67
SENGOKUの解散宣言に絶叫したのは、私だけではありませんでした。
当然ですわ。
そう、当然の反応ですわ。
それどころか、私なんて、まだ大人しい方でした。
ファンの女の子なんて、阿鼻叫喚の有様でした。
すぐに、不穏な噂がネットを駆け巡りました。
『SENGOKUの解散の陰には女がいる』
『マサムネさまとトキムネさまが、その女を巡って仲違いをした結果、解散することになった』
『その女は、以前、コンサートで歌を歌ったアイドル―――』
「愛のことじゃないのーーー!!!」
「噂だけど、これはよくないね。しかも、当たってる……」
小田原も深刻な顔をしています。
今日は、先日断念した、ネット配信番組の収録に再び、梅花谷邸に面子が集まっていました。
噂の本人は、今回はちゃんとやって来て、千草に謝っていました。
いつもはクールで、ダンスしか頭になく、他人の動向なんか気にもしないわ、といった千草が、今回のことでひどく怒っているようなのです。
あの子は、なんだかんだ言って、踊るのが大好きなようなので、その機会が狭まっているのが、とても嫌なのでしょう。
おまけに、『SENGOKUを解散に追い込んだ女がいるアイドルグループ』なんてことになったら、ますます、人前に出られなくなりそうです。
少し知名度が上がったせいで、以前の騒動の時よりも、批判が集まりやすくなっているのもいけませんわ。
それを危惧しての、マサムネの決断でしたが、ファンだってそうは簡単に諦めきれるものではありませんわ。
私だって、モモカさまに恋人が出来て、それがうだつの上がらない下っ端男だったら、「騙されていますのよ! 考え直して下さい!」と注進したくなります。
ファンたちの絶望や悲しみ、憤怒や苛立ちと言った感情の動揺に、『奴ら』が反応しないはずがありません。
各地で、自らの感情の波に疲れ果てた女の子たちを狙い、ビーたちが活動しはじめました。
その為、ネット配信番組を無事に収録するために、収録時間中、もし襲撃があった場合、久延さんが一人で戦うことを買って出てくれました。
『力』だけで言えば、白梅の戦士・クエンに勝てる敵はいません。
しかし、どうも最近、敵も増強してきているようで、複数の場所に一度に出る、という戦法をとられてしまうのです。
これは困ったことです。久延さんは一人しかいないのですから。
そういう時に限って、ビーは出てくるし、収録はおすものです。
私と愛が焦って集中出来ていないせいもあるのでしょう。
千草が……ここでも千草が不満を述べます。
それは難癖ではなく、真っ当なことです。
ダンスのタイミングがおかしいとか、息が合っていないとか。
いちいちもっともなことを指摘され、何度も撮り直しました。
いつもと違って、弟さんが近くにいるおかげで、早く帰りたいという気持ちがなくなったのかもしれません。
そう、今日もヨウくんは梅花谷邸のモモカさまの子供部屋で遊んでいました。
人形が気に入ったようです。
アイドル・『春告娘』の活動としては、正しい姿です。
けれども、魔法少女・『春花の戦士』の活動としてはやりにくいことは正直、否めません。
普通、こういう場合、アイドルグループと魔法少女グループの構成員は一致するものだというのに……なぜか、千草ではなく、男の久延さんが『魔法少年』として『開花』してるんですものねぇ。
三人組みで、一人に隠し事をしているのも気になりますわ。
ああ、もどかしい。
久延さん、大丈夫かしら?
折角、千草も納得するダンスが出来ても、不慣れな小田原のせいで、録画出来ていない! というトラブルまであって、最終的に日が暮れるまで、スタジオ代わりのレッスン場に籠っていました。
さすがに、ヨウくんが不機嫌になっていました。
「ヨウを一人で放ったらかしにしないで」
顔色が一層、青白く見えます。そのせいで、両手に持っているミス・バタフライよりも、ずっと、お人形さんのような風貌になっています。
モモカさまに聞いたのですが、ヨウくんが気に入った蝶々の羽をつけた美しい女の子のお人形さんが、そういう名前なのだそうです。
小さい頃、大流行したお人形さんで、お父さまとお母さまが、それぞれ、モモカさまの為に買い求めてきたので、二体あるのですって。
『入手困難の人形を、やっとのことで手に入れて、娘の元へ得意気に持って行ったら、かぶっちゃったのよ』と楽しそうに話してくれたモモカさまの、幼少の頃のお気に入りの人形ですわ。
「ヨウ、一人は嫌い」
その美しい人形とそっくりの乾いた瞳が、ガラスのように透き通っていて―――とても綺麗。
「ごめんね、ヨウくん!
