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春告!~目覚めたらアイドル!うっかり魔法少女!え?悪役令嬢ってなんですか?~  作者: さぁこ/結城敦子
9月~アイドル、『開花』します!?~

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 自信満々で阿吽ジャーショーに向かいましたが、舞台の前に集まっている子供を前にしてたじろいでしまいました。

 数が違います。

 客数で言えば、夏フェスよりも多いとは言えません。

 が、半分以上が子供なのです。

 甲高い声の中に、時折、凄まじい泣き声が響きます。

 勝手が違います。


『どうしましょう。上手く出来るかしら?』


 あのお姉さんを軽く見てしまったことを恥じます。

 動悸が不純であれ、あの手腕はやはり見事でした。


『今更、何を言うの?

あれだけ大口叩いといて!!!』


 モモカさまから叱責を受けました。

 今日のイベントに、私はモモカさまだけを連れてきました。

 プロデューサーのくせに、小田原はついてこないのです!

 最低だわ! 仕事しなさいよ!!!


 愛もいないので、久延さんも来ません。

 

 孤立無援……。


『みんなひどい……』


『あら? あれは松田と竹井ではなくって?』


 しょんぼりしていたら、モモカさまが励ますように、肩の上でひとつ、跳ねました。


『あ! 本当だわ!!!』


 いつもとは違って、後ろの方に松田と竹井がいました。

 モモカさまの応援ではなく、彼らは阿吽ジャーショーが目当てなのですけどね。


 何しろ、阿吽ジャーをはじめとする、特撮ヒーローものは男の子たちの憧れですもの。


 二人がいても、ちっとも気が晴れません。

 すると、モモカさまは、今度はピョンピョンと肩の上で飛び跳ねました。


 まぁ、気持ちいいですわ!

 まるで肩を叩いてもらっているみたい!

 この生活、結構、肩が凝るんですの。


『何、馬鹿なこと言ってますの!

ご覧なさい!

凪子ちゃんですわよ!!!』


『えええ!!!』


 あのキラキラの可愛い凪子ちゃんが、こんな野生の王国みたいな男児の中に!? 

 目を凝らして客席を見ると、確かにいます。

 隣に座っている坊主頭の気の強そうな男の子が、おもちゃの武器を振り回しているせいで、当たらない様に身をすくめています。

 なんて乱暴な子! と思ったら、これまた見た顔ですわ!


 あのモモカさまの未来の親衛隊長ファンです!


 母親が男の子から武器を取り上げ、凪子ちゃんに詫びています。

 そう言えば、あの父親がいませんわね?

 一人で来たとは思えないので、もしかすると、あの男の子と仲良しで、一緒に阿吽ジャーショーに連れてこられたのかも。

 もしかしたら、私が来ると知って、率先してついてきたのかも!


『自惚れすぎかしら?』


『私もそう思うわよ。ブログでも、このイベントのHPでも『春告娘はるつげガールズ』のモモカが出演! と告知してありますもの。

凪子ちゃんならきっと、チェックしているはず。

……あなたもおかしな人ね。

『モモカさま』に関してはあんなに自信満々なのに』


 そう、凪子ちゃんに関しては、モモカさまのファンではなく、私のファンとして見てしまうのです。

 それは、彼女が外側だけでなく、中身も見抜ける慧眼を持っていると思うからです。


『あ〜あ、今日は阿吽ジャーとの撮影・握手会はあるけど、モモカさまとのは無いのですわよね。

直接話したいのに。

気がつかないかしら???』


 試しに舞台袖から手を振ってみます。

 立派な舞台は、かなり高く作ってあり、客席との間には空間と柵があります。

 子供たちと近くに接しないで済むと思うと、これは安心できます。

 いきなり上ってこられたら、あのお姉さんのようにやんわりと、しかし、毅然と制する自信はありませんもの。


 けれども、それが仇となって、凪子ちゃんとも遠く離れてしまっています。


 ぶんぶんと手を振ると、松田と竹井が気が付き、苦笑されながら、小さく振り返されました。


 ええい! あなたたちじゃないの!!!


 何、勘違いしているのかしら! 


 顔を顰めていたら、ようやく凪子ちゃんが気が付きました。

 慌てて、笑顔を作ります。

 いいえ、凪子ちゃんの嬉しそうな顔を見たら、自然と笑顔がこぼれます。


 モモカさまが後ろに回していたお守りを嘴で摘みあげます。

 それを見て、私も急いで、ポケットの中にしまっていた凪子ちゃんお手製のお守りを見せ、ちゃんと届いたこと、嬉しかったことを伝えます。


 言葉は交わさなくても、それだけで、十分、気持ちは伝わりました。


『凪子ちゃんを楽屋に誘いたいわね』


『―――気持ちは分かるけど、アイドルとファンのケジメはつけなくては』


『―――心得ておりますわ!』


 立ち上がって喜びの表現をする凪子ちゃんに、周りの子供たちが何事か、まさか阿吽ジャーが登場したのかと騒然となりそうになったので、引っ込みました。


 舞台からテレビ局内に設えられた控室に向かう廊下を進むと、凪子ちゃんと同い年くらいの男の子が佇んでいました。

 

 どこから迷い込んできましたの? 警備は何をしているのかしら?


