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春告!~目覚めたらアイドル!うっかり魔法少女!え?悪役令嬢ってなんですか?~  作者: さぁこ/結城敦子
8月~転落と栄光のアイドル!?~

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 今日はお見舞いではなく、戦略会議のために白加賀邸にお邪魔しています。

 おもたせは、みつ豆です。

 いいですわね、みつ豆。

 寒天はヘルシーな上に、食物繊維が豊富!


「体調はどうなの?」


 久延さんがみつ豆の上にたっぷりアイスクリームを載せて食べています。

 この男……食べても太らないタイプなの!?

 いいえ、年を取ったら、若い頃の無茶が祟るわよ。

 その時に後悔しても遅いんだから。


「私? とっても快調でしてよ。

おっほほほほほほほほほ!」


 病院に行って、溜まっていたものを全て出しましたら、とてもスッキリしました。

 身体も心なしか軽くなった気持ちもしますし、苛々も治りました。

 レッスンにも真面目に取り組むようになってから、嫌な夢も見なくなりました。頭痛もありません。

 心身共に健康って、こんなにも素晴らしいものですのね! 健康、万歳! 


 が、久延さんの「それは良かったね」、という労わりの言葉には困ってしまいました。


 初めて、と思うほど親切な言葉です。でも、あんな恥ずかしい所を見られたと思うと、嬉しいような……忘れ去って欲しいような、複雑な気持ちです。


『食生活も改めましたのよ』


 小皿に載せたミニサイズのみつ豆にご満悦なモモカさまが囀りました。

 あの使用人が、わざわざ寒天などをさらに小さく切ってくれたのです。本当に、あの使用人は使用人の鑑ですわね。


 さて、飛梅の子孫であり、強力な『力』を持つ久延さんの中身は、私と同じようにモモカさまと意思疎通出来るのでした。

 「周波数を合わせる感じだよ。使わない時は外して置く。うるさいからね」

 よく分かりませんが、そういうことらしいです。

 ともあれ、三人で会話出来るのは良いことですわ。

 いちいちモモカさまの声を翻訳するのは面倒ですし、その真意を上手く伝えられなかったら、申し訳ない事ですわ。


 みつ豆を半分ほど食べ終わった後、私はいよいよ本題に入ることにしました。


「私、好文百花こうぶんももかと申しますの」


「―――こ、好文!?!?」


 久延さんが驚きの声を上げ、私を見ました。

 嫌だわ……「もしかして……私のことをご存知ですの?」


「知ってる……と言うか、うん、知ってるよ! 君の家、有名じゃないか。

確か、議員一族の……好文家だよね?」


「え……ええ、そうですの、あの好文家一族の百花でしてよ。おっほほほほほ!」


 いけない。

 また、家柄を笠に着て威張ってしまいましたわ。

 

「で、あなたは?」


「―――俺? えーっと、なんというか、名乗るほどの者でもないと言うか。

きっと百花お嬢さまにしてみれば、目にも留まらぬ、卑小な者ですから」


 やけに愁傷になった久延さんは、やんわりと自分の正体を明かすのを拒みました。

 先に名乗るべきではありませんでした。

 大体、普通こういうことは男からすべきことでしょう。

 なのに、それをしなかった所を見ると、本当に、取るに足らない者のようです。


「そうですの? でも、私のことを知っているということは、同じ世界から来たのですよね?」


「ああ、『春告はるこく』がゲームの世界から来たんだよ。

橋から落ちてね」


 高砂さんの言った通りです。いうなれば、私は彼の召喚のとばっちりを受けてしまったのです。


 久延さんは高砂さんのことも知っていました。


「あの夏越なごしはらえのイベントの日、何かに呼ばれた気がして、茅の輪をくぐったんだ。

そうしたら、あの男の人が居て、俺にこれを渡してくれたんだ」


 そのおかげで、めごの役に立つ魔法少年になれた木彫りの鳥のアイテムを、久延さんは愛おしそうに撫でました。


「それで、突然、武道の訓練なんかしましたのね」


 で、見事にぶっ倒れましたわねぇ。


「―――聞こえてるよ。今、波長が合ってるんだから。

この身体、すごく使い辛いんだ。元の身体はもっと体力があった。

君はどうなの?」


「前の身体よりもずっと良いですわ!

モモカさまはきちんとレッスンをしていますので、体力も筋力も、俊敏さも、美しさも! すべてが私の上です。

ま、まぁ、ちょっと溜めやすい体質なのが、あれですが」


 思わずお腹をさすってしまいました。


『悪かったわね』


「そんな! 人間、欠点の一つもあってこそ、ですわ。

そういうモモカさまも大変、お可愛らしいです!」


『ありがとう』


 うふふ、とモモカさまと顔を見合わせました。

 あれから、私たちの関係は、前よりもずっと良くなりました。

 思いのたけをぶつけ合ったからでしょう。

 やっぱりモモカさまって素敵!

