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春告!~目覚めたらアイドル!うっかり魔法少女!え?悪役令嬢ってなんですか?~  作者: さぁこ/結城敦子
7月~アイドルの夏は、大忙し!?~

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 ブログの炎上、女忠臣蔵の討ち入り、闇討ちのリスクを抱えながらも名を上げたおかげで、イベントは稀に見る大盛況となりました。

 あのフルパワーのリハーサルも効果があったと自負していますわ。


 ちょうど大事件も大事故も、人気俳優と女優の熱愛騒動や、大物俳優と若手モデルの不倫のようなくだらないスキャンダルもありませんでした。

 人語を解する犬も、高い所に登って降りれなくなった困った猫も、珍しい色の爬虫類も現れません。

 テレビ局的には話題がなさすぎた時期に現れたスター。

 それが『春告娘はるつげガールズ』だったのです。


 各局からの取材もあり、次の日の情報番組ではかなりの時間も割いてもらえそうです。

 ついに、『春告娘』はブレイクの端緒をひらいたのです。


 もっとも、私が舞台に登場して、話す度に忍び笑いが出るのは辟易いたしますわ。


 汚名挽回? 名誉返上? あれ、どっちだったかしら?


 と、とにかく、竹井のせいでモモカさまに染みついてしまったお笑い臭を、とっとと脱臭してしまわないと。


 そう思って臨んだ一曲目。

 ここでもやはり、嫌がらせが発動してしまいました。


 今回は私もモモカさまでも浮かばない類のものでしたわ。

 と、申しますか、普通の人間には出来ないようなものでした。

 

 魔法? 

 つまり、私に嫌がらせを仕掛けていたのは、そういう力を持った者なのです。


 なんて、呑気に推察している場合ではありません。


 蜂です! 蜂なのですわ!


 曲が流れ始めた瞬間、どこからともなく蜂が一匹、私の周りをうろつき始めました。

 大きな蜂で、羽音もブンブンと凄まじいものです。

 それなのに、周りの人間は、誰一人、気が付いた様子はありません。

 でもそれで良かったかも。

 こんな大きな蜂が居ると知られたら、大騒ぎになります。せっかくのイベントが中止になってしまいます。


 しかし、私は踊りながらも、つい、蜂から身を避けてしまいます。

 そのせいで、本来、恰好良いはずの振り付けが、奇妙な踊りに代わってしまいます。


 客が待ってましたとばかりに、指を差して笑います。

 蜂に刺されるよりも、その方が嫌!


 いえ、やっぱり蜂に刺されるのも嫌!


「何してるのよ」


 ダンスには定評のある千草が、立ち位置チェンジのすれ違い時に、冷たく言い放ちました。

 

 だって、蜂がいるのよ。

 どうしてみんな見えないの? なぜ私の側にばかりまとわりつくの?


 ショッピングモールで時間を潰したのか、女忠臣蔵たちの姿も後列に見えました。

 もしかしたら、リハーサルで興味を持ってくれたのかもしれない。


 このままでは折角上げたモモカさまの評判が落ちてしまいます。

 歯を食いしばり、視線を上げ、体勢を立て直します。

 

 もう、刺されてもいいわ。

 モモカさまが……私が……モモカさまが……人に笑われるのは耐えられない。


『何やっているの!』


 千草と同じような台詞。でも、千草とは違う。

 

 プラム姿のモモカさまが、果敢に蜂に突撃しました。

 観客にはモモカさまの姿は見えるようですが、可憐な小鳥が乱入して、アイドルの周りを飛び回るのは、絵的になかなか素敵ですわ。

 アニメのプリンセスみたい。


『―――意外に余裕ありそうじゃないの!』


 素早い蜂に苦労しつつも、モモカさまはそれを私の身から遠く離れた上空まで上手く誘導してくれました。

 おかげで、二曲目からは練習した成果を存分に出せました。

 頭上では蜂対小鳥の戦いが繰り広げられていますが、そちらに興味を向けるものはいません。

 みんな、『春告娘はるつげガールズ』の息の合った見事なパフォーマンスと、モモカさまの素晴らしさに見とれているに違いありません。


『モモカさま! 頑張って下さい!』


『無理……蜂なんて、大嫌いですわーーー!!!』


 嘴と翼で蜂の攻撃を躱しているモモカさまですが、疲れが見えはじめています。

 曲はまだ、三曲、残っているのです。

 どうしましょう。

 舞台も大事ですが、モモカさまを見捨てられましょうか。

 ああ、誰か助けて!