休憩、挟めば良かったね」
愛が慌てて謝罪しました。
私もお茶を勧めます。
本当は、久延さんが気になって仕方がありませんでしたが、だからと言って、こんな状態のヨウくんを追い出すように帰すのは気が引けますわ。
元はと言えば、私と愛が不甲斐ないせいなのですもの。
モモカさまはそういうお考えではなく、『早く帰して! 久延さんの所に行くの!』とせっつきます。
恋する乙女には友情よりも愛、ですわ。
ここでも、板挟みだなんて……百花、困っちゃう!
『ふざけたこと言ってないで、行くわよ! モモカがそう決めたんだからねっ!』
決め台詞まで出てしまったら、従わないといけません。
幸い、千草はヨウくんの機嫌と体調が悪そうなのを見て、彼女はすぐに暇乞いをしました。
「お人形を使いすぎて、疲れています。
もう休みましょう」
私たちがどれだけヘトヘトになっても、ダンスに妥協しなかった女と同じ人間とは思えません。
ヨウくんはそれでもまだお人形で遊びたいようです。
「この子たち、ちょうだい」
可愛い顔でおねだりされたら、ホイホイとあげたくなりましたが、それはモモカさまの大切な思い出のお人形なので、決定権はありません。
「ごめんなさい。それはちょっと……」
「放ったらかしにしていたのに? いらないんでしょう? 飽きちゃったんでしょう?」
責められているようです。
お人形さんが好きなヨウくんには、子供部屋に置き去りのこの子たちがそう見えているのです。
なんて、純真で、素直な子!!!
「ヨウくん! 私、これからはもっとこの子たちと遊ぶわ!」
「……」
『ちょっと……どうして、そういう思考に至る訳?』
『ですって、確かに、あんな立派な舞台とお人形さんを使わないなんて、もったいないですわよ。
使用人の子供達を集めて、あの綺麗な人形を使ってお芝居をしたら、きっと喜ぶと思います。
パーティーをしましょうよ!
まぁ! 自分で提案してなんですが、とっても素敵なアイディア!』
『いつからそんな子供想いになったのよ!』
『……あ……阿吽ジャーショーのあたりから……ですわ……』
ヨウくんから、半ば強引にミス・バタフライを取り上げます。
人形は、ずっと幼い男の子が持っていたと言うのに、やけにひんやりとしていました。
疲れているヨウくんの為に、車を出すと申し出ましたが、あっさり断られました。
幼い弟の手を引く姉の後ろ姿を見ていたら、『はーやーくー』とモモカさまに急かされてしまいました。
ビー襲撃の現場に行くと、ヘトヘトになった白梅の戦士・クエンがやっとのことで立っている状態でした。
「大丈夫ですかぁ!」
すかさず愛がすがりつきます。
ちっ! 本命じゃないくせに、慣れ慣れしいですわ!
『本当! なんなの! 久延さんにベタベタ触らないでよ!!!』
『愛は距離感が無さすぎますわ! 精神的にも、物理的にも!!!』
憧れの愛ちゃん〜に、密着されて、デレデレするかと思った久延さんも、さすがにそんな気力すら無いようです。
「遅い……どうして?」
『千草がこだわったのですわ』
モモカさまが久延さんに答えると、意を得たように彼は目を瞑りました。
何? なんなのですの?
二人で通じ合っちゃって!!!
遠くに紅の姿が見えました。
ちょっとー!
本物の久延さん!
モモカさま、偽物の久延さんに、盗られてしまっても知りませんわよ!
こんなに素敵で一途な女性、あなたにはもったいないくらいだというのに!!!