 阿吽ジャーショーを見に来た子供ならすぐに追い出さないと。

 

『私が……!?』


『仕方が無いわね。他に人が居ないのですもの』


 子供の相手なんか、ほぼしたことはありません。

 泣かれたり、生意気な口を利かれたりしたら、腹が立ちそう。


 嫌々近寄りますと、違和感を持ちました。

 外に集まっている子たちとは全然、雰囲気が違います。


 陶器の様なすべすべで白い肌。

 大きな目。

 切りそろえられた髪の毛。

 上品な服。


 大人しい……というよりも生気がない表情。

 阿吽ジャーが大好きすぎて、ここまで潜入してくるようなタイプには見えません。


『子役の子かしら?』


 モモカさまも同じように思ったのか、そう呟きました。

 

 なるほど。この大人びた落ち着きは、そうかもしれません。 

 ここはテレビ局なのですから、子役の子がいてもおかしくはありません。


 そうならば、特に構う必要は無いと思います。


「こんにちは」


 有名な子役かもしれないので、挨拶はしておきましょう。

 小田原からも言われていました。

 テレビ局で会う人間はどこにどんな決定権を持つ、偉い人がいるか分からないから、みんなに丁寧に接しなさい、と。

 モモカさまは礼儀正しいご令嬢です。

 それに倣っている私も、当然のように礼節をわきまえています。

 いちいち小田原に釘を刺される必要なんて、ないのですけどね。

 そんなに心配なら、ついてきなさい! 

 何度目かのプロデューサーの仕事放棄に憤りながら、子役の前に腰を落とします。


 子供相手には目線を合わせたほうがいいそうです。


「…………」


 無言です。

 

 か、可愛くない!


 乱暴だろうと、大人しい性格だろうが、子供ってみんな同じですわ!

 きぃいいいいいい!!!


 そっちがその気なら、私だって容赦しませんわ!

 無視です!!!


『……あなたも子供っぽくってよ』


『けど、モモカさま!』



「鳥……」


 微かな声が聞こえました。


「その鳥……ちょうだい」


 ふわっと、子供が笑いかけました。

 背筋が寒くなるほど、綺麗な笑顔です。


「えっと……この鳥は……駄目だの。

お姉さんの大事な……お友達だから」


「友達……って?」


 モモカさまを肩から降ろし、後ろ手に隠します。

 何かしら? この子……。

 ちょっと気味が悪い?



「ヨウ!!!」


 聞き慣れた声がしました。

 もっとも、その調子は初めてです。


 何しろ、声の主は藤野千草だったのですから!


『『ヨウ???』』


 普段は物静かな千草が、僅かですが血相変える様子に、私とモモカさまは唖然として見るしかありません。


 千草は私たちに気が付かないのか、男の子の側に跪きました。


「どこに行ったのかと心配しました」


「ごめん。チー」


 あら? あらあら???

 二人は知り合いのようです。

 全体的にテンションの低さがそっくり。


「え! もしかして、二人は姉弟きょうだいとか!?」


 千草と男の子が振り向きました。

 並んでみると大きな目の形がそっくり!


「えええ! 千草の弟〜!!!

やだ! 可愛い〜〜〜!!!」


『さっき可愛くないって……』


『それは言わないで下さいな!

千草の弟だと思って見たら、可愛いですわ!』


『そうね。可愛い子だわ……初めて見る子ね……』


 さきほど、その身を要求されたことをまだ警戒しているのか、モモカさまは子供の手がより届きにくい私の頭の上に移動しました。


「弟……?」


 なぜか戸惑ったように千草が言ったかと思った瞬間、「そう……弟なの」と返事がありました。


「そうなんだー。

なんか嬉しい!

―――でも、どうして?」


 そう言えば、なぜ千草は弟を連れてここにいるのかしら?


 はっ! まさか! 


「えっ!? 嘘! 嬉しい!

私のことを応援しに来てくれたのね!!!」


「……っ?」


『はぁ???』


 私は思わず千草の手を取ってしまいました。

 小田原の付き添いも無い。愛も来ない。当然、久延さんも来ない。

 そんな中で、千草だけは来てくれた。


「ありがとう!!! すっごく嬉しいわ!!!」


 手を握ったまま、激しく上下に振ります。


「…………」


「それに弟さんまで紹介してくれるなんて。

ゆっくりだったけど、友情が育まれていたのね!!!」


「……友情?」


 照れ臭いのか、言葉少なめの千草を安心させるように微笑みかけます。

 分かっていますわ。


「弟さん、阿吽ジャーとか好き?

一緒に写真撮ってもらおう!」


 テンションが低いとは言え、この年頃の男の子なら、絶対に阿吽ジャーが好きに決まっています。

 凪子ちゃんは悲しいかな一ファンですが、千草の弟なら、関係者の親族です。

 楽屋に招き入れて、共演者を紹介するくらいの特権があってもおかしくありません。


 男の子……ヨウくんは千草の後ろに隠れようとしました。


「遠慮はいりませんことよ!

さぁ! 参りましょう!!!」


 手を握ると、ギョッとしたように後ずさりされました。

 うふふ。

 こんな綺麗で美しいアイドルのモモカさまに手を繋がれて恥ずかしいのね。

 分かるわ。

 よーく分かってよ!


『待ちなさいよ!!!』


 頭の上でモモカさまが叫びます。


『いけませんですか? 関係者の親族なら、問題ないと思いますが?』


『そうじゃなくって! 阿吽ジャーの中身は偽物なのよ?

子供にそれを見せてもいいの?』


『あ……』


 千草が応援に来てくれたことと、家族を紹介してくれた嬉しさに我を忘れていましたわ。


 一大事です!


 ひんやりと冷たいヨウくんの手を握ったまま、固まってしまいました。

 困ったわ! 子供の夢を壊しちゃう!!!

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