 それなのに、久延さんは大変失礼な言い草をします。


「君は本当にモモカ推しなんだね。あのゲームをやって、どうしたらそういう結論になった訳?」


「はぁ!? モモカさまほど素晴らしいアイドルはいませんのよ!

あなたには分からないでしょうけど!」


「―――そうだね。分からなかったよ……」


 綺麗な顔をした男がみつ豆の器に目を落としました。

 そうすると、長い睫が影を作って、愁いに満ちた美青年が現れます。


「と、言うことは、今は分かるってことかしら?」


「嫌味で嫉妬深くて、意地悪な女だってことは分かっていたよ。

そして、その事を本人が自覚しているのも知った」


 今度は不敵な笑みです。

 どんな顔でも、この人、外見だけはいいわよね。外見だけは……あ! いけない! 心の声、聞こえているんだった。

 心なしか、久延さんの目が細められています。

 この力、便利かと思ったら、不便かも。


 彼は、すっかり溶けたアイスクリームをいたずらに突いています。

 もったいない! 早く食べてしまいなさいな! アイスクリームは固形の内に食べるべきです!


 それも聞こえていたようで、久延さんは慌てて、みつ豆を食べ始めます。

 私も残りを頂きましょう。


 あー、美味しい。


「君はなんの悩みもなさそうだね」


「いちいち失礼な男ね!

あるわよ! 好文家の娘だからって、みんなちやほやするけど、本心じゃないって、知ってしまってから、私は……もう誰も信じられないの。

友達もいないわ。欲しいけど、どう声を掛けていいのか分からない。

仲良くなっても、私が怠惰で馬鹿な女だって知られたくない。

アイドル好きなのも、みんなに言えない……。

憧れの人も、遠くから見つめるだけ。

こんな太ってみっともない女、あの人の前に姿を見せるのも躊躇うの」


 薫君かおるのきみの姿を思い出しました。

 久々に頭痛がします。

 あの穏やかで静かな姿。

 恵まれた家に相応しい容姿に才能。

 すべてを持って生まれた人。


「……そうでもないよ」


「え?」


「あー……君はそんなに太ってないと思うよってこと。

見た事あるけど……太ってはなかったよ。

女の子は自分の体重に厳しすぎるよ。

ちなみに、モモカは痩せすぎ……」


『やめて! この子を甘やかさないで! やっと体重を減らし始めたのに!

また太ったらどうするの!

私はねぇ……太りやすい体質なのよ!!! 息してるだけでも太るのよ!

元の世界に戻ったら、好きなだけ食べればいいわよ! 好きなだけ太りなさいよ!

でも今は駄目! その身体を少しでも太らせてみなさいよ! 目玉突っつくわよ!』


 激怒するモモカさまを見て、久延さんは私に顔を寄せて囁きました。

 くしゃみがでそうなほど、梅の香りがします。

 

「よくあんな我儘なお嬢さまと四六時中、一緒に居られるね」


「モモカさまは我儘なんかじゃありませんわ!

志を高くお持ちなのです。

確かにモモカさまは細いですわ。でも、大部分は筋肉ですのよ。鍛え上げているんですの。体脂肪率がすっごく低いんですから!」


 それはもう、あの橋姫のように。六つに割れる寸前ですわ。あんまりムキムキだとアイドル的にまずいので、この程度で抑えているそうです。

 私の不摂生のせいで、だらしない体型になってしまったことを、今は心から反省しています。


「……君は……まぁ、いい。モモカも頑張ってるんだね」


「そうですわ! やっと分かって下さいましたのね!」


 久延さんにモモカさまのことを認めてもらうのは、自分のことのように嬉しいです。

 本物の久延さんにも、モモカさまの良さを知ってもらいたいですわ。

 愛は可愛いし、そりゃあ、一所懸命ですけど、モモカさまだって、同じくらい努力をしていると思いますの。


 それにあの盲腸の話!

 

 愛と白加賀久延が出会った、例の映画の撮影の時、病気でいなくなった子役の子とはモモカさまだったのです!

 みんな、監督の厳しさに逃げ出したと思っていますが、そうではありません。

 モモカさまは痛むお腹を隠して撮影に臨んでいたのです。

 久延さんの天才美少女子役としての最後の映画の為に、彼女は必死で演技をしていました。

 映画の役として、そして、健康な子役として。

 ですが、それも虚しく、耐えきれないほどの激痛で病院に運ばれ、そのまま緊急手術になってしまい、役は愛のものになり……そして、久延さんは愛に恋をした。


 ああ、お可哀想なモモカさま!

 

 真に正しいエンディングに向けて、私がお力になりますわ!

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