?』


 愛がベンチに一人座っています。

 考え事をしているようで、周りの客引きの学生にも反応していません。


 その女の子を見る男が一人。

 久延さんです……それも本物の!!!


 仮面を外した銀髪赤目の敵幹部・紅です。


 今まさに声を掛けようと歩み寄った瞬間、愛が立ち上がりました。


「よし! 反省終り!

……チーちゃんの言う通り、みんな自分たちの学園祭を盛り上げようと頑張っていたんだもんね!

とにかく、今日のステージも頑張るぞ! えいえいおー!」


 人目をはばからず、拳を上げています。


 立ち直り、早っ!

 予想はしていましたが、ええい、もう少し悩みなさい!!!

 腹立つわ!!!


 紅も無表情に呆れていますわよ。


「モモカさん!」


 あ、見つかった!


「モモカさん、嬉しい! 愛のこと心配して探しに来てくれたんですね!」


 違います。

 今、自分自身で、心配無用ということを体現して見せて、どの口で「心配して下さい」なんて言いますの?

 そう言いたかったら、ちゃんとしっかり、悩んでみなさい!!!


『久延さんが行っちゃう! 待って!』


 モモカさまの悲痛な叫びに、愛への罵倒を辞めます。

 

 この男も、いい加減にしなさいよ!


 走って追いかけると、逃げ出しました。


『捕まえて!』


 鍛え上げられた、軽い身のこなしのモモカさまの身体で、猛然と追走します。

 いつ『力』を使って、姿を消されるが分からないので、悠長に追いかけっこは出来ません。


「ピーチ・あたぁあああっく!!!」


 助走を十分につけて紅に向けてタックルしました。


 ずさぁああああ。


 きゃあああ! 顔面から地面に激突してしまいました。

 モモカさまの麗しのかんばせが! 顔がぁ!!!


『構いませんわ! その代わり、その手を離したら、許しませんわ!!!』


「心得ています!」


 私は紅の足首をしっかり捕まえていました。


「『離せ!』」


 紅の音声は二重に聞こえます。普通に会話しているのと、モモカさまや久延さんと脳内で会話しているのが、同時に起きている感覚です。

 紅も、私の声とモモカさまの声が、二つとも聞こえるようです。

 性質が違っても、同じ木製の身体だからこそ、出来る技なのかもしれません。

 でも、紅もモモカさまも、本当の身体は生身の人間です。戻ってもらわないと!!!


『久延さん!』


「『モモカ……』」


 不意に、抵抗が弱まりました。

 モモカさまの顔を見て、口元が歪みます。

 笑ってる? なぜ?


「『鼻血が出てるぞ……』」


 嘘!

 いろんな意味で、動揺しました。

 まず、モモカさまの鼻から血が流れていると言う事実。

 そして、それを紅に笑われた屈辱。

 なのに、無表情のはずの紅の笑みが、思いもかけず優しそうだったこと。



 どういうことですの? 問い質す前に、お邪魔虫がやってきました。

 


「紅さん!」


「え……知り合い?」


 紅も『春告はるこく』の攻略キャラですものね。愛と接点を持つようなイベントがあったのかもしれません。


「はい。いつも、私を励ましてくれる、ファンの方です!」


「はぁ? いつも?」


『いつもですってー???』


 そんな頻度で会ってたという訳? 相談に乗ってもらった訳?

 まったく油断も隙もない子ね!

 モモカさまもお冠のようです。


 顔に傷をつけてまで捕まえたのに、愛の前にはしょっちゅう姿を現していたなんて……。


「紅さんが言ってくれることは、いつも正しいんです。

愛は先走りしすぎなんですよね、なんでも」


 てへっという感じで、頭を小突いて舌を出す愛。

 可愛いです。

 ただし、この殺伐とした雰囲気では浮いています。

 

 

「許せないわ……」



 心の声が出てしまったのかと思いました。

 口を抑えて、辺りを見回します。

 愛の視線は私ではなく別の人間に向いています。


 そこに居たのは、紅の同僚・銀。


 紅とは違い、仮面をつけた敵幹部の恰好をしています。


「私、あなた嫌い」「嫌い」「嫌い」


 感情が無いくせに、それを剥きだしにして襲ってきました。


 学園祭に訪れたお客さんが、突如、現れた蔦に悲鳴をあげます。

 しかし、その全てが愛一人に向かっていきます。


 愛はそれに対応すべく、『開花』します。


 きらめく桜吹雪の中から、桜の戦士・メゴが現れます。


「あなたの心をざわめかす! 桜の戦士・メゴ! 開花宣言いたします!」



「え! ちょっと待ってよ! あ! 紅が!!!」


 騒動に紛れて紅が逃げてしまいました。

 

『役立たずー! こうなったら、こっちでは役に立ちなさいよ!』


 モモカさまが光り輝き、私も『開花』します。


「ひゃっか……って、聞きなさいよ!!!」


 華麗に『開花』を遂げたのに、メゴと銀は、まったくこっちに見向きもしないで、技を繰り出しています。

 二人で白熱した戦いに、学園祭のお客さんや学生は、何か目新しいアトラクションが始まったのかと集まってきました。

 銀の技が愛に集中しているので、被害は出ませんが、それがいつまで続くかも不明です。

 このままでは、学園祭も中止になりそうです。そうなればステージにも出なくて済みそうですが、そうなったら、何度目かの突然の中止でしょうか。

 またブログにお詫びを書くのは嫌!

 

 愛を探していた松田と、松田を探していた北条も、その戦いを見ていました。


「モモカ!」


「あ、クエン!」


 構外で警戒していた白梅の戦士・クエンと漆黒の戦士・ガリュウも騒ぎを聞きつけたようです。

 春花の戦士が三人も揃ったのに、手持無沙汰です。

 なにしろ、敵と言っても、銀一人なんですもの。

 ビーの一匹もいません。仲間のはずの紅は、姿を消したまま、再び現れる気配もありません。

  

 銀一人が、愛につっかかっているのです。

 それでも目立つし、被害は出ています。地面がぼこぼこですわ。

 

「場所を変えたいな……出来ればもっと人のいない場所に」


 ガリュウの提案に、クエンが大学構内で学園祭が行われていないエリアを教えてくれましたが、そこに白熱する二人をどうやって連れていくのかが浮かびません。


 次第にお客さんたちも不穏に思ってきたようです。


『うーん』


『何かいいアイディアでもあるの?』


『まあ! モモカさま! 嬉しいですわ! 私に何かいいアイディアが浮かぶと思って下さいますの!』


 では期待に応えて、やってみましょう!


『な……何を?』


「モモカ! 何を考えた!? やる前に、まず俺に説明を……」



 構えます。

 人が大勢いるので、恥ずかしいですが、ここは頑張りどころです。


 片手を高々と上げ、クルリと回ります。

 それからその手を前に差し出し、唱えました。


「桃源郷、幻想!」


 光が溢れ、辺りが白く一転しました。

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