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春告!~目覚めたらアイドル!うっかり魔法少女!え?悪役令嬢ってなんですか?~  作者: さぁこ/結城敦子
10月~歌って!踊って!戦うアイドル!?~

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 無事に白加賀邸から生還した次の日は、早速のテレビ番組の収録です。

 阿吽ジャーを制作しているテレビ局で放送している歌番組です! 純然たる歌番組ですわ!

 深夜帯の放送ですが、全国ネットです。


 私もめごも気合が入っています。

 一人、千草だけは通常運転です。

 まぁ、この子は分かりにくい子なので、もしかしたら内心、大喜びしているかもしれませんが。


「収録終わったら、アイスを食べに行きませんか?

この近くに、美味しいジェラート屋さんがあるんですって!」


「あら! いいわね!」


 どこでそんな情報を仕入れてくるのか、愛は、やたらアイスを売っているお店に詳しいです。


「俺も行きたい!」


 すっかり関係者気どりで随行してきた久延さんが入ってきます。

 お断りしたい所ですけど、私と久延さんはドル友ですものね。

 ドル友……ついに出来たアイドル友達……でも、微妙に納得出来ない気持ちはどうしてでしょう。


「チーちゃんも行くよね!?」


 愛がスキップ寸前の足取りをしつつ、スカートを翻し、クルリと千草を振り返ります。

 大きなスポーツバッグから子牛のぬいぐるみの顔だけ覗いています。

 今日も絶好調に可愛らしいアイドルっぷりですこと!

 思わず出来たばかりのドル友とアイコンタクトをしていました。

 久延さんの瞳にニッコリ同調の色が浮かびます。

 うん、いいわ。やっぱりいい! ドル友! 最高!


『単純……』


『モモカさまも一緒にアイドル話で盛り上がってくれればいいのに』


『嫌。お断りよ!』



「嫌」


 千草もお断りのようです。


「ええ〜なんで? 行こうよ」


 食い下がる愛に私は言いました。


「おやめなさい」


「へぇ!? モモカさんはチーちゃんとアイス食べに行きたくないんですか?」


「行きたいけど……千草にはまだ小さな弟さんがいるのよ」


 阿吽ジャーショーで会ったヨウくんです。

 大人しい男の子でしたわ。


「とっても可愛い子だったわ。

きっと早く帰ってあげたいのよ」


「……! チーちゃん弟さんがいたんですか!

知らなかった! 

え〜、なんでモモカさんは知ってるんですかぁ!」


 頬を膨らませた愛に責められました。


「うふふ。この間、紹介してもらったのよ。千草に!

いいでしょう〜」


 優越感ですわ〜。


「なんで、なんでチーちゃんずるい!

私も友達じゃないの!!!」


 批判の矛先が千草に向けられますが、案の定、無表情です。

 あら、ちょっと困ったようにも見えますわね。


「別に関係ないでしょ……」


「関係なくない!

あー、でも、それなら納得……私も弟がいるから分かるもん。

両親が働いていたから、学校から急いで帰って面倒を見ていたの。

……そうだ! 今度、連れておいでよ。

一緒にアイス食べにいこうよ! ね?」


「―――いや……」


 千草にしては力無い拒否が返ってきました。

 もう少し、押せばいい返事がありそうです。


『悪くない傾向だけど、今日はこれ以上は止めた方がいいと思うわ』


 モモカさまの忠告が聞こえていないはずなのに、愛も同じく「じゃあ、そのうちね!」と軽く濁しました。

 なるほど……友達の少ない私にはそこら辺の加減が分かりませんでした。

 個人的にも、もっと積極的に誘って欲しい気もしますけど、モモカさまが止めるのならば、それが正しいのでしょう。


「なんならヨウくんにアイスをお土産に買って行ったら?」


「アイス……好きか分からないから」


 弟の好きな食べ物が分からないなんて変な姉ね。

 それとも本当に迷惑がってる!?

 いや、まさかアイスも食べられないような家庭環境で、そこから脱却するために、アイドルで稼ごうとしているとか!?


『おーい。妄想の世界から帰ってきなさいー。控室についたわよー』


 はっ!

 モモカさまのお声掛けがなかったら、控室の扉にぶつかる所でしたわ。

 久延さんが思い出したように、扉を開けます。

 あの気の利く使用人とは雲泥の差です。


「ねぇねぇ、アイスを弟さん……ヨウくん? に買っていってあげたら?