 

 その時、一陣の風が起きました。

 ショッピングモールの中の空調ではありません。

 初夏にもかかわらず春のような芳しい香りをまき散らし、風はモモカさまと見えない蜂に向かって、軽くつむじを巻いて上昇しました。


 梅の香りが鼻腔をくすぐります。


 きっと高砂さんだわ。

 そうでなかったら、こんな香りと力を使える人はいない。

 

 にしては、ちょっと乱暴な気もしますが―――。



『モモカさまぁああああああ!?』


『―――! 私は大丈夫……ですから、あなたは歌い続けなさい!!!』


 そう言い残して風に飛ばされていったモモカさまの意思を無下にしないためにも、私はさらに気合を入れて歌を披露しました。

 観客の『笑い』の質が変わったような気がします。


 そして、そのまま、特典会に入ってしまいました。

 モモカさまを探しに行きたいものの、ままならぬもどかしさに、仮病でも使おうかしら? と思いました。

 しかし、思いきれませんでした。

 これまでよりはるかに、握手を求める人がいたのですもの。

 「良かったよ」と声を掛けてくれる人も、何人もいました。

 嬉しい……アイドルって……人に求められ賛美されるって、こんなに素敵なことなのね。


 おまけに、初めてのリリースイベントの時に来てくれた、あの可愛い女の子が久しぶりに参加してくれていました。

 一瞬、つむじ風にさらわれたモモカさまを忘れてしまいました。


「モモカさま!」


「まぁ! よく来ましたわね!」


「うん! 新しいお歌、聞きにきたの」


 今日は『春告娘』の新曲に合わせてか、とても可愛いセーラー襟のワンピースを着ています。

 もう本当、この子って、とっても可愛い子だわ。

 モモカさまの後継者に相応しい。大きくなったらアイドルにならないかしら。

 そうなったら、私、全力で応援したいです。いっそ、二人でコラボなんかもいいわね。


「新しいお歌はどうでした?」


「とっても良かったわ! なぎこ、モモカさまのお歌、大好きよ」


 ……うん? 今、この子、自分のこと、なんと名乗りました?


「なぎこ……ちゃん? あなた、なぎこちゃんなの?」


「はい! なぎこです」


 なんということでしょう! この小さな賢者があのブログコメント常連さんだったとは。


「いつもコメントありがとう」


「わぁ! 読んでくれていたんですね。お返事がないから不安だったの」


 ごめんなさい。小田原からの指導で、個別にコメント返しが出来ないの。

 なぎこちゃんの小さな手を、代わりにしっかり握り返します。


「こら凪子、モモカお嬢様になんてことを!

我儘で申し訳ありません。

何分、まだ子どもでして……」


 付き添いの父親が平謝りしますが、とんだ勘違いですわ。

 凪子ちゃんは我儘ではありません。

 憧れのアイドルからお返事が欲しいなんて、当たり前の感情です。


「今日も、どうしてもイベントに行くと言って聞かなくて……ああ! モモカお嬢さまのイベントに行くのは大賛成なのですが……その……」


 梅花谷グループ社員の父親は額に大汗をかきながら、言い訳を始めましたが、娘の凪子ちゃんはただ純粋にモモカさまを慕っています。


「モモカさま? ハチ……大丈夫? 小鳥さんは平気?」


 やはり賢者の凪子ちゃんには『見えない蜂』が見えていたようですが、父親は、ここでも誤解します。


「蜂!? またあの化け物が!?」


 娘を抱きしめ、警戒するように周囲をみます。

 

 握手会の列で『化け物』とか叫ばないで下さらないかしら。

 周囲の人間が何事かと思うでしょうに!

 『ビー』と呼ばれる蜂型の化け物が出現する世界では、常に人々は心のどこかで不安を抱えているのです。

 昆虫の『蜂』ですら、そこに飛んでいたら大騒ぎになるのに、化け物となったら、手が付けられないほどのパニックになってしまいます。


 幸いにも愛との会話に夢中になっている次の男は気づかなかったようです。

 その男が小田原のはがしにも負けず踏ん張っているおかげで、凪子ちゃんとはまだ会話が出来そうです。


 「化け物?」と、怪訝そうに問い返すと、父親は自分だけがおびえていることに気づき、冷静さを取り戻しました。


「申し訳ありません。

娘はあの蜂のような化け物に二度も襲われているのです。

なので、あまり人が集まる場所に出したくないのです。

あの化け物は、大勢の人間がいる所を襲うそうですので……お許しください」


 凪子ちゃんがビーに襲われたのは、あのリリースイベントの時だけではなかったようです。

 なるほど、二回もあんな化け物にあったら、それは怖いですわね。


「以前は、あの桜の戦士・メゴさんに助けて頂きましたが、いつもそうとは限りませんので」


 隣の愛が、僅かに反応した気がします。

 『桜の戦士・メゴ』なんて単語が、壮年の男性の口から発せられるなんて、私には滑稽に聞こえます。

 おまけに、そこまで言ってるのなら、その正体が『めご』だって分かっても良さそうなのに。

 髪の毛の色は桜色になりますが、その他はあまり変わり映えしないというのに。

 

 まぁ、そこは百歩譲って『お約束』と理解しますが、ここでも愛、愛、愛、では正直、面白くありませんわ。

 だって、あの時、凪子ちゃんを助けたのは―――。


「お父さん、違うわ。

モモカさまよ。

なぎこを助けてくれるのは、モモカさまなのよ。

二回とも、モモカさまのお歌がみんなを助けたのよ」


 凪子ちゃんが言ってくれました。

 娘にシャツを引っ張られた父親も、私自身も驚きました。

 何がって……なぎこちゃんが『二回とも』と言ったからですわ。


 私がビーの襲撃に際して歌ったのは三回でした。

 その内の一回は高校でしたから、凪子ちゃんの言う二回の内の一回は……高砂さんに言われて初めて歌ったあの日……。

 つまり凪子ちゃんが、『私』の歌を聞いて、『モモカさま』のファンになったんだわ―――!!!

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