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春告!~目覚めたらアイドル!うっかり魔法少女!え?悪役令嬢ってなんですか?~  作者: さぁこ/結城敦子
4月~目覚めたらアイドル!?~

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5

「こんにちは、モモカさん。

お久しぶりですね。アイドルデビューしたとお聞きしました。ぜひ、ライブに招待して下さいませんか?」


 紳士的な態度で挨拶してくる久延ひさのぶさんに、私はニッコリ微笑みかけました。

 これくらいのことが出来なければ、アイドルなんて務まりません……いえ、令嬢も同じで、不愉快な人間に対しても、立場上、そうしなければいけないことも多いのです。

 ゲーム上では、「久しぶり」どころか、最近、会ったばかりのはずです。

 『春告はるこく』はモモカさまのデビューの少し前から始まって、その時点でナビゲーター役の『久』に出会っているのですから。

 よくもこんな素知らぬ態度を取れるものですわ。


「ありがとうございます、と言いたいところですが、私どもの夢のアリーナまでお待ちください。

特等席をご用意しますわ」


 おほほほほほほ、と付け加えてみる。

 モモカさまっぽいわ! この笑い方!

 いそいそとその場を離れようとしました。

 久延さんとはあまり関わり合いたくありません。今も微笑の裏に、底意地の悪いものを感じましたわ。この男は、モモカさまを凋落に追いやった私にとっては不倶戴天の敵なのです。見れば見るほど、おぞましい。

 おまけにのどかな春の日和だというのに、なぜか頻繁に制汗剤を吹きかけています。

 ゲームでは見たことのない行動です。

 そのゲームの初めて見たエンディングの後、あまりのことに茫然とスタッフロールが流れるのを見ていた私は、あるメッセージが画面に現れていることに気が付きました。


『梅は香り、桃は花咲き、桜は巡る』


 『梅』や『桃』と言った単語に、てっきり、モモカさまのその後が分かる特別なエンディングがあるのではないかと思い、いそいそと選択すると、今度はこのようなメッセージが表示されました。


『おめでとうございます! あなたが初めてこのエンディングにたどり着いた真実のめごです!』


 そうして、おまけとして、白加賀久延と愛が幸せそうに見つめ合う一枚絵と、木彫りの小鳥のアイテムがゲームシステムに加わったのです。

 思わず、ゲーム機をベッドに投げつけたのは、内緒です。

 物を投げるなんて、お行儀の悪いことをしたのは、生まれて初めてでした。

 でも、それくらい、怒り狂ったのも事実です。

 それからはとにかく、『きゅう』には近づかず、モモカさまの持ち曲を増やすためにゲームをしました。

 このゲームは何周かやり込まないと、新しい楽曲や衣装が出ないシステムになっていたからです。

 数は少ないですが、モモカさま専用の歌もあって、それがまたあの『恋、とおりゃんせ』のモモカさまver.でしたので、それを手に入れるために、何度もプレイしました。

 慣れたもので、その内、愛の恋愛を上手に潰すのも得意になりました。

 最初から無視をする、という方法もありますが、それでは面白くありません。下手をすると、攻略キャラが登場しなくなってしまうこともあります。それを上手く調整し、愛と攻略キャラが仲良くなった所を見計らって、相手に失望させる言動を繰り返しました。

 振られて落ち込む愛を見ると、清々しい気分になりました。

 残念なのは、アイドルとしての活躍と、変身魔法少女としての活動を疎かにすると、モモカさまが輝く世界まで失ってしまうことから、バッドエンディングを迎える訳にはいかないということです。

 そんな私のお気に入りのエンディングは、ファンの間で『メリーバッドエンド』と言われている、プロデューサーエンディング・タイプCです。

 デビューギリギリに愛を押し込んできたこのプロデューサーの正体は、魔法の王国からやってきた『異界』と戦う騎士でした。

 この世界での戦士を見つけ出し、『異界』と対抗するのが使命で、それには愛の歌声と踊り、心が必要で、アイドルにすることで、それを広く拡散させていたのです。

 その過程で愛との恋を育むのですが、人気アイドルとプロデューサー……週刊誌に写真を撮られ、大スキャンダルとなるルートがあるのです。

 愛はアイドルを辞めることになり、プロデューサー改め、魔法界の騎士に戻った彼と一緒に、そちらの世界に行って、結婚することになりました。

 幸せなことには変わりはないですが、アイドルの地位から失落し、この世界からいなくなって、モモカさまの邪魔をしないと思うと、私が経験した中で、これがベストなエンディングと言えましょう。


 一番駄目なのは、白加賀エンディング!

 あなたのエンディングよ!


 思わず、目の前に立っている男に、心の中で罵倒します。

 そんな心の声を知ってか知らずか、白加賀久延はモモカさまとの会話を止めようとしませんでした。


「大きな会場よりも、小さくて雑多なライブ会場の方が臨場感があって好きですね。

でも、特等席はいいね。整理券番号一桁のチケットをくれると嬉しいな。

にしてもモモカさんが握手会もこなすなんて、意外だねぇ。

昔、駄々をこねて私の祖父が監督する映画に出してもらえることになったのに、演技指導が嫌で逃げ出した子とは思えないよ」


 くっ……嫌味な人。

 あの愛が代役をすることになった、病気になった子役とはモモカさまのことなのです。

 白加賀エンディングでも、「モモカと違って、愛は一所懸命だったよ」と言われました。

 冗談じゃないですわ。

 モモカさまは愛と一緒に、毎日、レッスンに励んだじゃないの。

 どこ見て、何を言っているのかしら。


「あら、でもそのおかげで、愛らしい宝物を見つけたのではなくって?

モモカさま……こほん、私のおかげですわ」


「……なぜそれを?」


 あら、いけない。

 ここが『春告』の世界なら、モモカさまは久延がしがない芸能関係のスタッフなのも、愛の憧れの人が彼なのも、知らないはずでしたわ。

 ――えっ、ねぇ、ちょっと待って、ここ、本当にゲームの世界なの?

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