そうしたら好きかどうか分かるわよ。

男の子って、ちょっと難しい所があるから大変よね」


 こちらはどういう妄想に至ったのか、愛が千草に提案していました。


 

 控室は清潔で、お弁当も用意されていました。

 しかし、食べるのは躊躇されます。

 部屋中を検査し、何も悪戯されていないことを確認してから、持ち込んだ食料を差し出します。


 二人には怪訝な顔をされましたが、梅花谷邸の料理人の腕を熱弁して、無理やりそちらを食べさせることにしました。

 お弁当は小田原に持たせます。

 

「やぁ、嬉しいね」


 意外と喜ばれました。

 魔法界の騎士も、こちらの世界では単なる独身男子。

 毎日の食事の用意に困っていたそうです。

 思わず「自炊なさい!」と口にしてしまいました。


 「カレーとかは作れるようになったんだけどね。ほとんど近所の食堂に任せきりだよ」とのことです。

 そして、売れないアイドル(失礼な!)のプロデューサーをやっているので、お金もあまりないそうです。

 しかし、その安いという食堂のメニューが、やたら美味しそうなものばかりで、行きたくなりましたわ。


「小田原ばかりズルイ!」


「そうかなぁ? モモカがブログにあげている料理の写真を見ては、いつも美味しそうだと思っていたよ。

なんとなく私たちの世界の料理に似ているし」


「まぁ!」


 来たところは違うものの、同じくこの世界に迷い込んでしまったもの同士、料理くらい分けてあげれば良かったわ。

 こうして思うと、私が梅花谷邸に来たのは幸運でしたわ。


「良かったわ。この私が一般家庭になんて馴染めるなんて、とても思えませんもの」


「そうかなぁ。俺は一般家庭を経験してみたかった……」


「はぁ?」


 ザ・庶民の中身のくせに、偽・久延さんがため息をつきます。

 

『そうかしら? 彼、わりと板についていると思いますけど』


『そうですかぁ?』


 言われてみれば、使用人の使い方が堂に入ってる気がしますわね。

 もしかして、良い所の家の息子なのかも。


「じゃあ、このお弁当は一般家庭を体験したい久延さんに差し上げますわ。

小田原! 良かったらうちのお弁当を一緒に食べましょう!」


「それもありがたいね!」


 きらりん! という笑顔が今日はうざくありません。

 同じくロケ弁当を抱えて嬉しそうな顔の久延さんもです。


 

 それから『春告娘はるつげガールズ』の出番まで、控室で随分、待たされましたけど、私の上機嫌は続いていたので、よいパフォーマンスを披露出来たと思いますわ。

 嫌がらせもなかったので、本当に良かったですわ。


 これを機に、もっと歌番組のお仕事があればいいですわね。

 ただ、観客がいないのは、残念です。

 少ないとはいえ、徐々に増えて来たファンのレスポンスは、私たちの歌に力を与えてくれると思うのです。

 それは愛も同感のようです。千草もなんだか生彩を欠いていたので、同じ思いなのでしょう。


 かなり時間がかかったせいもあって、千草はさっさと帰っていきました。

 それとすれ違いに、局内で仕事があったのでしょうか、守屋常成がやってきました。

 千草の後ろ姿を見送り、私に向き合います。


「あの子、どこに住んでいるの?」


「さぁ?」


 首を傾げます。


「小田原? あなた知っている?」


 プロデューサーならば連絡先を知っていて当然です。

 

「知ってるけど、こいつに教えるの? なんで?」


「あー、そうですわね」


 常成は『春告はるこく』の攻略キャラとして見知っていたので、つい心安くしてしまったのですが、アイドルである千草の住所を男に知らせるのはおかしい話ですわね。

 

「詳しくとは言わないよ。大体でいい……いや」


 そこで細身で長身の男は一旦、考えてから、ある地名を出しました。

 千草の住所はそこか? という質問のようです。

 小田原は首を振りました。「違う」

 

「そうか……じゃあ、やっぱり俺の考えすぎだな。

そうだよな……そんなこと、あるはずがないよな」


「どうしたんですかぁ?」

 

 考え込む攻略キャラにゲームヒロインが尋ねます。

 あら、フラグが立ったかしら?


「うん? 可愛い子ちゃん。

ちょっと気になることがあってね」


 真面目で地味そうなわりに、口調は軽いようです。

 

「気になること? チーちゃんですか?」


「あの子もだけど、弟さんのことだよ。君、会ったことは?」


「私はないです。

モモカさんは会ったんですよね?」


「そう言えば、君がいたね」


 再び、常成の質問がこちらに向かいました。


「あの時の写真持ってる? もし、持っていたら見せてもらいたいんだけど」


 ヨウくんと大湊長束ことアージャが一緒に撮った写真のことのようです。

 あれは千草のスマホで撮ったので、私は持っていません。

 そのことを告げると、残念そうな顔をされました。

 

 久延さんが「気になることって?」と問い詰めると、口を開きかけて止めました。


「もう少し、こちらで探ってみるよ」


 そう言う常成の顔は、物思いに深く沈んでいました。

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